煉獄の歌 

文月 沙織

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 そして……
「あ、ああ!」
 ぐり、ぐり、と粗野な指が繊細な内壁に軟膏を塗りつける。
「ひっ! よ、よせ!」
 客席から息を飲むような音も聞こえる。
「あ、ああ……」
 すでに、蕾は官能を教えこまれていた。
 おぞましい男の指だというのに、すぐ順応し、情けないことに、物欲しげに内側から肉の壁が指に吸いついていくようで、敬は恥辱のあまり気が遠くなりそうになった。  
「あ……ああ!」
 無我夢中で敬は首を振る。
「おお。感度がいいですねぇ。悪い子ですね。見かけによらず、これはとんだおませちゃんです」
 司会者のふざけた言葉に、今度の笑い声は前より大きく響く。
「いやぁ、敬ちゃん、立派なオカマになったんですね。これで、あの世のお父さんも喜んでいらっしゃることでしょうよ」
 父のことを言われるのは、敬にとっては身を切り刻まれるより辛かった。もう少し身体に力が入れば、舌を噛み切っていたろう。
 だが……塗り込まれた軟膏のせいか、この異常な状況のせいか、敬の身体はまるで敬の意志と切り離されたように、思うようにならず、指を動かすこともできない。男たちに腕を取られていなかったら、その場に崩れ落ちていたかもしれない。
 それなのに、腰のあたりは燃えるように熱く、その辺りで渦巻く血の流れる音が聞こえそうだ。
(な、なんだ……! これは……)
 敬は苦しげに息を吐いていた。だが、その吐き出した息のなかに、なにやら甘いものが混じっている。
(あ……、そんな!)
 気づいた司会者がはしゃいだ。
「おやおや、敬ちゃん、感じてきているようですよ。あそこが元気になってきています。やっぱり若いですねぇ」
 どっ、と観客たちがわく。
 敬は激しく打つ自分の鼓動を憎んだ。
 いっそ、今すぐこの鼓動が完全に止まってくれれば、とすら思った。
 だが……。
「いいか。指抜くからな。力抜け」
 マイクを遠ざけ、小声で司会者が敬にだけ聞こえるように囁く。
(あっ……)
 そっと……、体内を抉る棘が消えたのを感じる。
(ああ……)
 こんな状況であるというのに、男が指を敬の身体から抜くときの仕草は異様に優しげで、敬を完全に打ちのめした。
 ゆっくりと、しずかに退いた指の熱と感触に、敬は――死んでも認めたくないが――未練を覚えていたのだ。
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