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策略 三
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純白のターバンから黒い髪が瀧のように流れている。肌は異教徒らしく飴色だ。ここからでも見える黒い瞳は、剣呑のなものをふくんでいて、どこかエゴイの目を思わせるが、彼の目よりもはるかに黒く、激しいものを秘めているように見える。
「女王は、余を娘の婿にと望むのか?」
低い声だが、耳に心地良い。なかなか美声だ。
「はい。我が国のイサベル女王陛下は、ディオ陛下と親密になりたいと望んでおられます」
「そうか。……アベルとやら、もっと近う」
「は」
緊張しながらも、さらに玉座に進むと、相手の顔がすぐそばまで近づく。
大空を飛ぶ黒い鷹を思わせるような、大地を駆ける黒い獅子を思わせるような男……。そんな男の目に、自分はどう映っているのか。こんなときにアベルは妙なことを思っていた。が、次の瞬間、相手は思いもよらぬことをした。
「う!」
いきなり、唇を奪われたのだ。背後には臣下たちがいるというのに。
「お、お戯れを!」
あわてて顎をつかんだ手を振りはらった。うしろでドミンゴが目を丸くしているのがわかる。背中からハルムや臣下や女たちの息を飲む音が聞こえてきそうだ。
「ハハハハハハ!」
ディオ王はのけぞって笑った。宝石を散りばめた純白の衣が揺れるほどに。
「面白い。よし、決めた。縁談を受けよう」
アベルは目をぱちぱちとさせていた。こんなにあっさり受諾されるとは。
驚きはしたものの、願ってもないことだ。
「あ、ありがたき申し出で。それでは、その旨をすぐ文書にしたため、」
「それよりも、今すぐ、余は代理結婚を望む」
唐突なディオ王の言葉にアベルはまた目を瞬いた。
代理結婚とは、当人が儀式に出れないときに、代わりの者が儀式を行うことになる。むろん、形式的なものだ。
「アベルよ、そなたに王女の代理として結婚式を挙げることを求める」
また唐突だが、男が花嫁の代理をすることも珍しくはない。
「で、ではわたくしがマーリア王女の代理を勤めさせていただきます」
代わりに誓約書に署名をするぐらい、とアベルは踏んでいた。
「では、早速、今宵結婚式を取り行う」
「はい」 と、アベルは答えたいた。
このとき、彼はまだ知らなかった。ディオ王の言う代理結婚というものが、どういうものなのか。
知っていれば、殺されても承知することはなかったろう。
「女王は、余を娘の婿にと望むのか?」
低い声だが、耳に心地良い。なかなか美声だ。
「はい。我が国のイサベル女王陛下は、ディオ陛下と親密になりたいと望んでおられます」
「そうか。……アベルとやら、もっと近う」
「は」
緊張しながらも、さらに玉座に進むと、相手の顔がすぐそばまで近づく。
大空を飛ぶ黒い鷹を思わせるような、大地を駆ける黒い獅子を思わせるような男……。そんな男の目に、自分はどう映っているのか。こんなときにアベルは妙なことを思っていた。が、次の瞬間、相手は思いもよらぬことをした。
「う!」
いきなり、唇を奪われたのだ。背後には臣下たちがいるというのに。
「お、お戯れを!」
あわてて顎をつかんだ手を振りはらった。うしろでドミンゴが目を丸くしているのがわかる。背中からハルムや臣下や女たちの息を飲む音が聞こえてきそうだ。
「ハハハハハハ!」
ディオ王はのけぞって笑った。宝石を散りばめた純白の衣が揺れるほどに。
「面白い。よし、決めた。縁談を受けよう」
アベルは目をぱちぱちとさせていた。こんなにあっさり受諾されるとは。
驚きはしたものの、願ってもないことだ。
「あ、ありがたき申し出で。それでは、その旨をすぐ文書にしたため、」
「それよりも、今すぐ、余は代理結婚を望む」
唐突なディオ王の言葉にアベルはまた目を瞬いた。
代理結婚とは、当人が儀式に出れないときに、代わりの者が儀式を行うことになる。むろん、形式的なものだ。
「アベルよ、そなたに王女の代理として結婚式を挙げることを求める」
また唐突だが、男が花嫁の代理をすることも珍しくはない。
「で、ではわたくしがマーリア王女の代理を勤めさせていただきます」
代わりに誓約書に署名をするぐらい、とアベルは踏んでいた。
「では、早速、今宵結婚式を取り行う」
「はい」 と、アベルは答えたいた。
このとき、彼はまだ知らなかった。ディオ王の言う代理結婚というものが、どういうものなのか。
知っていれば、殺されても承知することはなかったろう。
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