217 / 229
extra track ミチルの恋のものがたり
3-1
しおりを挟む
ホームルームは膠着した。打開策を探っている美智生を、村地が見つめているのに気づいた。いけない、ここでどきっとしたら、誰かに悟られる。
「樫原やれば?」
降って来た村地の声に、美智生はは? と返す。
「副委員長が率先しろ、女子も委員長がやるんだし」
何だって! 美智生は失語する。右から委員長の服部由里菜が嵩にかかってきた。
「むらちぃ冴えてる、私も美人なみっちぃがやったらいいと思う~」
彼女の成績にそぐわない馬鹿っぽい話し方での賛成意見に、おおっ、と拍手が起こる。美智生はあ然としたが、村地をがっかりさせたくなくて、承諾した。
「樫原がガチでやって看板娘になればいい」
その後すぐに残る二人も決まり、メイド服を着ることにちょっと心惹かれたので、受けて良かったと思うことにした。
美智生は丁寧に化粧をして、衣装担当の女子たちが用意してくれたウィッグとメイド服を身につける。実は楽しんでいることが周りにバレないよう、ポーカーフェイスを保つ。
黒いフラットシューズに足を入れると、クラスメイトは真面目な副委員長の、本気のメイド姿を見て喝采した。後の二人が笑いを取る方向性でメイクをしたため、美智生の美しさが際立つ。
執事の衣装を着て眉を太めに描いた、少年のような服部が目を丸くした。
「わぁみっちぃ美し過ぎる、どこの女神」
美智生は素直に嬉しくなる。でも本当に褒めて欲しいのは――。
村地は休暇を取っていて、生徒たちに裏切り者呼ばわりされたからか、午後からお茶をしに行くと言っていた。その時、閑古鳥だと寂しい。頑張らなくては。
実行委員が文化祭の開始を宣言してすぐに、男女逆転喫茶店には客がやって来た。甘い香りが漂う中、3人の執事と3人のメイドは、飲み物とお菓子を銀色の盆に載せてくるくると教室内を歩き回る。ホットプレートでパンケーキを焼く調理担当も、キッチンスペースで大わらわだった。
午後、他のクラスの男子たちが訪れ、美智生を見て驚愕の声を上げた。
「えっ樫原⁉ マジつき合って」
「絶対嫌、おまえらみんなコーヒーでいいな?」
美智生が水の入った紙コップを机に置きながら冷ややかに対応していると、むらちぃ、と女子たちの声が教室の外から聞こえた。美智生は背筋を伸ばして、入口に顔を向ける。
「お二人様お通ししま~す」
お二人様? 誰と来たのだろうと思いつつ、愛しい男の姿を待ち受ける。服部が美智生に近寄ってきて、真顔で小さく言う。
「むらちぃ女の人と来たよ、しかも何かデートっぽい」
「え?」
自分を案内するごついメイドの姿に笑いながら、村地がこちらへやって来た。初めて見る彼のスーツ姿に美智生は見惚れたが、その斜め後ろに頭一つ小さい女性の姿を認め、どきっとした心臓をぎゅっと掴まれたような気がした。
「樫原やれば?」
降って来た村地の声に、美智生はは? と返す。
「副委員長が率先しろ、女子も委員長がやるんだし」
何だって! 美智生は失語する。右から委員長の服部由里菜が嵩にかかってきた。
「むらちぃ冴えてる、私も美人なみっちぃがやったらいいと思う~」
彼女の成績にそぐわない馬鹿っぽい話し方での賛成意見に、おおっ、と拍手が起こる。美智生はあ然としたが、村地をがっかりさせたくなくて、承諾した。
「樫原がガチでやって看板娘になればいい」
その後すぐに残る二人も決まり、メイド服を着ることにちょっと心惹かれたので、受けて良かったと思うことにした。
美智生は丁寧に化粧をして、衣装担当の女子たちが用意してくれたウィッグとメイド服を身につける。実は楽しんでいることが周りにバレないよう、ポーカーフェイスを保つ。
黒いフラットシューズに足を入れると、クラスメイトは真面目な副委員長の、本気のメイド姿を見て喝采した。後の二人が笑いを取る方向性でメイクをしたため、美智生の美しさが際立つ。
執事の衣装を着て眉を太めに描いた、少年のような服部が目を丸くした。
「わぁみっちぃ美し過ぎる、どこの女神」
美智生は素直に嬉しくなる。でも本当に褒めて欲しいのは――。
村地は休暇を取っていて、生徒たちに裏切り者呼ばわりされたからか、午後からお茶をしに行くと言っていた。その時、閑古鳥だと寂しい。頑張らなくては。
実行委員が文化祭の開始を宣言してすぐに、男女逆転喫茶店には客がやって来た。甘い香りが漂う中、3人の執事と3人のメイドは、飲み物とお菓子を銀色の盆に載せてくるくると教室内を歩き回る。ホットプレートでパンケーキを焼く調理担当も、キッチンスペースで大わらわだった。
午後、他のクラスの男子たちが訪れ、美智生を見て驚愕の声を上げた。
「えっ樫原⁉ マジつき合って」
「絶対嫌、おまえらみんなコーヒーでいいな?」
美智生が水の入った紙コップを机に置きながら冷ややかに対応していると、むらちぃ、と女子たちの声が教室の外から聞こえた。美智生は背筋を伸ばして、入口に顔を向ける。
「お二人様お通ししま~す」
お二人様? 誰と来たのだろうと思いつつ、愛しい男の姿を待ち受ける。服部が美智生に近寄ってきて、真顔で小さく言う。
「むらちぃ女の人と来たよ、しかも何かデートっぽい」
「え?」
自分を案内するごついメイドの姿に笑いながら、村地がこちらへやって来た。初めて見る彼のスーツ姿に美智生は見惚れたが、その斜め後ろに頭一つ小さい女性の姿を認め、どきっとした心臓をぎゅっと掴まれたような気がした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
隣のチャラ男くん
木原あざみ
BL
チャラ男おかん×無気力駄目人間。
お隣さん同士の大学生が、お世話されたり嫉妬したり、ごはん食べたりしながら、ゆっくりと進んでいく恋の話です。
第9回BL小説大賞 奨励賞ありがとうございました。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる