夜は異世界で舞う

穂祥 舞

文字の大きさ
101 / 229
11 風雪

10

しおりを挟む
 晴也はややタイトなロングスカートを身につけてみて、男の平たい尻ではあまり映えないことを知り、迷いはしたもののそれで出かけることにした。何せ寒いのだ。膝丈のスカートなんかでうろついたら、ショーの途中でトイレに行かなくてはならなくなる。
 トップスのニットをふわっと腰にかぶせて、洗面所の鏡から離れ、できる限り身体を映す。ふと、メイクが淡すぎる気がして、口紅をあまり使わないローズ系に替えてみた。マスカラは、美智生に勧められて手に入れた濃いグリーンで。アイシャドウをこてこて塗らなくても目力が出る。
 ちょっと大人のハルちゃんになった晴也は、厚めのタイツを履いた足をブーツの中に入れ、冷たい空気を鼻から吸い込みながら新宿に向かった。金曜にしては、道ゆく人が少ない気がする。皆真っ白な息を吐きながら、足早に歩いている。

「ハルちゃんおはよう、寒いなぁ」

 美智生はボブのサイドの髪を揺らして晴也に言った。彼も今夜はブーツで、ヒールが低いと逆に階段が降りにくそうだった。

「寒いですね、今日来ないつもりだったんですか?」

 晴也が訊くと、美智生はまあね、と笑った。

「明日実家に帰って両親に俺のこと話すんだよ、あまりはしゃぐ気になれなくてさ」
「……ミチルさんでもそうなんだ」
「難しい仕事より余程緊張するわ、でもショー観て気晴らしするほうがいい気もして」

 店内はいつもの半分くらいしか席が埋まっていなかった。店員は大歓迎モードで、2人を広いテーブルに案内し、湯気の立った赤い飲み物と、マスタードを添えたウィンナーを出してくれた。特別サービスだという。

「グリューワインです、ドイツ通のタケルさんプロデュースです」
「ドイツ通なの? 初耳」

 美智生は店員に突っ込んだ。彼はコートの下に、タートルネックのニットとシックなグレーのプリーツスカートを着ていた。可愛いという感じではないが、めぎつねでドレスを着ている時とは違う、隙のある色気を感じた。

「ミチルさん何でも似合っていいなぁ」

 晴也が言うと、美智生はくすっと笑った。

「どうしても無理な服はあるだろうけど、着たければ自分を合わせて行くんだよ……たぶんそれって男も女も関係無い」

 美智生らしいと晴也は思った。彼はホットワインをひと口飲んでから、続ける。

「似合うと信じて着てみる勇気もたまに要る」

 かっこいいな。晴也は素直に憧れる。
 いつもより店内が静かなせいか、いつになく落ち着いた雰囲気である。そんな中、晴也たちがいつも座る席に、外国人と日本人の2人の男性が座っていることに気づいた。あれがもしかして……美智生が晴也の目線の先を追う。

「えーっ、外国人まで観に来るようになったのか?」
「あの人たぶんショウさんの知り合いです」

 晴也の言葉に美智生は目を見開く。

「あ、ナツミが言ってた人?」
「はい、観に来るってショウさんから聞きました」
「……まさかのドルフィン・ファイブ世界デビュー?」

 そういうこともあり得るのだろうか? ふと晴也は、昨日からの自分のもやもやを言語化することに成功する。
 もしあの人がショウに、ロンドンに戻ってくるよう声をかけたなら、ショウは受けるに違いない。……そして日本から、東京から、自分の元から去る。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

隣のチャラ男くん

木原あざみ
BL
チャラ男おかん×無気力駄目人間。 お隣さん同士の大学生が、お世話されたり嫉妬したり、ごはん食べたりしながら、ゆっくりと進んでいく恋の話です。 第9回BL小説大賞 奨励賞ありがとうございました。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...