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第四部 聖王編
第三十一回
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南のイナーヴァニアとイーズモーの国境までの道には、近道がある。案内役のゴブリン達とオクタヴィアに教えられたイズヴァルトは、彼らの薦めにのった。
ただ、街道やその間道ではなく、けものみちだった。高い崖を駆け降り、雪が積もる草原を走る。凍りつく小川を飛び越え、闇ばかりの森をうろつている獰猛な獣たちに「やあ、おじゃまするね!」とフレンドリーに声をかけ、星の位置を確かめながらくぐり抜ける。
身軽でなければ踏破できない。馬や余計な荷物は里に置いてきた。イズヴァルトはヘラからまたひったくった『獄炎の凱歌』を腰にぶらさげ、嬉しそうに険しい道を駆けていた。
「久しぶりのわくわくする旅路でござるよ! さようでござるな!」
並走するゴールの戦士たちもうなずいた。ただ、イズヴァルトの明るさに呆れていた。まるで散歩に連れて行ってもらっているわんこのように見えていた。それほどまで、道なき道に彼の五感は喜んでいたのだ。
この男の息女たち、エレナとオリガも息を切らさずに後ろについていき、「きゃははは!」と笑い声をあげながらしっかりとついていた。それどころか、太めで寒さに弱いシマーヅ人の血を引くウーゴ王子も、彼女たちの後にしっかりとついて走っていた。
その父であるピピン王子だが、2人のゴブリンに担がれていた。厚い毛皮のコートに身を包み、ぶるぶると震えながらだ。足にかけてはピピンよりまだましなミツクニュモスも、自分より小さいゴブリンに背負われて顔を青くしていた。
そしてヘラ。マントを羽織った程度の半裸の格好ではなく、ゴブリンの里でもらった厚手の毛織の服をまとっていた。
「ぶー」
彼女はぶうたれていた。里から出発して、ずっとこのままだった。魔封じの力を持つ紐で、エルフのオクタヴィアに背負われていたのだ。
「エルフのおばちゃん、少しは歩かせてよ? そのぐらい大丈夫だよ」
「だめずら。おまんはお腹にややこがおるずら。自分がゴールの娘だからって甘くみんな」
「用をたすのとごはんとおまんこ以外は、ずーっとこのままだよ?」
イズヴァルトやピピンと性交をした後、寝る段になるとオクタヴィアに抱き上げられてしまう。オクタヴィアは彼女のおまんこをいじってなめて可愛がることはしたが、まるでお世話焼きなおばさんのように彼女に接していた。
「あたしだったら、飛翔魔法でひとっとびだよ? 偵察とかしなくていいの?」
「おまんはがきんちょを産むまで、ずーっと休んどけ。やっていいのはエレナちゃんたちと遊ぶことと、ちんちんと楽しむことだけずら」
ヘラの下腹は膨らみ始めていた。だからここしばらくは戦う事はよくないだろう。なのでオクタヴィアはヘラから剣を取り上げ、イズヴァルトに渡した。子どもが、しかも妊婦はこの先、何があっても戦力にしてはいけないのだ。
旅は10日で終わった。イズヴァルトたちはイナーヴァニア領内に設けられた連合軍の陣地に入った。げっそりとなっていたピピン王子は、出迎えたシマーヅの武将らに担ぎあげられ、甘いお菓子と温かいお茶をもらい、一息ついた。
「襲撃が一度もなかった事は良かったでござる」
「そうでしたね……一刻も早く、ゲースティアの武将らとも語ることにしましょう。イナーヴァニア王家とスオニアの武将に引きずられて、軍を先に進ませるかも知れない」
ピピンはちやほやする武将たちに、この陣にいる他の国の軍との会議のセッテイングを命じた。各国の武将らはすぐに集まってきた。前の戦役での英雄・イズヴァルトが来たことを知り、ぜひとも会って話をしたかったのだ。
「イズヴァルトさんだ! イズヴァルトさんが戻ってきた!」
「いつ見ても惚れ惚れするぐらい偉丈夫で美男子だなあ!」
天下無双の騎士が戻ってきた。しかも彼らから見れば仇敵のヘラを伴ってだ。戦場でみたときは『小さな死神』だの『吸血鬼』などと恐れたが、寝返り、味方としてやって来たのだと勘違いして誰もが近づいて褒めだした。
