夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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extra track 飼い主が不機嫌なので手を尽くす文鳥(俺)

12:00①

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 晶は口を利かずにスマートフォンをいじっている。何か気に障ることをしただろうかと、晴也はじわっと不安になったが、心当たりがないのに尋ねるのも癪に障るので放っておこうと思った。SNSをあまり使わない晴也は、特にスマートフォンに用事が無いので、ショッピングモールに入った時に手に入れたフロアガイドをじっくり見た。シネコンが入っている、今何をやっているのだろう。
 ようやく店に入り、席に落ち着いても、晶はむすっとしていた。面倒くさいな。オーダーを通してから、晴也はイラつきモードを全開にした。

「何不機嫌な顔してるんだよ、鬱陶しいんだけど」

 晶は嫌な目で晴也を見た。気まずい沈黙がテーブルを支配した。こういう時にすぐに話さない晶も珍しいかもしれない。

「‥‥‥店員と何を楽しそうに話し込んでるんだと思った」
「は?」
「あいつたぶんハルさん気に入ってた」

 何言ってるんだこいつ。晴也は呆れて返す言葉が見つからない。それでこれ見よがしに、一緒に暮らす話なんか持ち出したのか。

「ゲイの勘」
「くだらないこと言ってんなよ、マジで意味がわからない」
「ハルさんはガードが甘いんだって‥‥‥」

 俺が悪いのか? 逆に言われて、晴也はますます呆れる。

「あのさ、おまえのゲイの勘とやらにつき合ってたら、俺誰とも話が出来ないんだけど」
「そんなことはない、誰でもとは言ってない」

 オムライスと小さなサラダがやって来た。気まずいまま二人してスプーンを取り上げる。晶はちらっと、ホワイトソースのかかった晴也のオムライスを見た。

「美味そうだな」
「あ? 食えば?」

 晴也はぞんざいな返事をして、大きな皿を晶のほうに押しやった。晶は唇を尖らせた。

「食べさせて」
「‥‥‥はぁ?」
「食べさせてくれたら機嫌直す」
「‥‥‥おまえマジうざい、ずっと不機嫌でいろよ、俺これ食ったらもう電車で帰るわ」

 言い放った晴也は半ば本気で堪忍袋の緒を切らしていた。皿を自分のほうに引き寄せて、卵の皮に思いきりスプーンを突っ込む。その窪みいっぱいにケチャップライスを乗せ、口の中に入れた。
 すると晶はさらりと言った。

「俺も今のハルさんみたいに、ハルさんが何で機嫌を悪くしてるのかわからないことがよくあるよ」

 晴也は口の中のものをゆっくり味わいつつも、上目遣いで晶を見る。彼はもう不機嫌な顔はしていなかった。

「ほんとに困惑するんだ、だからいつもちゃんと話して」
「‥‥‥それと今のこれとは別だろ」
「まあそう言われたら返す言葉がございません」

 晶も自分の、デミグラスソースのかかったオムライスにスプーンの先を入れる。晴也はそれを見ながら、晶の言葉に何となく引っかかる自分を感じていた。俺はショウさんに、いつも結構わがままを言っている。甘えているという自覚もあるし、何を言っても最終的には許してもらえるという自惚れがあるかもしれない。
 店員と話していたことを嫉妬されるなんてナンセンスの極みだが、実は晶のゲイの勘は精度が高いのだ。こんな言い方をしてくる時は、さっきの店員には申し訳ないが、少し考慮したほうがいいのではないか、とも思う。
 晴也はソースのたっぷりかかった部分をスプーンで掬った。そして晶に向かって突き出した。

「俺はおまえの変な焼きもちに対して謝罪はしない、でもくだらないことで不機嫌でいられるのは嫌だから」
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