【R-18】キスからはじまるエトセトラ【完結】

田沢みん

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125、恋人時代

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「それじゃ結局、両方着ることになったんだ」

 1月中旬、日曜日の午後。『かぜはな』で並んで洗い物をしながら、楓花と茜は3月の結婚式の話題で盛り上がっていた。

「そうなの。私は白無垢が着られれば満足だからウエディングドレスは必要ないと思ったんだけど、天馬がどうしても見たいってうるさくて」

「ハハッ、アイツの方が夢見る乙女だね」

 クリスマスに判明した、お互いが思い描く結婚式スタイルの違い。天馬はチャペルの赤絨毯に誓いのキスで、楓花は花嫁行列で三々九度のさかずきだった。

『結婚式は花嫁が主役だって言うし、楓花が和風がいいって言うならそれで構わないよ。だけどウエディングドレス姿も見たいんだ。だってこの機会を逃したら一生見る事が出来ないんだろ? 』

 それに、お約束のドレス選びというのもやってみたいのだと天馬に言われて楓花は悩んだ。

ーーだったら天馬の希望を叶えてチャペルでの式にしても……。

 だけどその悩みはあっという間に解決した。
 披露宴を行うホテルで担当者に相談してみたら、結婚式で白無垢、披露宴でウエディングドレスというのもアリなのだという。
 おまけに挙式をしたいと思っている神社がそのホテルと提携していて、その場で挙式会場もおさえる事が出来た。

『駄目元で聞いてみるもんだな』

 隣でニカッと笑う天馬に頷いて、ドレス選びや料理選びの日にちまでトントン拍子で決まってしまったのだった。

「私が考えすぎちゃう方だから、天馬がポンポン決めてくれて助かってるの」

「まあ、基本俺様だからね。今日もその調子でポンポン決めてくれるわよ……あっ、噂をすれば……」

 今日はこれから天馬と2人でウエディングドレス選びに行くことになっている。
 その前にちょっとだけ患者の様子を見に行きたいという天馬を『かぜはな』で待っていたのだけれど、急いで仕事を終わらせて来たようだ。ほんの30分ほどで店に顔を出した。

「それじゃドレス選び、楽しんでおいでね!」
「ありがとう、行って来ます!」

 茜がドアの前に立っている天馬にヒラヒラと手を振りながら、楓花を見送る。

「それじゃ行きますか。めちゃくちゃ楽しみだな」

 楓花以上にニコニコ顔で、天馬が車を走らせた。


 ホテルが提携しているドレスサロンに行くと、早速天馬がドレス選びを開始した。

「うん、この3着だな」
 
 天馬が選んだのは全部スレンダーラインのロングトレーン。しかもベアトップで肩を露出しているものばかり。

「こういうのが好きなの?」
「ああ、大好物」

 大好物なのなら仕方ない。苦笑しながら次々と試着したら、全部ベタ褒めして写真を撮りまくって店員さんに笑われていた。

「う~ん、楓花はどれも似合うから困るなぁ……」

 右に左に移動しながらドレスを必死に吟味している姿を見ながら、店員さんがコソッと耳打ちして来た。

「新婦様は新郎様に愛されてますね。ベタ惚れじゃないですか」

「はい……本当に」

ーー謙遜するのも馬鹿らしいくらいに。

 言葉でも態度でも、毎日これでもかというくらい愛のシャワーを浴びせられて、隠すことなく愛情表現されて……こんなのもう、認めるしかないでしょ。


「楓花、どれがいいと思う? 迷っちゃうよな」

 天馬はそう言いながらも長くは悩まず、「コレだな」と指差したのが、ちょうど楓花もいいなと思っていたのだった。
 あっという間にそれに決めて店を出ると、表に出た途端、腰を引き寄せてチュッとキスされた。

「ちょっと! 人目!」
「ハハッ……幸せだな」

 悪びれもせずサラリと言われて怒る気も失せた。

「うん……本当に幸せ」

 こうして恋人でいられるのもあとたった2ヶ月。
 だったら恥ずかしがったり遠慮したりせずに、自分も天馬に与えられる以上に愛情を示して、この残り少ない恋人の時間を楽しもう……。

 そう考えて、天馬の腕にギュッとしがみつく。

「天馬……大好きだよ。お嫁さんになるの、楽しみ」

 甘えるように見上げたら、途端に天馬の顔がボボッと真っ赤になった。

「お前さぁ~、不意打ちは卑怯だろ」

 片手で前髪を掻き上げながら、参ったという表情になる。

「……帰ってシャワーを浴びようか」
「駄目だよ、これからホテルで打ち合わせでしょ?」

「打ち合わせが終わったら……帰ってシャワーを浴びようか」
「……シャワーが大好きだね」

「ああ、大好きだね。楓花と浴びるのがな。シャワー無しでベッドに直行パターンもあるけど、どっちがいい?」
「……シャワーでお願いします」

 今度は楓花の方が頬を染めながら答えると、

言質げんち取ったからな」

 ニッと口角を上げて、楓花の手を引いて小走りになる。

「急ぐぞ!10分で打ち合わせを終わらせる!」
「そんな無茶な!」

「恋人時代の楓花を抱けるのはあと少しだけなんだぞ。時間が勿体ない!」

ーーあっ……。

 天馬も自分と同じように感じてくれていたのだと思うと、感動で胸が熱くなった。

ーーうん、そうだね。時間が勿体ない。

「うん、天馬、急ごう!」
「えっ? ……あっ、待てよ!」

 今度は逆に手を引いて走り出した楓花を、天馬が笑顔で追い掛けた。

 恋人期間終了まで、あと2ヶ月。
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