「かわいい。この子が先の戦いで我々を苦しめた、コーザの娘ですか!」
「あははあっ。とてもかわいらしいですね。しかも美人さんだ」
「……パラッツォ教徒となんだってね。一緒に寝てもくれるよね?」
好意的かつスケベな視線を向ける武将たちに、お菓子をもらったり金貨を与えられたりすると、ヘラはいい気になった。
「ふうん♥ だったらみんな、あとであたしの天幕においでよ♥ みーんなまとめて相手あげるからね♥」
「調子にのるな」
側にいたオクタヴィアがヘラの頭を小突いた。おまんことちんぽを使った交流は後、と言って会議を進めさせた。
イズヴァルトは教主コーザの親書を机の上に出し、和平を結びたいのでマハラ教団のお偉方と交渉がしたい、と告げた。イーズモーの武将の1人が、大変残念そうな顔で問いただした。
「僕らの陣に加わるんじゃ、なかったのですか?」
「いくさを止めに来たのでござるよ。教団は東のクボーニコフにコテンパンにやられて、へとへとになっているでござる」
しかしサイゴークの軍は、マハラ教団が音頭をとっている。そのマハラ教団に停戦と和議を求める為に、教団の代表として訪れたのだ、とイズヴァルトは伝えた。
「和議を結んでくれるなら、拙者が持っているサイゴーク諸国の領地をマハラ教に献上いたす。そもそも拙者は……スオニアのキッカワンテス家の縁者ゆえ、決して悪くない話でござろう?」
そこにミツクニュモスが。
「皆々様、キッカワンテスの当代のセーニャ姫こと、セシリア=セーニャ=キッカワンテスのご嫡男、イズヴァルト=シギサンシュタウフェン殿がこのように申しているわけです。キッカワンテスとマハラは切っても切れぬ間柄。そのうえキッカワンテスといえば、スオニア王家において筆頭とも言えるお家でございますから、この申し出をただの妄言、と言い切ることはできますまい……しかし」
もしここで、イズヴァルトの提案を蹴れば、あるいは、無かったものとして握りつぶす為に、当人やヘラに危害を加えることがあれば、この軍のマハラ教団とそれを支えるスオニア王国に仇をなすと思われても致し方がない、とミツクニュモスは言い放った。
「……そういうことずら」
椅子に座り、ぶうたれるヘラを抱えながら腕を組んでいたオクタヴィアも。
「イズヴァルトさんはパラッツォの衆の代表だけでなく、キッカワンテスんちのもんの一人として来ているわけずらよ。ついでに、おらたちカントニアのエルフの衆の大切な『ともだち』ずら。イズヴァルトさんはこのサイゴークでせっかく得た財産を、ぜーんぶマハラのもんにやろうって申し出ているわけだから、これはむげにはできんずらな。けどもし蔑ろにするんなら……おまんら、もちろんわかるだろう?」
イズヴァルトに友情を感じるエルフの衆は、すぐにでも手を引くぞ。エルフの部隊は半ばオクタヴィアが率いていた様なものだから、この脅しには効果があった。ピピン王子とシマーヅも、盟友たるエルフの意見に賛成していた。
「……しかしですね」
一人の武将が返した。イナーヴァニアの元武将だった。
「我らがヤマナウラスの大王陛下は、故国の地に戻れぬのでしょうか? そもそもが、そのためにこの度のいくさに加わった騎士や貴族が大勢おります」
「イナーヴァニアの件はまた、別の機会で教主どのと交渉いただきたいでござる。そもそもヤマナウラスの王様と御一門衆が追い出されたのは、貴族らのパラッツォ教徒への迫害を止められなかったからでござるよ……」
イナーヴァニアの武将らは、これ以上は言わなかった。ヤマナウラス王家は故国に先行部隊を侵入させるほど熱を入れていたが、奪還した後のことを考えておらず、国内に残っているパラッツォ教徒と、どう折り合いをつけるのかを知らされていなかったのだ。
【ギルバート=カツランダルク注:ヤマナウラス家は国を逐ったパラッツォ教徒に対し、虐殺も辞さぬ報復をしようと考えていた、と史書にある。サーガには言及は無いが、この陣地のあちらこちらで、捕虜となったパラッツォ教徒の処刑場があり、イズヴァルトが訪れた頃には数百もの死体が、坑に積み重なっていたという。】
