夜は異世界で舞う

穂祥 舞

文字の大きさ
140 / 229
13 破壊、そして

6

しおりを挟む
 ドロドロになってしまった顔を直すために、一度化粧を落としていると、ママに案内されて明里が暖簾をくぐってきた。彼女はすっぴんになった晴也を、じっと見つめる。

「あ、やっぱりお兄ちゃんだ」
「誰だと思ってたんだよ」
「ショウの右のほっぺたに手形ついてた」

 明里の言葉に晴也はむくれながら、オールインワンジェルを顔にのばした。

「実家に帰ってるなんて嘘ついてあの人のこと避けてたの? 中学生じゃあるまいし」

 晴也はうるさい、と呟いた。何で俺が責められなくてはいけない。黙々と化粧を続ける。明里は鏡越しにこちらを見つめていた。

「……ごめんね、私があんな記事送りつけたからだよね」

 晴也は即否定する。

「いや、もうあの時点でほとんどわかってたことなんだ……確証を得たってだけだ」

 そう、と明里はぽつりと言葉を落とした。

「にしても……酔っ払って男を殴るお兄ちゃんにも呆れるけど、人前であんな目に遭わされてもまだお兄ちゃんの相手をする気でいるショウにもビビる……あの人マゾっ気あるのかな」

 言いながら明里は、兄が化粧をやり直す様子を興味深く眺めている。

「お兄ちゃんって美人なんだね、樫原さんにもびっくりしたけど」

 しみじみと言われて、変な気分になる。

「こんなことしてる俺をお母さんが見たがるとは思えない」
「そうかな? あ、お父さんはダメだろうな」

 晴也は鏡越しに妹を見る。ほんの3ヶ月前に、こんな光景を想像できなかった。同性の交際相手を人前で殴り、妹の前で女になる様子を晒している自分。

「……俺もう大丈夫だからルーチェに行けよ、今夜泊まるのか?」

 眉を描きながら、明里に訊いた。

「えっ、ショウと過ごすんでしょ?」
「うるさいから待つけどそんなつもりは無い」
「素直じゃないなぁ、お兄ちゃんショウが好きだから酔っ払って荒れてるくせに」

 晴也は妹の言葉に再度うるさい、と言った。好きだから。たぶんそうなのだろう。でもどうするべきなのかがわからない。

「あっじゃあショウも泊めてあげたらいいじゃん」

 明里は顎の下で手を合わせて、とても良い考えだと言わんばかりだった。そんなに大勢、俺の部屋で寝られるか。晴也はビューラーで睫毛を上げながら、溜め息をついた。
 美智生が遠慮がちに顔を覗かせた。

「明里さん、ルーチェに行くなら連れてってあげてよ、3人ほど行きたいって言ってる」

 晴也は鼻から息を抜いた。結果的に晶の営業に寄与するなんて。

「それって何だかいろいろ申し訳ないです」
「え? 明里さんが責任感じることなんか一つも無いでしょ、ショウが勝手に持ってったんだから……代わりに余市全部飲んでやろう」

 美智生は苦笑気味になった。彼が軽食のオーダーを持っていたので、晴也は立ち上がった。

「ミチルさん、できたら持って行きますよ」
「いけるのかハルちゃん、無理するな」

 晴也は大丈夫、と答えて髪を整えて手を洗った。明里が小さく手を振って出ていくのを見送り、自分に気合いを入れる。閉店まで頑張らないと。これは守りたいと自分が決めて、やっていることなのだから。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

隣のチャラ男くん

木原あざみ
BL
チャラ男おかん×無気力駄目人間。 お隣さん同士の大学生が、お世話されたり嫉妬したり、ごはん食べたりしながら、ゆっくりと進んでいく恋の話です。 第9回BL小説大賞 奨励賞ありがとうございました。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...