煉獄の歌 

文月 沙織

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「いいじゃねぇか。俺にもさせろよ」
 やんわりと、たしなめた鬼若の声は、瀬津のはずんだ声に打ち消される。
「あ、あ、やめろ! よせ、よせったら!」
 敬は、堕とされる、という本能的な恐怖にますます身をすくませ、全身をこわばらせた。そんな敬の緊張を嘲笑あざわらうかのように、蕾のふちに、固いものが触れてくる。
「あっ、ああ……!」
 固いものは、瀬津の人差し指のようだ。
 ぬめったように感じるのは、薬にまみれているからだろう。
 揶揄からかうように、指が縁をなぞるのが感じられる。敬は熱くなってきた顔を畳に伏せた。
 目を閉じ、己の心を闇に閉じ込め、どうにかしてこの屈辱の嵐をやり過ごそうとしたが、瀬津はそんな敬の些細な避難も見逃してはくれない。
「ひっ……、あっ!」
 指が、挑発するように敬の初心な箇所をくすぐる。
 くっ、くっ、くっ……。嘲笑の鞭が敬の耳を打つ。
 ねっとりとした、軟膏のようなものが、蕾の中心にさらに塗りこまれていくのを感じて、敬は四肢の震えを止めれない。
(あっ……)
 次に起こった敬自身の身体の反応は、苦悶に耐えている敬をさらに打ちのめす。
(なっ……! そ、そんな、)
 身体が熱を持ちはじめ、その熱が内側から敬を炙る。
「おやおや、やっぱり若いですね」
 鬼若の声には、ちいさな驚愕も込められている。
「え? どうだ、先生? これでも、こいつは男娼に向いてないというか?」

 ぐり――……。

 そんな音が聞こえた錯覚に、敬は悲鳴をあげていた。
「おおっと」
 さらに聞こえてくる瀬津の嘲弄ちょうろうするような声。
 信じられないことに、このひどい責め苦に、敬の下半身は反応しているのだ。
 敬は自分を裏切った自分の肉体に歯噛みした。畳に伏せた顔に汗を感じて、不快感に眉を寄せる。
 上半身を押さえていた大林が、気をきかしたのか、一瞬、肩が軽くなったかと思うと、大きな座布団をあてがわれた。
「うっ……」
 室の雰囲気に合わせた緋色の布を張ったもので、敬はそのふっくらした感触のうえ顔を乗せられる。
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