黄金郷の夢

文月 沙織

文字の大きさ
66 / 150

花、開くまで 五

しおりを挟む
 その言葉はアベルにとって逆効果だった。
「こ、断る! 何故、私があの女にいたぶられなければならないのだ!」
「そんなことを言って、昨日はアイーシャ様に苛められて悦んでいたじゃないか」
 アーミナが、首をアベルの腕に抑えこまれたままの苦しい体勢で、せせら笑った。
「貴様! 殺してやる」
 アベルが本気で腕でアーミナの首を挟み、そのまま息の根を止めようとしているのを見て、エリスは溜息をついた。
「もう、本当にしょうがないな」
 言うや、彼は寝台の天蓋てんがいから伸びている緑色の房紐に手を伸ばす。鈴の音が響き、両開きの扉が大きく開いた。
 アベルは息を飲んだ。
 そこには、なめし革の防具で身を飾っている巨体の宦官兵士たちが五人、並んでいたのだ。
「……!」
 アベルが叫ぶ間もなく、兵士たちは室に踊り込み、アベルの手足を抑え込んだ。本当にあっという間のことで、アベルはなす術もなく、大理石の床に押し付けられてしまった。

「馬鹿だなぁ。鎖を外したからには、兵士を備えておくのは当たり前だろう」
 愚かな子どもを嘲るようなアーミナの高飛車な態度にアベルは悔しさのあまり歯軋りした。
「放せ!」
 たやすく両腕を宦官兵二人に取られ、いつものように両手首を鎖に繋げられてしまう。
「もう鎖は必要無いと思っていたけれど……。どうしたもんだろうね。やっぱり鞭打ちの許可を陛下に願いでようか?」
 エリスは至極しごく真面目に言い、顔を曇らせる。彼としてはアベルを傷つけたくはないのだろうが、彼からの憐憫などアベルには鬱陶しいかぎりだ。
「それしかないだろう? 馬鹿な奴隷を躾けるには叩くのが一番さ」
「でも、こんな綺麗な肌に傷をつけるなんて……」
 アベルを前に二人の少年宦官がそんな会話をしていると、
「奴隷がまた手こずらせているんですって?」
 真紅の裳裾をひるがえし、女王然として扉を割って入ってきたのはアイーシャだった。寝起きだったのか、長い黒髪は結うことなくそのままで、背に垂らしている。こういう姿で平然と出歩くこと自体、型破りな側室だが、周囲は慣れているようで誰一人おどろいていない。
 宦官兵たちが一斉にアイーシャに向かってこうべを垂れる。彼女の背後には今日も例のジャムズが控えている。
 エリスとアーミナは軽く寵姫に向かって礼をしたが、それに応える間もなく、居丈高にアイーシャは声を放った。 
「本当に聞き分けのない奴隷ね」
「どうしたものでしょう? 今、鞭打ちを考えておりました」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

機械に吊るされ男は容赦無く弄ばれる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

無慈悲な機械は逃げる穴を執拗に追いかける

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...