煉獄の歌 

文月 沙織

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 パシン、パシン――。

 春の風が吹きつけてくる道場の板場の上で、敬は剝きだしの尻を打たれつづけた。
 二人の組員はうろたえた様子で、だが去ることもなく、凛々しい兄が、可憐な異母弟を打擲ちょうちゃくする、という芝居絵のような光景に目をくぎ付けにされている。
 組員の一人が、色黒の頬を赤黒く染め、食い入るように敬の白い尻を見ていることに気づいて、敬は悔し泣きした。
 普段は、顎で使っている組員に、こんな不様な姿を見られる辛さが、敬のなかに吹きあれる熱風をいっそう煽る。
「い、いや、やっ、やだってば!」
 こんなひどいはずかしめをあたえる勇に恨みがわき、白い頬に涙を流した。
「馬鹿だなぁ……」
 ひとしきり折檻が終わると、勇は敬を抱きあげ、涙に濡れた頬に接吻した。
「もうしないな?」
 何度も言われ、夢中になって首を縦に振る敬に、勇はやっといつもの兄らしい優しい笑みをかえしてくれた。
「いい子だ、敬は」
 抱きしめて頭を撫でてくれる。
「泣くなって。敬はやっぱりいい子だ」
 優しく抱かれ、頬ずりされ、敬は兄の情愛に酔いしれずにいられない。
 泣いている弟を慰めようとしてか、勇は人形のような敬の顔を両手でつつみこむと、おのれの唇を、桜ん坊のような敬の唇にかさねた。
 チュッ……、という可愛い音が響く。
(あっ……)
 敬はその甘やかな音に目がくらみそうになった。
 兄は自分を嫌ってなどいない。それどころか、深く愛してくれているのだ、というたまらない幸福感が桃色の春霞のように敬の全身を優しくつつみこむ。
「ごめん、兄さん、ごめんなさい」
 まだズボンをずらされたままの恥ずかしい格好だというのに、つい夢中になって兄に抱きついたので、下腹を押し付けるような形になってしまう。
(あっ……)
 敬は耳まで熱くなった。
 敬は股間に言い知れない熱と快楽を感じてしまっていたのだ。
 そして……、敬の中心からは、生の証しのようなしたたりがほとぼしり、兄のシャツを濡らしてしまっていた。

「……」
 羞恥に耐えれず目を閉じていても、兄が目を見張っているのが知れる。
 それは、生まれて初めての経験だった。
 どどどどーと、敬のなかで雪崩なだれが起こる。
「あ……」
 おそるおそる目をあけ、見上げると、兄は眉をしかめながらも、目で笑っている。低い笑い声が聞こえる。
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