夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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11 風雪

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 今朝新聞とネットニュースをちらちら見て、晴也はやや他人事のように受け止めていたのだが、気温がぐっと下がり夜遅くに雪になる予報が出ていた。降雪に弱いメガロポリスは、晴也が昨夜とろけたりピリついたりしている間、交通機関の乱れをしきりに気にしていたのだった。

「今夜は残業せずに早く上がるように、今日先方と約束がある者はその辺調整すること、いいな?」

 崎岡が珍しく朝礼をちゃんと行い通達したので、営業課の室内はすぐにあわただしい空気に包まれた。晴也は特に急いで処理する仕事も無いので、通常運転で良さそうだった。
 昼休みになってすぐに、めぎつねとD5のグループに優弥から連絡が来た。

「天候の関係で、今夜開演と終演時間が前倒しになりました。10時半開始で11時20分に終わり、11時半過ぎには閉店したいと店長からお願いされちゃいました」

 晴也は惣菜店で買った日替わり弁当を開けながら、また厳しいスケジュールだなと思った。

「朝からルーチェにキャンセルがガンガン入っていまして」

 泣くうさぎの絵文字が最後についている。

「ミチルさんとハルさんは本日ご予約をいただいていませんが、ご無理のない範囲でお越しいただけましたら、我々三つ指をついてお迎えいたします」

 晴也は少し笑い、考えた。晶には行かないと言ったが、客席がガラガラというのも気の毒である。山手線沿線住まいの晴也は、余程のことが無ければ家には帰ることができるのだ。

「23時半に出られるなら行ってやっても良いぞ」

 上から目線で、美智生が反応した。今夜は行かないつもりでいたのだろうか。優弥がありがたきしあわせ、と書いた土下座する侍のスタンプを送ってきた。

「上演時間が短くなるのでチャージを2割引するようです、もちろん我々のギャラも2割減(涙)ですから、私からもお願いいたします」

 晶からのメッセージにも、土下座する猫のスタンプがくっついてきた。晴也はうーん、とひとりごちる。美智生の猫が話す。

「行ったのに中止とかはやめてほしいんだけど」
「最終判断は6時までにするそうです、8時のオカマショーとの兼ね合いもあって」

 客の入り次第ということか。優弥が他にも連絡しないといけない相手がいたら申し訳ないので、晴也も返事をした。

「では私も行くつもりで段取りいたします」

 晶と優弥からほぼ同時にありがとうございます、というスタンプが来る。芸事で食ってる人(晶はサラリーマンだが)は大変だなと思う。
 話がまとまったところで、晴也はルーチェのホームページを見てみた。トップページに「本日の公演 ホワイトリリーズ/ドルフィン・ファイブ 上演時間変更」とでかでかと載っている。
 すると美智生から個人のLINEが来た。

「お客さん少なそうだから思いきり女装して行かない?」

 思いきりとはどういうニュアンスなのだろうか。

「ハルちゃんみたいな可愛いめの普段着コーデをめぎつね以外でやってみたいと思って」

 なるほど。晴也は返信する。

「わかりました、私も先日新しい服が来たばかりなので、試してみます」
「新しいウィッグ買ったからボブカットで行くよ♡」

 美智生は常に女装の研究とチャレンジを怠らない。仕事も忙しそうなのに、感心する。そんな先輩を見ていると、晴也もめぎつねの客からのリクエストに毎週応えるなど、やってみたいことが浮かんでくる。
 一度晶にリクエストが無いか訊いてみようと思いながら、ご飯に添えられた梅干しを口に入れた。見かけより酸っぱくて、思わず目を閉じた。
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