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三
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近くの客の手が伸びてきて、敬の顎をとらえる。
「可愛いワンちゃんだ」
「はなせ!」
敬は咄嗟に男の腕を振り払った。
「おや、おや、気の強い子だ。さすがにヤクザの息子だけあるね。いったい、幾ら出したら、遊べるのかな」
「今夜のところは御勘弁を。代わりに、ほうら、ワンちゃん。もう一回ちんちんして」
「うう……!」
いや、いや、と首を振っても、強い力でロープを引かれ、上体を上げざるを得なくなる。
周囲の客たちが湧く。笑いと、小馬鹿にしたような拍手の音が針の波となって敬の全身に刺さる。
敬は、憤辱のあまりいっそ死ねたら、と願ったが、伸びてきた客の手に胸を撫であげられ、否応なしに生き続ける者の苦しみを知らされた。
息がせり上がり、鼓動が激しくのたうち、思考能力が衰えて、まともにものを考えられなくなってきたのが救いだった。
いっそ暗い闇にすべてをまかせたいと意識が遠のきかけた瞬間、身体の中心に激しい痛みが走った。
「はぅ!」
身体をよじって苦痛をうったえる敬の耳に、嘲弄をふくんだ声が響く。
「おいおい、坊や、気を失うのは早いだろう」
ねっとりと、太腿を這うしめった手の感触が敬の背骨をこわばらせる。
敬は次の瞬間、男たちの手によって、近くにあったローテーブルの上に仰向けにされていた。
わらわらと、他の客たちが寄ってきて敬を取り囲む。幾つものねばつく視線に責め嬲られる。
どこまで堕とされても消え切ることのない羞恥の感情がまた刺激され、終わることのない苦痛の波が寄せてくる。
「い、いい加減に、はなせよ!」
身体のすべてをあますところなく見られる姿勢の恥ずかしさに、もがいたものの、複数の手によって抵抗を完全に抑えられてしまう。
「可愛いな」
「ううっ……」
屈辱に身を焼かれながらも気を引かれたのは、男の声に聞き覚えがあるせいだ。
薄暗い店内のほのかな照明のなか、敬は自分をもてあそんでいる男を見ていた。
(どこかで……会ったことがある?)
大顔で、どこか田舎臭い男だ。
着ている物も成金趣味で、生理的にいけ好かないタイプだ。それだけに印象に残っている。
「おお、思い出してくれたか?」
「あ、あんた……」
思い出した。父の通夜で大声でしゃべりまっくっていた男だ。たしか……宇田と呼ばれていた。敬の唇は無意識に相手の名を告げていたようだ。
「そうだよ。坊やのお父さんのお葬式で会ったかな? いやぁ、あのときも本当に綺麗な子だと思ったが……。こうして裸に引ん剝いてみると、ますます綺麗だねぇ」
「可愛いワンちゃんだ」
「はなせ!」
敬は咄嗟に男の腕を振り払った。
「おや、おや、気の強い子だ。さすがにヤクザの息子だけあるね。いったい、幾ら出したら、遊べるのかな」
「今夜のところは御勘弁を。代わりに、ほうら、ワンちゃん。もう一回ちんちんして」
「うう……!」
いや、いや、と首を振っても、強い力でロープを引かれ、上体を上げざるを得なくなる。
周囲の客たちが湧く。笑いと、小馬鹿にしたような拍手の音が針の波となって敬の全身に刺さる。
敬は、憤辱のあまりいっそ死ねたら、と願ったが、伸びてきた客の手に胸を撫であげられ、否応なしに生き続ける者の苦しみを知らされた。
息がせり上がり、鼓動が激しくのたうち、思考能力が衰えて、まともにものを考えられなくなってきたのが救いだった。
いっそ暗い闇にすべてをまかせたいと意識が遠のきかけた瞬間、身体の中心に激しい痛みが走った。
「はぅ!」
身体をよじって苦痛をうったえる敬の耳に、嘲弄をふくんだ声が響く。
「おいおい、坊や、気を失うのは早いだろう」
ねっとりと、太腿を這うしめった手の感触が敬の背骨をこわばらせる。
敬は次の瞬間、男たちの手によって、近くにあったローテーブルの上に仰向けにされていた。
わらわらと、他の客たちが寄ってきて敬を取り囲む。幾つものねばつく視線に責め嬲られる。
どこまで堕とされても消え切ることのない羞恥の感情がまた刺激され、終わることのない苦痛の波が寄せてくる。
「い、いい加減に、はなせよ!」
身体のすべてをあますところなく見られる姿勢の恥ずかしさに、もがいたものの、複数の手によって抵抗を完全に抑えられてしまう。
「可愛いな」
「ううっ……」
屈辱に身を焼かれながらも気を引かれたのは、男の声に聞き覚えがあるせいだ。
薄暗い店内のほのかな照明のなか、敬は自分をもてあそんでいる男を見ていた。
(どこかで……会ったことがある?)
大顔で、どこか田舎臭い男だ。
着ている物も成金趣味で、生理的にいけ好かないタイプだ。それだけに印象に残っている。
「おお、思い出してくれたか?」
「あ、あんた……」
思い出した。父の通夜で大声でしゃべりまっくっていた男だ。たしか……宇田と呼ばれていた。敬の唇は無意識に相手の名を告げていたようだ。
「そうだよ。坊やのお父さんのお葬式で会ったかな? いやぁ、あのときも本当に綺麗な子だと思ったが……。こうして裸に引ん剝いてみると、ますます綺麗だねぇ」
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