104 / 229
11 風雪
11
しおりを挟む
ラストオーダーのために23時前に一度休憩を取り、ドルフィン・ファイブのショーはポップな曲で締めくくられた。急な変更を強いられたことを感じさせないプログラムは、さすがだなと思う。客席は、開演時間の変更を知らず遅れて入った人がいたのだろう、開始した時より埋まっていた。
5人のダンサーは、今夜は各テーブルを回る代わりに、帰る客を見送ってくれるらしかった。客が名残惜しげに出口に向かい始めると、彼らは最終曲の白い繋ぎの作業服の衣装のまま、カウンター席の裏の通路から出てきた。
ショウは上手のカウンターに座る2人と笑顔で話していた。2人は満足した様子だ。
「ほんとに11時半までに終わったなぁ」
美智生は残念そうに言った。確かに、充実していたがあっという間に終わってしまった感じがする。
「雪ちらついてるみたいですよ」
出口が混んでいるので待っている晴也たちに、店員が言った。外は寒そうだ。
「傘をささないといけなくなる前に帰れるかな」
美智生が言うので、折りたたみ傘を持って来ている晴也が貸しますよ、と言いかけた時、美智生の後ろに人がやって来た。店内の照明の角度で、男性だということしかすぐには判別出来なかったが、その人は晴也を見て立ち尽くしている。
「……福原、か?」
その声に晴也は凍りついた。美智生が晴也の異変に気づき、自分の後ろを見上げた。
自分の周りの全てが凍りついた状態から解けた晴也は、男に向かって早川さん、と言いかけたのを飲み込む。知らないふりをすれば、ごまかせるのではないか? ダンスを観て上気していた頬が冷えたのを自覚し、顔から血の気が引くというのは、こんな感じなのかと思った。
「知り合い?」
軽く眩暈を覚えた晴也に、美智生がやや警戒するような口調で訊いてきた。セーターにジャケットを羽織った早川は、呆然としている。
晴也はがんがんと耳鳴りがする中、必死で頭を働かせたが、ごまかすのは難しいという結論しか出なかった。自分だけならいいが、あちらに晶がいる。早川はネットの情報で晶を辿って、ここに来たのだ。それには確信があった。
「こんばんは、早川さん……こんなところに出入りなさるとは知りませんでした」
晴也は覚悟を決め、心臓の動きに合わせて声が震えないようゆっくりと話した。美智生が眉間に皺を寄せ、あくまでも探るように言う。
「ああ、お知り合いなんだ」
「会社の先輩です、もちろん俺のバイトのことなんてご存知無い」
晴也が目を座らせて言ったので、美智生はこれが危機的状況であることを察してくれたようだった。彼は横の椅子を引き、晴也と自分の間に置いて、早川に座るよう促す。
「まあどうぞ、すぐ出られないでしょうから」
早川は混み合っている出口を見て、どうもすみません、と言い、謎の美女たちに挟まれ座った。そしてしみじみと晴也の顔を見つめる。晴也は目を逸らさなかった。
「ハルちゃん可愛いでしょう? 店でも人気者なんですよ、彼に会いたくていらっしゃるお客様が老若男女問わず沢山います」
美智生の言葉に、早川はまたあ然とした。そして声を上擦らせて晴也に向き直る。
「いつからこんなことやってるんだ」
5人のダンサーは、今夜は各テーブルを回る代わりに、帰る客を見送ってくれるらしかった。客が名残惜しげに出口に向かい始めると、彼らは最終曲の白い繋ぎの作業服の衣装のまま、カウンター席の裏の通路から出てきた。
ショウは上手のカウンターに座る2人と笑顔で話していた。2人は満足した様子だ。
「ほんとに11時半までに終わったなぁ」
美智生は残念そうに言った。確かに、充実していたがあっという間に終わってしまった感じがする。
「雪ちらついてるみたいですよ」
出口が混んでいるので待っている晴也たちに、店員が言った。外は寒そうだ。
「傘をささないといけなくなる前に帰れるかな」
美智生が言うので、折りたたみ傘を持って来ている晴也が貸しますよ、と言いかけた時、美智生の後ろに人がやって来た。店内の照明の角度で、男性だということしかすぐには判別出来なかったが、その人は晴也を見て立ち尽くしている。
「……福原、か?」
その声に晴也は凍りついた。美智生が晴也の異変に気づき、自分の後ろを見上げた。
自分の周りの全てが凍りついた状態から解けた晴也は、男に向かって早川さん、と言いかけたのを飲み込む。知らないふりをすれば、ごまかせるのではないか? ダンスを観て上気していた頬が冷えたのを自覚し、顔から血の気が引くというのは、こんな感じなのかと思った。
「知り合い?」
軽く眩暈を覚えた晴也に、美智生がやや警戒するような口調で訊いてきた。セーターにジャケットを羽織った早川は、呆然としている。
晴也はがんがんと耳鳴りがする中、必死で頭を働かせたが、ごまかすのは難しいという結論しか出なかった。自分だけならいいが、あちらに晶がいる。早川はネットの情報で晶を辿って、ここに来たのだ。それには確信があった。
「こんばんは、早川さん……こんなところに出入りなさるとは知りませんでした」
晴也は覚悟を決め、心臓の動きに合わせて声が震えないようゆっくりと話した。美智生が眉間に皺を寄せ、あくまでも探るように言う。
「ああ、お知り合いなんだ」
「会社の先輩です、もちろん俺のバイトのことなんてご存知無い」
晴也が目を座らせて言ったので、美智生はこれが危機的状況であることを察してくれたようだった。彼は横の椅子を引き、晴也と自分の間に置いて、早川に座るよう促す。
「まあどうぞ、すぐ出られないでしょうから」
早川は混み合っている出口を見て、どうもすみません、と言い、謎の美女たちに挟まれ座った。そしてしみじみと晴也の顔を見つめる。晴也は目を逸らさなかった。
「ハルちゃん可愛いでしょう? 店でも人気者なんですよ、彼に会いたくていらっしゃるお客様が老若男女問わず沢山います」
美智生の言葉に、早川はまたあ然とした。そして声を上擦らせて晴也に向き直る。
「いつからこんなことやってるんだ」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
隣のチャラ男くん
木原あざみ
BL
チャラ男おかん×無気力駄目人間。
お隣さん同士の大学生が、お世話されたり嫉妬したり、ごはん食べたりしながら、ゆっくりと進んでいく恋の話です。
第9回BL小説大賞 奨励賞ありがとうございました。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる