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11 風雪
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サトルとマキが、店員2人と一緒に店の外まで見送ってくれた。
「おやすみなさいハルさん、美智生さん……気をつけて」
「ごめん、みっともなかった」
サトルが困ったように笑った。
「いろいろありますよ、ショウさんは宥めておきますから任せてください」
ありがとう、と晴也は無理に笑顔を作る。白いものがふわふわと落ちてくる空は暗く、自分たちの吐く息が真っ白になった。足早にビルを離れ、駅に向かう。
「あの人……ハルちゃんが好きなのか? やまりんと同じにおいがするんだけど」
美智生の言葉に晴也は笑った。
「ショウさんもずっとそう言ってました」
「身勝手執着系っていうのかな……てかショウもその気があるか」
もう笑うしかない。晴也は美智生に全て話すことにする。
「ショウさん、俺の会社の取引先の担当なんですよ……昼間うちに来てもあの調子だから早川さんが変に思い始めて、吉岡さんはゲイみたいで俺に気があって、俺も喜んでるようだって後輩に話したらしくて」
美智生はさすがにぽかんとした顔になった。
「まずショウがガチリーマンってのに驚く」
「はい、どこにでもいそうなリーマンです」
「ハルちゃんと縁があるんだな……いや、事実だとしても言いふらすなんて非常識だ」
晴也は美智生に言われて少しほっとした。
「早川さんって常に少し口が緩いというか、軽いんですよ……悪い人じゃないんですけど」
駅が見えて来たことにもほっとする。まだ自宅までで傘は要らなさそうだ。晴也が貸そうと言うと、美智生はいいよ、と応じた。
「ハルちゃん、彼は俺たちの目の前でハルちゃんを侮辱した……やまりんの時もそうだったけど、酌量の余地の無い人間に情けをかけるな」
また、俺は甘いのか。晴也は溜め息をついた。
「同僚のプライベートの微妙なところを言いふらすなんて、俺の会社なら一発降格だ」
美智生が腹立たしげに言うのを聞きながら、晴也はちょっと恐ろしくなる。自分のせいで、晶に仕事上の迷惑がかかることはあってはならない。しかし早川のあの意味不明な正義感から、晶を守ることができるだろうか? 会社で誰かに助けを求めたら、自分の女装趣味や、少なくとも「ノーマル」とは言えなくなった性的指向についても話さざるを得なくなる。
「さっきのやり取りに関しては、あの人が一方的な思い込みと偏見に基づいてハルちゃんとショウの人権を侵害した、断言できる……ハルちゃんが心配したり責任を感じたりすることは一切無い」
美智生は真剣な表情で訴えた。彼も家族にカミングアウトしようという時なのに、気持ちを煩わせて本当に申し訳ないと晴也は思う。
新宿駅の改札を入って、美智生と別れた。時計を見て、めぎつねに出勤している日と同じくらいの時間なので、少しほっとする。
雪はまだ本降りではなかったが、絶え間なくちらちらと落ち、電車が来ると吹き飛ばされていた。早川に追いつかれて見つかるようなことにはなりたくないので、晴也は電車に乗ると奥のほうへと入って行った。
「おやすみなさいハルさん、美智生さん……気をつけて」
「ごめん、みっともなかった」
サトルが困ったように笑った。
「いろいろありますよ、ショウさんは宥めておきますから任せてください」
ありがとう、と晴也は無理に笑顔を作る。白いものがふわふわと落ちてくる空は暗く、自分たちの吐く息が真っ白になった。足早にビルを離れ、駅に向かう。
「あの人……ハルちゃんが好きなのか? やまりんと同じにおいがするんだけど」
美智生の言葉に晴也は笑った。
「ショウさんもずっとそう言ってました」
「身勝手執着系っていうのかな……てかショウもその気があるか」
もう笑うしかない。晴也は美智生に全て話すことにする。
「ショウさん、俺の会社の取引先の担当なんですよ……昼間うちに来てもあの調子だから早川さんが変に思い始めて、吉岡さんはゲイみたいで俺に気があって、俺も喜んでるようだって後輩に話したらしくて」
美智生はさすがにぽかんとした顔になった。
「まずショウがガチリーマンってのに驚く」
「はい、どこにでもいそうなリーマンです」
「ハルちゃんと縁があるんだな……いや、事実だとしても言いふらすなんて非常識だ」
晴也は美智生に言われて少しほっとした。
「早川さんって常に少し口が緩いというか、軽いんですよ……悪い人じゃないんですけど」
駅が見えて来たことにもほっとする。まだ自宅までで傘は要らなさそうだ。晴也が貸そうと言うと、美智生はいいよ、と応じた。
「ハルちゃん、彼は俺たちの目の前でハルちゃんを侮辱した……やまりんの時もそうだったけど、酌量の余地の無い人間に情けをかけるな」
また、俺は甘いのか。晴也は溜め息をついた。
「同僚のプライベートの微妙なところを言いふらすなんて、俺の会社なら一発降格だ」
美智生が腹立たしげに言うのを聞きながら、晴也はちょっと恐ろしくなる。自分のせいで、晶に仕事上の迷惑がかかることはあってはならない。しかし早川のあの意味不明な正義感から、晶を守ることができるだろうか? 会社で誰かに助けを求めたら、自分の女装趣味や、少なくとも「ノーマル」とは言えなくなった性的指向についても話さざるを得なくなる。
「さっきのやり取りに関しては、あの人が一方的な思い込みと偏見に基づいてハルちゃんとショウの人権を侵害した、断言できる……ハルちゃんが心配したり責任を感じたりすることは一切無い」
美智生は真剣な表情で訴えた。彼も家族にカミングアウトしようという時なのに、気持ちを煩わせて本当に申し訳ないと晴也は思う。
新宿駅の改札を入って、美智生と別れた。時計を見て、めぎつねに出勤している日と同じくらいの時間なので、少しほっとする。
雪はまだ本降りではなかったが、絶え間なくちらちらと落ち、電車が来ると吹き飛ばされていた。早川に追いつかれて見つかるようなことにはなりたくないので、晴也は電車に乗ると奥のほうへと入って行った。
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