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12 憂惧
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泣いてぐちゃぐちゃになった顔を隠しながら、逃げるようにして高田馬場に戻った晴也は、ファストフード店で食料を調達して帰った。またしばらくベッドに横になり、ぐずぐず泣いた後にぼんやりしていたが、腹は減っていた。冷めたハンバーガーを温めて、惨めな気持ちを何処かにやるべく、缶ビールを開ける。フライドポテトをアテにしながら2本目のビールを空にした時、スマートフォンが立て続けに震えた。
「ハルさん来たの? どうして……」
晶からのLINEがプッシュ通知されたのを見て、晴也は震えた。時計は22時を過ぎていた。
「会社で何かあった? 社長が……」
「休んでたらごめん。一度連絡……」
メッセージは3通来た。よく見ると、晴也がベッドで寝転んでいた間に電話もかかってきていた。これは会社からだった。
晴也は自分の取った行動に対して起こることに、どう対処していいかわからないくらい混乱し、疲れていた。びくびくして心臓がどきどきした。……もう今夜は、何ひとつ対応しない。安易な決断をした晴也は、スマートフォンの電源を落としてしまった。そして冷蔵庫から、もう1本缶ビールを出した。
浅い眠りからぼんやり覚醒した晴也は、起床すべき時間をとっくに過ぎていることに気づいたものの、行動を起こさなかった。のろのろとシャワーを浴びたのは2時くらいだったと記憶する。ああ、もうこのまま二度と会社に行かなかったとしても、誰も疑問に思わないだろう。晴也は考えながらまた目を閉じる。
年度末が近いからタイミングもちょうどいいかも知れない。3月いっぱいで仕事を辞めて有休を消化し、転職先を探そうか。……めぎつねはどうしよう? あの仕事は好きだが、晶との思い出が多い場所には、もう行きたくない。
ふと晴也は、晶が自分の行動範囲をほぼ把握していることに思い至る。このまま彼からの連絡を無視し続けても、彼がその気になれば、何処かで必ず捕まえられる。ここに来る可能性だってある。しばらく実家に帰ろうか?
家に帰る。咄嗟の思いつきだが、それは素晴らしいことのように晴也には思えた。そうだ、東京での全てにピリオドを打ち、地元で再就職しよう。しばらく女装を我慢しなくてはいけないだろうけれど、もう……それで稼ごうとは思わなくなるだろう。そういう人が集まる場所を探し、たまに顔を出すくらいでも、楽しそうだ。
無断欠勤は社会人としてあまりに非常識な気もしたので、晴也はベッドから降り、ノートパソコンを立ち上げる。会社のメールは、業務上の大切なデータを添付するなどをしない限り、個人のパソコンやスマートフォンを使って送受信しても構わないことになっている。IDとパスワードを入れて社内のシステムを開き、崎岡の社内アドレスを探して、今日は休む旨を理由を書かずに連絡した。特に大切なメールも来ていないようなので、ログアウトしてパソコンを閉じた。
晴也は水を少し飲んで、スマートフォンを充電していたコンセントを抜いたが、立ち上げようとはせず、布団の中に戻る。泥のように身体にまとわりつく気怠い疲労感は、ようやく眠気をもたらしてくれた。晴也はずぶずぶと、眠りの沼に沈む。もうこのまま目が覚めなければいいのにと、薄れていく意識の中で考えた。
「ハルさん来たの? どうして……」
晶からのLINEがプッシュ通知されたのを見て、晴也は震えた。時計は22時を過ぎていた。
「会社で何かあった? 社長が……」
「休んでたらごめん。一度連絡……」
メッセージは3通来た。よく見ると、晴也がベッドで寝転んでいた間に電話もかかってきていた。これは会社からだった。
晴也は自分の取った行動に対して起こることに、どう対処していいかわからないくらい混乱し、疲れていた。びくびくして心臓がどきどきした。……もう今夜は、何ひとつ対応しない。安易な決断をした晴也は、スマートフォンの電源を落としてしまった。そして冷蔵庫から、もう1本缶ビールを出した。
浅い眠りからぼんやり覚醒した晴也は、起床すべき時間をとっくに過ぎていることに気づいたものの、行動を起こさなかった。のろのろとシャワーを浴びたのは2時くらいだったと記憶する。ああ、もうこのまま二度と会社に行かなかったとしても、誰も疑問に思わないだろう。晴也は考えながらまた目を閉じる。
年度末が近いからタイミングもちょうどいいかも知れない。3月いっぱいで仕事を辞めて有休を消化し、転職先を探そうか。……めぎつねはどうしよう? あの仕事は好きだが、晶との思い出が多い場所には、もう行きたくない。
ふと晴也は、晶が自分の行動範囲をほぼ把握していることに思い至る。このまま彼からの連絡を無視し続けても、彼がその気になれば、何処かで必ず捕まえられる。ここに来る可能性だってある。しばらく実家に帰ろうか?
家に帰る。咄嗟の思いつきだが、それは素晴らしいことのように晴也には思えた。そうだ、東京での全てにピリオドを打ち、地元で再就職しよう。しばらく女装を我慢しなくてはいけないだろうけれど、もう……それで稼ごうとは思わなくなるだろう。そういう人が集まる場所を探し、たまに顔を出すくらいでも、楽しそうだ。
無断欠勤は社会人としてあまりに非常識な気もしたので、晴也はベッドから降り、ノートパソコンを立ち上げる。会社のメールは、業務上の大切なデータを添付するなどをしない限り、個人のパソコンやスマートフォンを使って送受信しても構わないことになっている。IDとパスワードを入れて社内のシステムを開き、崎岡の社内アドレスを探して、今日は休む旨を理由を書かずに連絡した。特に大切なメールも来ていないようなので、ログアウトしてパソコンを閉じた。
晴也は水を少し飲んで、スマートフォンを充電していたコンセントを抜いたが、立ち上げようとはせず、布団の中に戻る。泥のように身体にまとわりつく気怠い疲労感は、ようやく眠気をもたらしてくれた。晴也はずぶずぶと、眠りの沼に沈む。もうこのまま目が覚めなければいいのにと、薄れていく意識の中で考えた。
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