というわけで話はまとまった。イズヴァルトはこの陣地の軍を引き上げさせ、皆とともにイナーヴァニアの国境へと向かった。そこにマハラ教団の高僧や、スオニアの王家に連なる将軍がいるという。
「それだけじゃありません」
出発する前にピピン王子は語った。アソマリアの炎の神の巫女であり、王子の幼馴染であり実質的な妻である、デボラとフロウラも来ているのだと。
「出発する前、デボラおねえちゃん……ではなくって、デボラ様は、お腹に僕の子がいる、と教えてくれました」
「それはめでたいでござる! ……確か、3人目でござるか?」
「デボラ様とは4人目ですよ。フロウラちゃんが……3人ですね」
いや、フロウラも出発の時、何度か吐いているのを見かけたから、彼女も懐妊したのだろうと王子は言った。アソマリアの巫女2人だけでなく、十名近くの妾をイーズモーに連れて来た。彼女たちも半数近くは、すでに腹が膨らんでいるそうだ。
「ウーゴを含めるとかれこれ、30人近く子どもができちゃいました」
「うむ。子沢山は良いことでござる。特にピピンどののような、一国の王子様は、たくさん作って育てたほうが良いでござるよ」
遺産の配分などで揉め事となるだろうが、子どもこそが財貨よりも大切な『おたから』である、とイズヴァルトは励ました。それから、今のところは王位継承を巡っての争いは起きそうになかった。ピピン王子も姫ばかりだが、彼の兄弟らは皆、子どもたちは娘ばかりだった。ウーゴ王子のライバルは、今のところ1人もいなかった。
果たしてイズヴァルトは3日のうちに、国境付近を本拠とする、連合軍の本陣に到着した。いまだ凍てつき、徒歩で渡れるヒーイ大河を隔てた、イーズモー側の城塞にあった。
河は馬や車輪がすべらぬよう、砂をまいた板が敷かれ、イズヴァルトは馬で河を渡っていた。その最中である。後方の馬車にいたピピン王子が窓から顔を出し、通信魔道士から受け取った知らせをイズヴァルトに告げた。
「フロウラちゃんが迎えに来ているそうです!」
果たして、騎乗する女ばかりの一隊が近づいてきた。しかしイズヴァルトは、先頭の馬に乗る女を見て驚き、思わず声をあげてしまった。
さて、司祭騎士団長が見たその女は、何者だったのか?
その続きについてはまた、次回にて。
ただ、街道やその間道ではなく、けものみちだった。高い崖を駆け降り、雪が積もる草原を走る。凍りつく小川を飛び越え、闇ばかりの森をうろつている獰猛な獣たちに「やあ、おじゃまするね!」とフレンドリーに声をかけ、星の位置を確かめながらくぐり抜ける。
身軽でなければ踏破できない。馬や余計な荷物は里に置いてきた。イズヴァルトはヘラからまたひったくった『獄炎の凱歌』を腰にぶらさげ、嬉しそうに険しい道を駆けていた。
「久しぶりのわくわくする旅路でござるよ! さようでござるな!」
並走するゴールの戦士たちもうなずいた。ただ、イズヴァルトの明るさに呆れていた。まるで散歩に連れて行ってもらっているわんこのように見えていた。それほどまで、道なき道に彼の五感は喜んでいたのだ。
この男の息女たち、エレナとオリガも息を切らさずに後ろについていき、「きゃははは!」と笑い声をあげながらしっかりとついていた。それどころか、太めで寒さに弱いシマーヅ人の血を引くウーゴ王子も、彼女たちの後にしっかりとついて走っていた。
その父であるピピン王子だが、2人のゴブリンに担がれていた。厚い毛皮のコートに身を包み、ぶるぶると震えながらだ。足にかけてはピピンよりまだましなミツクニュモスも、自分より小さいゴブリンに背負われて顔を青くしていた。
そしてヘラ。マントを羽織った程度の半裸の格好ではなく、ゴブリンの里でもらった厚手の毛織の服をまとっていた。
「ぶー」
彼女はぶうたれていた。里から出発して、ずっとこのままだった。魔封じの力を持つ紐で、エルフのオクタヴィアに背負われていたのだ。
「エルフのおばちゃん、少しは歩かせてよ? そのぐらい大丈夫だよ」
「だめずら。おまんはお腹にややこがおるずら。自分がゴールの娘だからって甘くみんな」
「用をたすのとごはんとおまんこ以外は、ずーっとこのままだよ?」
