煉獄の歌 

文月 沙織

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十二

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「くっ」
 かなうこともなく、逆に抑え込まれてしまう。
 嶋は真っ青になって震えながら、見ていることしかできないでいる。
「ほうら、坊や、どうする? 自分でやってみるか? 人前で、俺にしてもらうか? どっちがいい? 選べ」
「こ、この卑怯者! おまえ、それでも木藤の若頭かよ! 侠道きょうどうはないのかよ?」
 自分の置かれた状況も忘れて、敬は言わずにいられない。
「躾のなってない餓鬼に言われる筋合いはないな。ほら、さっさと選べ」
 歯軋りしている敬を面白そうに見てから、瀬津はさらに声をあげた。
「しょうがねぇな。岩田、呼んでこい」
「はい!」
 今にも走り出して本当に人を呼んできそうな岩田に、敬は声を荒らげた。
「行くな! やるよ! やればいいんだろう!」
「ほう」
 敬は目元を赤く染めて、膝立ちのまま、瀬津と向き合うように身体の向きを変えると、おのれの肉体の最も見られたくない箇所へと手を伸ばした。
「そんなに見たきゃ、見せてやるよ!」
「ふん、口はいっぱしだが、どうした、その様は?」
 敬は悔しさににまた涙ぐんだ。
 屈辱と怯えの方が勝って、身体はなかなか応えようとしない。激しい羞恥も歯止めになってしまう。
「そら、どうした? 手が止まっているぞ」
「畜生! 畜生! 畜生! 殺してやる! いつか、貴様を絶対殺してやるからな!」
「ふん、そんな格好でよく喋る餓鬼だな」
 敬の閉じた瞼から悔し涙があふれ出た。
 嶋もまた、敬以上に悔しげな顔付きだが、それでも敬の白い背から目を離せないでいる。岩田などはよく見ようと、近寄ってくるぐらいだ。そんな相棒とは距離を置いて、一人やや冷めた様子で陸奥は考え込むように下唇を噛んでいる。
 だが冷静な陸奥も、さすがに敬がまた白い頬を真っ赤にして、やがて羞恥の極限へとみずから昇りつめていく様子には心を揺さぶられだしたようで、目を逸らす気配はない。
「はっ……、ああ……」
「遂くか? 遂きそうか? お客さんにしっかりと見てもらえ」
「あっ!」
 あと、もう数歩、というところで瀬津は、敬の身体の向きを変えさせた。
 嶋が目をまたたかせた。
 ちょうど、嶋の目の前に敬は恥ずかしい全てを晒される羽目になった。
「ああ……! み、見るな!」
 嶋の視線は、他の男たちの目よりも激しい羞恥の苦痛を敬にあたえる。
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