黄金郷の夢

文月 沙織

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九分咲き 六

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 木馬には馬の顔の隣に持ち手がついており、手に鉄輪をつけたままのアベルは手首に痛いほどの重みを感じながら、そこに手をかけ、恐る恐る背にまたがる。ふるえる足を、両隣に陣取るように立つ宦官兵に取られる。右側に立っているのはジャムズだ。
 木馬の背に乗るまではどうにかなったが、その後さらに見物人たちの望むような真似をするには、勇気が要った。アベルは躊躇して動けない。
「なにしているのよ? そこじゃないでしょう?」
 アイーシャの言葉の鞭は容赦ない。
「ほら! 早く動きなさい!」
 女主の怒鳴り声を聞きながら、ジャムズは天井につなげた鎖を調節し、取っ手を必死ににぎりしめていたアベルの両手を、ぶら下がっている鎖につなげてしまう。意外にも、己をいましめようとするジャムズの大きな固い手はあたたかく、アベルを一瞬まごつかせた。  
 だが一瞬のとまどいの後には、みじめにも両手を頭上たかく上げられ、さらに身動き困難な状況にアベルは陥っていた。手の自由を封じられて、さらに心もとない姿勢にされたアベルは必然的に、木馬をはさむ両脚に力をこめざるを得ない。傍目には、みずから木の獣に何かをもとめているようで、淫らなことこの上ない姿に見えるだろう。
 アベルは屈辱と恐怖に身体が石のように固くなるのを自覚した。臀部のすぐ後ろに薄布一枚をはさんで道具の存在を感じるが、この期に及んでも、とてもアイーシャの求める真似をみずからすることは出来ないでいる。
「ジャムズ、ハルス、介添えしてやるといいわ」
 命じられた宦官たちの無骨な手がそれぞれ両側から伸びてきてアベルの太腿をつかむ。アベルは悲鳴をあげた。
「よ、よせ!」
「伯爵、失礼します」
 ジャムズが言葉を発したのを聞いたのは初めてだ。アベルはこの宦官はもしかして口が聞けないのかと思っていたのだ。だが、驚く暇もなく、ジャムズたちの手はアベルの身体を浮かすと、目当ての道具の先端に下ろそうとする。
「い、いやだ!」
 二人がかりで子どもに用を足させるような姿勢をとられ、アベルはあまりの屈辱感に嗚咽をこぼしそうになった。
「ああっ……!」
 精神的な苦痛だけでも耐えがたいうえに、さらには、迫りくる物質のもたらすであろう苦痛に、悲鳴をあげずにいられない。アベルは無我夢中になって声をあげていた。
「あっ、い、いやだ! いやだ! も、もう、やめろぉっ!」
 ドミンゴの命を救うため死んだつもりでアイーシャのげんにしたがったが、やはりその固形物のたしかな形や固さを肌で感じてしまうと、抗わずにいられない。
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