【R-18】キスからはじまるエトセトラ【完結】

田沢みん

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85、阿吽の呼吸 (1) side天馬

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「天馬先生、水瀬先生が今日でラストだったって本当ですか?」
「ああ本当だ」

「なんでもっと早く教えてくれなかったんですか!俺、今朝の引き継ぎで水瀬先生に聞くまで知りませんでしたよ!」

 日曜日の午前11時半。
 辻がナースステーションに入ってきて早々、カルテの記入をしている天馬に気付いて話しかけて来た。相変わらず声がデカい。

「まあ、俺も昨日本人から聞いたばかりだからな……水瀬先生、何か言ってたか?」

「えっ、ああ、大学病院も辞めてお父上の病院に入るって言ってましたよ。将来は『水瀬総合病院』の女院長ですか、カッコいいですね」
「……そうだな」

「送別会はいつにします? 良かったら俺が幹事しますよ。そういうの得意なんで」

ーー送別会か……水瀬の後に入るバイトの手配にばかり気を取られていたけれど、そう言えばそれも考えなきゃいけないのか……。

 天馬がいろいろ考えを巡らせている間も辻はいつもの高テンションだ。

「うわぁ~、それにしてもショック!水瀬先生は週末の目の保養、俺のオアシスだったのに」
「お前には彼女がいるだろう」

「ソレとコレとは別って言うか……そうそう、この前彼女に天馬先生の写真を見せたら、めっちゃテンション上がってましたよ。絶対ヤリチンの遊び人だって断言してました」
「ヤリチンじゃねぇし遊んでないし」

「はい、ヤリチンかも知れないけどちゃんと若い彼女がいるってフォロー入れときました」
「それ全然フォローになってないだろ」

「まあまあ、今度うちで一緒に鍋パーティーでもしましょうよ。あっ、うちって言っても彼女のアパートですけどね」

ーー彼女のアパート……か。

「なあ……辻ってさ、彼女と付き合ってどれくらいで同棲を始めたの?」

「えっ、いよいよ『紫の上』と一緒に住んじゃうんですか? エッチし放題ですね、おめでとうございます!」

 途端に周囲がザワついた。ナースの1人がボトンと点滴ボトルを落としたのが視界に入る。

「お前っ……! こっちに来い!」
「おっ、例の部屋ですね。喜んで!」

 天馬が辻の手をグイグイと引っ張って大股で歩いていると、ナースや患者がすれ違うたびに振り返って行く。

「へへっ、こんな風に手を繋いでたら、ナースの間でゲイ疑惑が出ちゃいそうですね。俺はウエルカムですけど」
「黙れっ!」

ーーダメだ、コイツ。大河と同系統の能天気ワンコ系だ。

 天馬は辻の手をバッ!と振り払うと、辻が言うところの『例の部屋』、5階の部長室へと先に立って歩き出したのだった。
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