イズヴァルトやピピンと性交をした後、寝る段になるとオクタヴィアに抱き上げられてしまう。オクタヴィアは彼女のおまんこをいじってなめて可愛がることはしたが、まるでお世話焼きなおばさんのように彼女に接していた。
「あたしだったら、飛翔魔法でひとっとびだよ? 偵察とかしなくていいの?」
「おまんはがきんちょを産むまで、ずーっと休んどけ。やっていいのはエレナちゃんたちと遊ぶことと、ちんちんと楽しむことだけずら」
ヘラの下腹は膨らみ始めていた。だからここしばらくは戦う事はよくないだろう。なのでオクタヴィアはヘラから剣を取り上げ、イズヴァルトに渡した。子どもが、しかも妊婦はこの先、何があっても戦力にしてはいけないのだ。
旅は10日で終わった。イズヴァルトたちはイナーヴァニア領内に設けられた連合軍の陣地に入った。げっそりとなっていたピピン王子は、出迎えたシマーヅの武将らに担ぎあげられ、甘いお菓子と温かいお茶をもらい、一息ついた。
「襲撃が一度もなかった事は良かったでござる」
「そうでしたね……一刻も早く、ゲースティアの武将らとも語ることにしましょう。イナーヴァニア王家とスオニアの武将に引きずられて、軍を先に進ませるかも知れない」
ピピンはちやほやする武将たちに、この陣にいる他の国の軍との会議のセッテイングを命じた。各国の武将らはすぐに集まってきた。前の戦役での英雄・イズヴァルトが来たことを知り、ぜひとも会って話をしたかったのだ。
「イズヴァルトさんだ! イズヴァルトさんが戻ってきた!」
「いつ見ても惚れ惚れするぐらい偉丈夫で美男子だなあ!」
天下無双の騎士が戻ってきた。しかも彼らから見れば仇敵のヘラを伴ってだ。戦場でみたときは『小さな死神』だの『吸血鬼』などと恐れたが、寝返り、味方としてやって来たのだと勘違いして誰もが近づいて褒めだした。
「かわいい。この子が先の戦いで我々を苦しめた、コーザの娘ですか!」
「あははあっ。とてもかわいらしいですね。しかも美人さんだ」
「……パラッツォ教徒となんだってね。一緒に寝てもくれるよね?」
好意的かつスケベな視線を向ける武将たちに、お菓子をもらったり金貨を与えられたりすると、ヘラはいい気になった。
「ふうん♥ だったらみんな、あとであたしの天幕においでよ♥ みーんなまとめて相手あげるからね♥」
「調子にのるな」
側にいたオクタヴィアがヘラの頭を小突いた。おまんことちんぽを使った交流は後、と言って会議を進めさせた。
イズヴァルトは教主コーザの親書を机の上に出し、和平を結びたいのでマハラ教団のお偉方と交渉がしたい、と告げた。イーズモーの武将の1人が、大変残念そうな顔で問いただした。
「僕らの陣に加わるんじゃ、なかったのですか?」
「いくさを止めに来たのでござるよ。教団は東のクボーニコフにコテンパンにやられて、へとへとになっているでござる」
しかしサイゴークの軍は、マハラ教団が音頭をとっている。そのマハラ教団に停戦と和議を求める為に、教団の代表として訪れたのだ、とイズヴァルトは伝えた。
「和議を結んでくれるなら、拙者が持っているサイゴーク諸国の領地をマハラ教に献上いたす。そもそも拙者は……スオニアのキッカワンテス家の縁者ゆえ、決して悪くない話でござろう?」
そこにミツクニュモスが。
「皆々様、キッカワンテスの当代のセーニャ姫こと、セシリア=セーニャ=キッカワンテスのご嫡男、イズヴァルト=シギサンシュタウフェン殿がこのように申しているわけです。キッカワンテスとマハラは切っても切れぬ間柄。そのうえキッカワンテスといえば、スオニア王家において筆頭とも言えるお家でございますから、この申し出をただの妄言、と言い切ることはできますまい……しかし」
もしここで、イズヴァルトの提案を蹴れば、あるいは、無かったものとして握りつぶす為に、当人やヘラに危害を加えることがあれば、この軍のマハラ教団とそれを支えるスオニア王国に仇をなすと思われても致し方がない、とミツクニュモスは言い放った。
「……そういうことずら」
椅子に座り、ぶうたれるヘラを抱えながら腕を組んでいたオクタヴィアも。
