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九分咲き 二
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咄嗟に、何を言っていいかもわからず、アベルは真赤になって、頑是ない幼児のように首を振るしかできない。そんな、この時代の二十二の男にあるまじき幼稚な仕草が、悪女の加虐欲をさらに煽ったようだ。
「ほほほほほ。ほうら、よおく見せてごらん」
「や、やめろ! 汚らわしい!」
アベルの声はほとんど悲鳴になって、不覚にも湿り気さえ帯びていた。
「ふん、なにが汚らわしいよ。ここを……ここまで見せておいて。ほら、」
アイーシャの、藩紅花で薄紫色に染めた爪がアベルの分身をいたぶる。
「ひっ!」
ぐりぐり、と、肉体のなかで一番繊細な、一番感じやすいところを親指と人差し指で摘まれ、アベルはのけぞった。
「い、いやだ! はなせ!」
まだ一度も異性に触れられたことのなかった箇所を、異国の淫婦に揉みくちゃにされ、悔し涙を流しそうになった。菫たちですら、そこは手荒く扱ったことはなかったアベルの聖域である。
「あっ、ああっ!」
女の文字通り魔手からどうにか逃れたくとも、両手の鎖と背後の巨体の宦官二人が許してくれない。
「ひっ、いや、いやだ、も、もぉ、はなせ!」
さすがに見かねたエリスが、やんわり制止の声を放たなかったら、アイーシャの指による拷問は果てしなくつづいたろう。
「アイーシャ様、傷つけないでくださいよ。伯爵は陛下の物で、私たちは今お預かりしているだけなのですから」
王侯貴族の側室、妾を色奴隷にすべく訓育する権利を持つ菫たちだが、いくら調教をほどこす権利を持っていても、基本的に奴隷の生殺与奪の権は、金を出して彼らを買って持ち主となった王族、貴族だけのものであり、もし消えない傷を作ったり、万が一にも死なせるようなことがあれば、いくらグラリオン宮殿において特権階級者とされる菫たちとはいえ、ただではすまされない。実際、過去には、うっかり奴隷の肌に傷をつけてしまった菫が、持ち主である王族の怒りに触れて斬首された事実もあるほどだ。
だからこそ、アーミナですら、そこは弁えていて、アベルを調教する際には、どれほど暴言を吐き、乱暴な態度を取ってはいても、身体に触れるときは髪一筋ですら傷つけないように細心の注意をはらっているのだ。
「わかっているわよ、うるさいわねぇ」
いましましげにアイーシャは吐き捨てる。
「それに、アイーシャ様、ご側室や妻妾同士の交わりは、陛下のお許しがない限り駄目ですよ」
我が儘な幼女を戒めるようにエリスが尚も言うと、アイーシャの眦が吊りあがった。
「わかっているわよ! しつこいわね!」
だが、見るからにアイーシャは、檻に入れられた雌獅子さながら苛々している。これほどの珍味を前にして、口に入れることができないもどかしさに、いっそう飢えがつのっているのだろう。
「ほほほほほ。ほうら、よおく見せてごらん」
「や、やめろ! 汚らわしい!」
アベルの声はほとんど悲鳴になって、不覚にも湿り気さえ帯びていた。
「ふん、なにが汚らわしいよ。ここを……ここまで見せておいて。ほら、」
アイーシャの、藩紅花で薄紫色に染めた爪がアベルの分身をいたぶる。
「ひっ!」
ぐりぐり、と、肉体のなかで一番繊細な、一番感じやすいところを親指と人差し指で摘まれ、アベルはのけぞった。
「い、いやだ! はなせ!」
まだ一度も異性に触れられたことのなかった箇所を、異国の淫婦に揉みくちゃにされ、悔し涙を流しそうになった。菫たちですら、そこは手荒く扱ったことはなかったアベルの聖域である。
「あっ、ああっ!」
女の文字通り魔手からどうにか逃れたくとも、両手の鎖と背後の巨体の宦官二人が許してくれない。
「ひっ、いや、いやだ、も、もぉ、はなせ!」
さすがに見かねたエリスが、やんわり制止の声を放たなかったら、アイーシャの指による拷問は果てしなくつづいたろう。
「アイーシャ様、傷つけないでくださいよ。伯爵は陛下の物で、私たちは今お預かりしているだけなのですから」
王侯貴族の側室、妾を色奴隷にすべく訓育する権利を持つ菫たちだが、いくら調教をほどこす権利を持っていても、基本的に奴隷の生殺与奪の権は、金を出して彼らを買って持ち主となった王族、貴族だけのものであり、もし消えない傷を作ったり、万が一にも死なせるようなことがあれば、いくらグラリオン宮殿において特権階級者とされる菫たちとはいえ、ただではすまされない。実際、過去には、うっかり奴隷の肌に傷をつけてしまった菫が、持ち主である王族の怒りに触れて斬首された事実もあるほどだ。
だからこそ、アーミナですら、そこは弁えていて、アベルを調教する際には、どれほど暴言を吐き、乱暴な態度を取ってはいても、身体に触れるときは髪一筋ですら傷つけないように細心の注意をはらっているのだ。
「わかっているわよ、うるさいわねぇ」
いましましげにアイーシャは吐き捨てる。
「それに、アイーシャ様、ご側室や妻妾同士の交わりは、陛下のお許しがない限り駄目ですよ」
我が儘な幼女を戒めるようにエリスが尚も言うと、アイーシャの眦が吊りあがった。
「わかっているわよ! しつこいわね!」
だが、見るからにアイーシャは、檻に入れられた雌獅子さながら苛々している。これほどの珍味を前にして、口に入れることができないもどかしさに、いっそう飢えがつのっているのだろう。
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