聖騎士イズヴァルトの伝説 〜無双の武と凶悪無比なデカチンを持つ英雄の一大叙事詩〜

CHACOとJAGURA

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第四部 聖王編

第九十五回

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 それから2日後。イズヴァルトは遂にヒラーイズミの入り口に到着した。この山の中のどこかに、ムーツ大陸の至宝・『氷雪の栄光』が眠っているという。
 
 しかしヒラーイズミは途方も無く広く、そして大きな山である。その中から探し出すのは困難をきわめると言っても良かった。
 
「大きな、雪山でござるな……」
 
 イズヴァルトはローラと共に空を見上げた。その高いヒラーイズミの五合目あたりからは、薄暗い雲で覆われ、見えなかった。流石はいくさに破れたアテールイが、最後の討死の場所と決めたことだけはある、偉容であった。
 
【ギルバート=カツランダルク注:ヒラーイズミ山はナントブルグ盆地とほぼ同じぐらいの広さをがあり、比高は1万メートル以上ある。イズヴァル達が来た入口だけでも標高1500メートル近くという説があるから、どれだけ高い山か想像できるだろう。】
 
「これから、あれを登るのでござるな?」
 
 イズヴァルトはローラに問いかけた。彼女は唇を震わせながらうなずいた。もはや後には退けぬのだ。
 
 イズヴァルトと一蓮托生という気持ちでいたローラは、ここで自分だけお留守番しますと言うつもりは無かった。
 
 それから、身体に似合わぬ大きな背嚢をしょいこむヴァネロペの、平然とした様子の顔を見つめた。
 
「それ、よく背負えますね?」
「にんやり。 (この程度は問題ない、という余裕に満ちた笑み。)」
「荷物はヴァネロペさんが背負ってくれますから、イズヴァルトさまは安心して、わたくしをだっこしながら山を登れる、というわけですな?」
「ではござるが……ここからは貴殿のしりあなに挿れずに進みたいでござるよ。ちと辛いでござる」
 
 イズヴァルトの大きな防寒具の中では依然、外に出た陰茎がローラの菊門と繋がっていた。ちんぽはある程度の快楽に慣れて来たが、激しく動くとやはり反応してしまい、精を流し込んでしまった。
 
 だが、試練である。向かって南には雪の坂道に目を向けた。なだらかだが左右の崖のせいでひどく狭そうである。
 
 イズヴァルトはローラを抱き上げながら、その坂道を登り始めた。動くたびにローラが「きゃっ♡」とか「ふひっ♡」と喜ぶが、意識だけは平静を保って、先へと進むことにした。
 
 
□ □ □ □ □
 
 
 細い坂道を昇りだして1時間ぐらいして、開けた場所に出た。南に向かってなだらかな傾斜がある雪原だった。
 
 吹雪が少し強くなっていて、視界があまりよろしくなかったが、イズヴァルトは人影を確かめることができた。
 
 2人。見覚えがある男女だ。ブライアン=スエッツァーとその恋人であるサキュバスのエルザである。

 2人とも防寒具をまとっており、ブライアンは鼻の左の穴から鼻水を垂らし、エルザは「へくちゅ! へくちゅ!」と可愛いくしゃみを続けていた。

「へくちゅ! へくちゅ!」
「エルザどの、ブライアンどの。貴殿らが最後の関門でござったか?」
 
 答える代わりにブライアンは、腰の左右にぶら下げた剣を抜いた。黒い刀身の魔界の剣だ。

 イズヴァルトが愛用していた『覇王の剣ソード=オブ=ブロント』と比べればいささか出来は劣るが、それでも油断ならぬ切れ味である。

「こうして真剣を抜いて相向かうのは、第二次試験の闘技場での試合以来だね、イズヴァルトさん?」
「……エルザどのと2対1、でござろうか?」
「へくちゅん! ちがうちがう!」
 
 エルザはブライアンから遠のいた。自分は戦いには参加しないと言った。

 ヒラーイズミでは治癒魔法とちょっとした浮遊魔法ぐらいしか使えないから、彼女は戦えないのだ。

「オイラからもお願いがある」
「何でござろう?」
「ローラさんをヴァネロペに預けてくれ。誰にも邪魔されず、1対1で勝負がしたい」
「承知したでござる」
 
 イズヴァルトはローラをヴァネロペに預けると、指揮棒を両手に持って構えた。雪の中でも銀色に輝くそれを、ブライアンは興味深そうに見ていた。

「それ、ミスリル銀で作ったものかな?」
「わからぬでござるよ。ワターリの王様の家宝でござる。しかし、クボーニコフからこのかた、武器として用いたなれど、未だ欠けたり傷がついておらぬでござるよ?」
「……なるほどね。油断ならぬ鈍器というわけか。ということはだよ。イズヴァルトさんが狙うのは……オイラの二振りを叩いて砕く、というわけだね?」
 