「イズヴァルトさんはパラッツォの衆の代表だけでなく、キッカワンテスんちのもんの一人として来ているわけずらよ。ついでに、おらたちカントニアのエルフの衆の大切な『ともだち』ずら。イズヴァルトさんはこのサイゴークでせっかく得た財産を、ぜーんぶマハラのもんにやろうって申し出ているわけだから、これはむげにはできんずらな。けどもし蔑ろにするんなら……おまんら、もちろんわかるだろう?」
イズヴァルトに友情を感じるエルフの衆は、すぐにでも手を引くぞ。エルフの部隊は半ばオクタヴィアが率いていた様なものだから、この脅しには効果があった。ピピン王子とシマーヅも、盟友たるエルフの意見に賛成していた。
「……しかしですね」
一人の武将が返した。イナーヴァニアの元武将だった。
「我らがヤマナウラスの大王陛下は、故国の地に戻れぬのでしょうか? そもそもが、そのためにこの度のいくさに加わった騎士や貴族が大勢おります」
「イナーヴァニアの件はまた、別の機会で教主どのと交渉いただきたいでござる。そもそもヤマナウラスの王様と御一門衆が追い出されたのは、貴族らのパラッツォ教徒への迫害を止められなかったからでござるよ……」
イナーヴァニアの武将らは、これ以上は言わなかった。ヤマナウラス王家は故国に先行部隊を侵入させるほど熱を入れていたが、奪還した後のことを考えておらず、国内に残っているパラッツォ教徒と、どう折り合いをつけるのかを知らされていなかったのだ。
【ギルバート=カツランダルク注:ヤマナウラス家は国を逐ったパラッツォ教徒に対し、虐殺も辞さぬ報復をしようと考えていた、と史書にある。サーガには言及は無いが、この陣地のあちらこちらで、捕虜となったパラッツォ教徒の処刑場があり、イズヴァルトが訪れた頃には数百もの死体が、坑に積み重なっていたという。】
というわけで話はまとまった。イズヴァルトはこの陣地の軍を引き上げさせ、皆とともにイナーヴァニアの国境へと向かった。そこにマハラ教団の高僧や、スオニアの王家に連なる将軍がいるという。
「それだけじゃありません」
出発する前にピピン王子は語った。アソマリアの炎の神の巫女であり、王子の幼馴染であり実質的な妻である、デボラとフロウラも来ているのだと。
「出発する前、デボラおねえちゃん……ではなくって、デボラ様は、お腹に僕の子がいる、と教えてくれました」
「それはめでたいでござる! ……確か、3人目でござるか?」
「デボラ様とは4人目ですよ。フロウラちゃんが……3人ですね」
いや、フロウラも出発の時、何度か吐いているのを見かけたから、彼女も懐妊したのだろうと王子は言った。アソマリアの巫女2人だけでなく、十名近くの妾をイーズモーに連れて来た。彼女たちも半数近くは、すでに腹が膨らんでいるそうだ。
「ウーゴを含めるとかれこれ、30人近く子どもができちゃいました」
「うむ。子沢山は良いことでござる。特にピピンどののような、一国の王子様は、たくさん作って育てたほうが良いでござるよ」
遺産の配分などで揉め事となるだろうが、子どもこそが財貨よりも大切な『おたから』である、とイズヴァルトは励ました。それから、今のところは王位継承を巡っての争いは起きそうになかった。ピピン王子も姫ばかりだが、彼の兄弟らは皆、子どもたちは娘ばかりだった。ウーゴ王子のライバルは、今のところ1人もいなかった。
果たしてイズヴァルトは3日のうちに、国境付近を本拠とする、連合軍の本陣に到着した。いまだ凍てつき、徒歩で渡れるヒーイ大河を隔てた、イーズモー側の城塞にあった。
河は馬や車輪がすべらぬよう、砂をまいた板が敷かれ、イズヴァルトは馬で河を渡っていた。その最中である。後方の馬車にいたピピン王子が窓から顔を出し、通信魔道士から受け取った知らせをイズヴァルトに告げた。
「フロウラちゃんが迎えに来ているそうです!」
果たして、騎乗する女ばかりの一隊が近づいてきた。しかしイズヴァルトは、先頭の馬に乗る女を見て驚き、思わず声をあげてしまった。
さて、司祭騎士団長が見たその女は、何者だったのか?
その続きについてはまた、次回にて。
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