【R-18】キスからはじまるエトセトラ【完結】

田沢みん

文字の大きさ
45 / 169

45、劣等感の塊

しおりを挟む
 
 仲直り後の行為が終わり、我に帰って見返した室内は、散々たる有様だった。

「俺がタオルを取って来るから!」

 天馬が処置室から患者の体を拭く蒸しタオルだとか雑巾を大量に持って来て、2人で身体を拭き合い、デスクと床の掃除をした。

「なんだか馬鹿ップル丸出しの図だね」
「……だな」

 床を拭きながら一緒に大笑いしていたら、本当に何でも話せるような気がして来た。
 彼にはもう、汚い部分も恥ずかしい所も全部曝け出している。今更格好をつけたり見栄を張ったりして何になるんだろう。
 天馬に本音を聞いてもらおう……そう楓花は決めた。


 改めてローテーブルを挟んで向かい合うと、まずは天馬が話を切り出す。

「楓花……俺たち気持ちは伝えあったけどさ、これからどうしたいとか、これから先のこととかをちゃんと話し合った事がなかっただろ?」
「……うん」

「俺の気持ちは今朝伝えた通りだ。俺はこの先もずっと楓花といたいし、周りのみんなにも伝えて堂々と付き合いたいと思っている。楓花は? 楓花の気持ちを聞かせてくれないか?」
「……うん」

 楓花は姿勢を正し、一つ深呼吸してから口を開いた。

「私は……天にいに劣等感を持ってます」
「劣等感?!そんなの、なんで……っ」

 天馬は慌てたようにその先の言葉を呑み込んで、楓花に先を話すよう促した。

「私は、いつか誰かと結婚する天にいを見ていたくなくて、地元から逃げ出した。天にいから拒絶の言葉を聞きたくなくて、告白することから逃げた。東京では仕事が上手くいかなくて、園児やその保護者から、仕事から逃げた。最後は東京での生活から逃げて……ここに辿り着いた」

 結局いつも逃げてばかりで自分で何一つ頑張っていなくて、流されて帰って来ただけなんだ。


『俺の気持ちとお前の気持ちはイコールじゃないような気がする』
 天馬にあんな言葉を吐かせたのは他でもない楓花自身だ。

 天馬は『心にも無いことを言った』と言っていたけれど、そうではなくて、あれは楓花の煮え切らない態度にイラついてつい こぼれた本音なのだろうと思う。

 そんな風に思わせてしまった自分に落ち込んだし、確かに自分たちはイコールじゃない……と納得してしまっている自分もいて……。

「だって、天にいは私にいろんな物を与えてくれる。金銭的な面とかだけじゃなくて、忙しい合間の貴重な時間だったり、安心感だったり、将来の約束だったり……」

 だけど自分には何もない。
半年間の引き篭もり生活で貯金は底を尽きかけていて、未来の展望も夢も無い。
 ついでに言えば、天馬の隣に立っていいと思えるだけの美貌もステータスも自信も無い。

「私はいつも与えられるばかりで、これじゃあ確かにイコールじゃないって言われても仕方ないな……って。私は劣等感の塊なの。このまま天にいといても肩身が狭いだけで、劣等感が積み重なって、いつかまた逃げ出しちゃうんじゃないかな……って、そう思ったの」

 そこまで一気に語ったところで、楓花は冷め切ったカフェオレをコクリと飲んでカップを置き、天馬を見つめた。

「これが今の私の気持ちです。全部聞いてくれてありがとう」

 天馬はジッと楓花を見つめてから自分もカップのコーヒーを飲み干し、コトンとテーブルに置く。そして膝の上で指を組んで一呼吸置いてから、ゆっくりと言葉を吐き出した。

「はぁ~っ……ごめん、俺が馬鹿だった」
「えっ、天にい……」

「悪かったな、楓花。同棲の話は取り消させてくれ」
しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

処理中です...