黄金郷の夢

文月 沙織

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毒菫 五

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 アベルは敷き布を握りしめて、下肢を打つアーミナの言葉の鞭に耐えた。
 貴族だからと言って苦労がなかったわけではない。だが、今ここでそんなことを言うのは虚しいだけだし、宦官の色子風情ふぜいに己の家庭の事情を言うのは、アベルの貴顕の身としての誇りがゆるさない。
「本当に、綺麗だ……。遠い国に降るという雪みたいな色だ……」
 うっとりとした口調で呟くや、エリスは褥の上に乗ると、そっとアベルの臀部を両手で撫ではじめた。
「あっ……、よ、よせ!」
 触れてきた、あたたかな人肌の感触にアベルの背がふるえる。
 カイもまた褥のうえで膝を突くようにすると、手にしていた小瓶をかたむける。
「ん……んん」
 背にしたたる液体が、小蛇のようにアベルの背でのたうつ。その微妙な感触がこそばゆく、アベルはのけぞった。
「は……ああ……」
 背に広がるしたたりは、エリスとアーミナの手によって、腰へ、足へ、手へと、ひろげられていく。
「まずは尻を徹底的に揉むんだ」
 カイの冷ややかな声にしたがって、臀部に二人の手が伸びる。
「うっ!」
 どちらがどちらの手かわからないが、臀部の左側を強く揉まれ、アベルは四肢をこわばらせた。直観で、それはアーミナの手だと悟る。ぎゃくに、右側の臀部はやさしく揉まれる。だが、いくら丁寧に扱われても、その手はアベルにとっては鞭より過酷なものだった。
「はぁ……ああ……」
 油にまみれた四つの手で、本当に文字通り、徹底的に揉まれた。時折り手は背にも伸び、太腿や、足をさすり、両の胸にまで伸びてくる。
「い、いやだ!」
 昨夜散々いじられた場所をまた襲われ、アベルは首を振らずにいられない。それを寝台に下りて横から見ていたカイが、冷静に指示を出す。
「胸は今日はいい。尻と……太腿あたりを揉んでやれ」
 カイの口調は厳しいものとなっており、感情を失くしたように冷たく響く。
 アベルは敷き布を引き裂かんばかりに握りしめ、全身を震わせはじめた。
「おやおや。尻を揉まれて感じはじめたみたいだな。本当に淫乱なお貴族様だな」
 アーミナの声が針となって鼓膜に突き刺さる。
「素質があるのはいいことだよ。たまにまったく無い奴隷がいるけれど、そうなると苦しいばかりで、結局最後には自害してしまったじゃないか」
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