 イズヴァルトは答えなかった。その代わり、勢いよく駆け出し、打ちかかることで答えた。

「よし。オイラも全力でいこう!」
 
 イズヴァルトが駆け出した後、ブライアンは剣を持った両腕をまっすぐ上にあげた。

 二振りと全身から闘気を放ち、それから腕を伸ばしたまま、円を描くように降ろしていった。

 その様子を見たイズヴァルトは驚いた。ブライアンの剣を持つ腕がたくさん増えたように見えたからだ。

 腕は4本や8本ではない。16や32、それ以上だった。

「見えているのは、残像だよ?」

 ブライアンの間合いに近づく。何が起きているのかやっとわかった。走るのを止め、身体をひねって横にそれながら、逆方向に大きく跳躍しようとした。
 
「既に、この技の間合いに入っているよ!」

 ブライアンが剣を持った腕を振り回す。剣に込められた闘気が放たれ、刃の鞭となってしなった。その刃で地面に張り付いていた雪と氷がえぐられ、飛ばされて宙を舞う。

 白い煙が巻き起こった。ブライアンとの間合いは10メートルといったところだった。

 イズヴァルトは避けきれず、かすかだが右の腿と左の胸に刀傷を負った。闘気の刃は厚手の綿服を割くほど、鋭かった。

「かような技が使えたでござるか!」

 血をしぶかせながらイズヴァルトは問う。ブライアンは再び両腕をまっすぐにかかげた。

「魔法が得意じゃない、魔界のオークの闘気技だよ」
「まさか、ヤギウセッシウサイに?!」
「そうさ。師匠に教わったんだよ。間合いの外の相手と戦う、奥の手に使えってさ!」
 
 降ろされる。多くの腕と剣が生えたように見える残像。再び雪煙が立ち、闘気の刃がイズヴァルトを襲った。腕に、頬に鋭い切り傷が。
 
「うっ!!」

 またもブライアンは両腕を上に掲げた。イズヴァルトは背後に飛んだ。雪煙と殺意に満ちた鋭い闘気が。
 
 しかしだ。その三度目にイズヴァルトは違和感を覚えた。最初と二度目とは違っていた。ブライアンの腕の残像が、先ほどより多くは現れなかった。雪の煙の起こり方も、その濃さを減じていた。

 誘い込む為の罠だろうか。そうは思いながらもイズヴァルトは突っ込んだ。

 仮に急所をやられても、試験は失格となるだろうが、エルザとヴァネロペがいる。すぐさま治癒術式で直してくれるだろう。イズヴァルトはそうも考えていた。

「……見切られたか!」

 ブライアンの眉間に、シワが刻まれた。あの技は何度も使えないものだった。もしもの時の技というわけだ。

「でも、ここからが本気だよ!」
 
 ブライアンには神速の剣技と、『予見』の力があった。禁足地たるヒラーイズミで、彼のその異能は果たして働くか否か伺えなかったが、イズヴァルトは油断しなかった。

 指揮棒を右手に持ち替えた。ブライアンが身構え、そして消える。鋭い風の気配に気づいて弾いた。ぶつかる音が鳴るが、なおも向かってくる切っ先を感じるとイズヴァルトは、くるりと周りながらそれを弾いた。

 背中を取った格好となった。ブライアンは斬りかかる。しかし上体ではなかった。身をかがめて脚を切ろうとする。

 そこをイズヴァルトは、回転しながら後ろに高く飛んで避けた。着地して背後を取ろうとする。しかしブライアンは予見の力で動きがわかっていた。隙あり、だ。

 ブライアンは背を向けたまま、右腕を後ろに回した。回転斬りだ。狙うは指揮棒を持つイズヴァルトの腕だった。避けて後ろに退いてくれるだろう。

 しかしその刃を、イズヴァルトは避けなかった。脇に挟んで強く締めた。衣類と肉がえぐられる痛みを覚えながらも、棒を素早く左手に持ち替えた。

 予見しきれなかった行動だ。ブライアンは右手から剣を離そうとした。しかしイズヴァルトは傷ついた右腕でブライアンの右手首を掴んだ。怪我をしていたが、強い力が込められていた。

「……ぐっ!」
 
 手首を離してくれない。イズヴァルトは無言で、左手に持った指揮棒でブライアンの背を強く打擲した。

「うわっ!」」
  
 その一撃だけで決まった。ブライアンは倒れ、その場で血を吐いた。エルザとヴァネロペが2人を治癒して、事なきを得たけれど、ブライアンはあっさりと負けを認めた。

「強く握られた手首がまだ痛いよ、イズヴァルトさん。しかし肉を切らして骨を打つ、みたいな戦法にでるとは思わなかったね」
「拙者が『はんぶんエルフ』の改造手術を受けた身体で、近くに治癒術式の使い手がいたからやったまででござる」

 そうした『保険』が無い状態ならば、ブライアンと真正面に戦うのは避けていた。これが試合のようなものだったから、捨て身の戦術に出られたのだ。

「でも、痛いものは痛いでござるよ。もう二度と、このような試合をするのは御免でござる」
「まあね……これで、この関門は潜り抜けたことにしよう。でもこれからだよ」

 ブライアンは告げた。この高く広い山の中で、『氷雪の栄光』を見つけなければならない。

「そして手に入れたとしても、お師匠様は見つけたイズヴァルトさんを放っておかないだろうね」

 ヤギウセッシウサイにも狙われる、というわけだ。しかし裏を返せばその秘宝は、あまりにも強大な力があるとも言えるだろう。

 果たして、その魔剣を見つけ出すことができるのか?

 その続きについてはまた、次回にて。
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