黄金郷の夢

開花寸前 六

「ふざけるな！」
　両手をつないでいる鎖がまた空しく悲鳴をあげる。
「あら？　逆らうの？　だったら、このままよ」
　アイーシャの手が強くなった。
「ああ！」
「ほうら」
　指と手の加圧が、絶妙な刺激となってアベルを追い詰める。
「やめろ！　止せっ！」
　文字どおり、散々アイーシャの掌てのひらでもてあそばれ、責められ、汗をかかされ、それでも、アベルがそのおぞましい言葉を口から絞り出すにはもう少し時間を要した。
　だが、結局は、どうにもならず、屈辱と敗北感にまみれて、とうとう泣きじゃくりながら、アベルはその汚辱の言葉を言うしかない。本当にアイーシャはそれを言うまで許さなかったのだ。
（ああ……。許せ、ドミンゴ）
　すさまじい冒涜感と背徳感。そして……、それゆえに感じてしまうすさまじい被虐の悦びがアベルを徹底的に打ちのめす。
　アベルが死ぬ想いで、強いられた台詞を言い終えたのと、アイーシャが手を放したのは同時だった。
「あっ……！　はあぁっ！」
　アベルは両手をしばる鎖を引っぱって、胸をのけぞらせた。
　見物人たちの息を吐く音が聞こえた。
　屈辱のあとに、また屈辱。
　女の哄笑、宦官たちの嘲笑。
　アベルは狂うことも死ぬこともできない我が身を呪いつつ、そのあとも恥を晒しつづけた。