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108、バレバレですよ
しおりを挟む「こんにちは、調子はどう?」
ひょっこりと顔を覗かせた天馬が、後ろ手でドアを閉めて当然のように入って来た。
いや、責任者なんだから来てもいいんだけど、悪くはないんだろうけど……。
ーーちょっと天馬、どうしてこのタイミングで来ちゃうの?!
「天馬先生、ちょうどみんなお昼寝中で、ここの方針なんかを楓花先生にお話していたところなんですよ」
金森先生の説明にふむふむと頷きながら、天馬の目はニコニコと楓花を見つめている。
ーーコラっ!こっちを見ちゃ駄目!視線でバレる!そして私の顔が赤くなる!
視線から逃げるように黙々と連絡帳に向かっていると、天馬が後ろから手元を覗き込んできた。
「楓花先生はどうですか? 初日で疲れてないですか?」
ーーうわっ、話しかけて来た!こっち来るな!
「はっ……はい。皆さんが親切に指導して下さって……はい、その……大丈夫です」
「それは良かった。頑張ってくださいね」
肩にポンと手を置かれ、コクコクと頷く。
ーー首まで熱い。絶対に顔が真っ赤になってる!
「あ~っ……これは……」
マキ先生の呟き。
「天馬先生、これはもう駄目です。言っちゃった方がいいですね」
金森先生の溜息混じりの言葉と苦笑。
「えっ、何? 2人とも」
戸惑う飯島先生。
「楓花先生、いいですね?」
金森先生にそう言われて頷いた。椅子から立ち上がると、天馬の隣に並ぶ。
「えっ楓花、いいの?」
驚く顔で天馬に言われ、『いやいやいや、あなたのせいですから』と心の中で毒づいた。
金森先生も立ち上がると、飯島先生とマキ先生に向かって改めて楓花の紹介をし直す。
「こちらの月白楓花さんは、天馬先生のフィアンセなのよ」
「いえっ、まだフィアンセなんて大そうな者では……」
「なんだよ、フィアンセでいいだろ?」
「はぁあ?!こんな所で何言ってるの?!」
そこまで言い合いをしたところで、注目を浴びていることを思い出して肩を竦める。
「お2人とも、本当に申し訳ありませんでした! 落ち着いたら話そうと思っていたんですけど、新人のうちは先入観なしで指導していただきたくて……」
ガバッと頭を下げると、
「偉いっ!権力を振りかざすことなく真面目に取り組もうとする姿勢は立派だわ!それに引き換え……」
天馬をジロリと見上げ、目を据わらせる。
「天馬先生、コレはダメですよ!ダダ漏れです!楓花先生への愛が漏れまくりです!彼女が必死に隠そうとしてるのに、何やってるんですか!」
矢継ぎ早に責められているのに、天馬はハハハッと嬉しそうだ。
「俺ってそんなにダダ漏れてた?」
「漏れてます。漏れまくりです。もうね、視線がいやらしいと言うか、好き好き光線が出てるというか……とにかくバレバレですよ」
そこまで言って、今度は楓花に向き直る。
「楓花先生、天馬先生のことを聞いて私たちが萎縮するかもって思ったんだろうけど、そんな心配いらないから。ほら、ここはこの通りアットホームで、職員同士も気心が知れてて言いたいことを言い合ってるから」
「ですが……」
「私も最初こそ天馬先生の前で緊張してたけど、何せこっちが歳上だし、今じゃオバさんパワーで要望も苦情もガンガン言わせてもらってる間柄なの。だから楓花先生にも遠慮無くビシバシ言うし、天馬先生がどうこうなんて気にしないわよ」
「なっ、だから大丈夫だって言っただろ?マキ先生は茜みたいなもんだから」
自分のせいでバレたというのに、天馬は悪びれもせずニコニコしている。
ーーそりゃあ内緒にしたいって言ったのは私だけれど……。
そう言えば天馬は最初から『バレても大丈夫だろ。いずれは言わなきゃいけないんだし』というスタンスだった。
なるほど、マキ先生は茜と同じようなキャラだと思えば納得できる。
面倒見のいい姉御肌なんだろう。
「……分かりました。改めまして……天馬先生のことと関係なく、新人保育士として御指導よろしくお願いします!」
深くお辞儀をすると、隣で天馬まで一緒に頭を下げてきた。
「ちょっと、何してるの?!」
「いや、俺もフィアンセとして……」
「いや、ここでは責任者としてビシッとしてなきゃ駄目でしょう!……ってか、まだフィアンセじゃない!」
「いや、親公認だったらフィアンセだろ」
2人のやり取りを見ながらベテラン3人組が顔を見合わせてクスクス笑い出す。
「もうね、2人合わせて私たちベテラン主婦がビシバシ指導しますから。とりあえず天馬先生は退場!」
マキ先生がドアをビシッと指差すと、他の2人が口に手を当ててフフッと笑った。
「先生……おしっこ……」
子供たちが起き始めた。お昼寝時間の終了だ。
楓花は苦笑する天馬の背中を押して部屋から追い出すと、保育士再開1日目の午後の仕事に取り掛かるのだった。
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