煉獄の歌 

文月 沙織

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 最初はまさか、と思ったが、噂は噂ではなかった。そして、どういうわけか、瀬津は、木藤組のしたと多少面識があったにしか過ぎない田中に目を留め、この屋敷へと連れてきたのだ。
 瀬津に呼ばれたときには、何か裏があるのでは、と疑ったが、瀬津ほどの男が、自分のようなチンピラをみずからどうこうするわけもなく、ひたすら不気味がりながらも、この屋敷にきて、ちぎられた花びらのように追い詰められていた敬を見、すぐに田中は自分が呼ばれたわけに気づいた。
 瀬津は、とことん敬を傷つけ、おとしめるために自分を呼んだのだ。
 街のダニのような存在である自分のような男の手によって汚されることで、敬の汚辱感をいっそう激しいものにしたいのだ。おそらく、敬が田中を蔑んでいたという事実が、田中が選ばれた一番の理由だろう。見下していた相手にもてあそばれるなど、これほど悔しいことはない。
 実を言うと、こういう役割を与えられたことは今までにも何度かある。相手は女性だったが。
 孤児で施設育ちで、そのまま不良、チンピラとして生きてきた田中のような男は、そういったことを仕事として生きることに、なんの躊躇とまどいもない。
 しかも、今度の相手は、安賀敬である。一生、触れることもできないと思っていた相手だ。
 その敬の白い肌を目にし、柔かな肉を触り、屈辱に泣かせたのだ。
 たまらない。
「敬……」
 名を呼んでみる。
「も、もう、止せ……!」
 また遊ばれるのかと怖れた敬が――敬が田中を怖れているのだ!――、なけだしの力で田中の腕を振り払おうとするのを、さらに抑えこみ、田中は囁いた。
「大丈夫だって……。何もしないから」
 と言いつつ、乱れた裾をまくりあげ、敬の、怯えて縮こまっている芽をさぐり当てる。
「ああ、よせ!」
 あれほど酷い目にあわされても、失くすことのない羞恥の感情に頬を赤くしている敬が、ふと、いじらくしくなり、田中は芽をいたわるように指から力を抜いた。
「大丈夫だから。……気持ち良くしてやる」
「はっ、ああっ!」
 田中がしようとしている行為には、まだあまり慣れていないらしい敬は、田中が予想した以上に狼狽うろたえ、怯えた。
「い、いや、そ、それ、嫌! やめろ! やめて! もう、止めろぉ……。は……あ……」
 敬の悲鳴は、淫靡いんびな水音に負けていく。
「ああ……」
 施設にいたころ、年長の孤児たちに強制されて無理やり教えこまれた行為だが、今はむしろ喜んでやりたい。
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