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花開くとき 二
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屈辱と恥辱に全身を薄紅色に染めあげ、〝馬上〟で悶えぬいて、さいごには、もうどうにもならなくてアイーシャの望むとおりに、醜態をさらしたアベル。
あの瞬間、年上のアベルがひどくいじらしくて、けなげで、可愛い、とすら思ってしまった。
身体をすくませ、顔を伏せ、啜り泣いていたアベル。
汗に濡れた金の髪、熱をもって忍び入る陽光を弾いた純白の肌。
白人の肌というものは、皆あれほど白く美しいものだろうか。いや、以前白人女の奴隷を調教したことはあったが、あれほどに白く清らかではなかった。
汗と体液でびっしょり濡れた腰布が、ひきちぎられた紅薔薇の花のようにアベルの秘所にからみついている様は、すばらしい一枚の絵のようだった。なによりアベル自身が引きちぎられた大輪の白薔薇のようだった。
けれど、数秒すると、怒りと悔しさを糧にして、しおれた花が文字どおり返り咲くように、負けん気をあらわにして、アイーシャや自分たちを、あの碧の瞳で睨みつけてきたときは、心底驚いた。
両手は鎖につながれ、ほとんど全裸の惨めな姿で、しかもあれほど散々にいたぶられ哀れな姿をさらした直後だというのに、よくもあんな顔ができたものだと、エリスはほとんど感動していた。
実際、頬は涙に濡れ、下肢には降伏と敗北の証しのような恥ずかしい滴りがあきらかだというのに、それでもアベルはまぎれもなく誇りたかき騎士であり、彼にとっての異国の敵地という四面楚歌の状況で孤軍奮闘する偉大な戦士だった。
彼の悲愴なまでに気高い勇気と誇りたかい姿にくらべたら、王の寵愛や菫という地位にあぐらをかいて、抵抗できない人間をいたぶって威張りちらし喜んでいるアイーシャやアーミナが、ひどくちっぽけな存在に思えてくる。
それだからこそか、敗れても敗れざらぬアベルの様子に、アイーシャはますます猛り、その後も幾度となく手酷い責め苦を与えたのだ。
午前中いっぱい、アイーシャの責めはつづき、アベルの苦悶もつづいたのだが、それでもアベルは涙にきらきら光る双眼に怒りと敵意をこめて、アイーシャや自分たちを睨むことは止めなかった。
午後はさすがにカイが入ってきて、アイーシャを引きあげさせ、アベルを休ませた。
アイーシャは室を出るとき「陛下から鞭打ちの許可をもらってやるから!」と叫んだが、そのあと来なかったのは、王の許可が出なかったからだろう。
それでも気になったエリスがカイに訊くと、カイは安心しろ、というふうに笑って請けおった。
「陛下は伯爵の身体を傷つけることをお望みではない」
だが、カイのべつの一言がエリスの耳をひっかいた。「あまり、調教相手に入れ込まないように……」
自分は、人目にあきらかなほど、アベルに入れ込んでしまっているのだろうか。エリスは自問してみた。
(入れ込んでしまっているんだろうな)
あの瞬間、年上のアベルがひどくいじらしくて、けなげで、可愛い、とすら思ってしまった。
身体をすくませ、顔を伏せ、啜り泣いていたアベル。
汗に濡れた金の髪、熱をもって忍び入る陽光を弾いた純白の肌。
白人の肌というものは、皆あれほど白く美しいものだろうか。いや、以前白人女の奴隷を調教したことはあったが、あれほどに白く清らかではなかった。
汗と体液でびっしょり濡れた腰布が、ひきちぎられた紅薔薇の花のようにアベルの秘所にからみついている様は、すばらしい一枚の絵のようだった。なによりアベル自身が引きちぎられた大輪の白薔薇のようだった。
けれど、数秒すると、怒りと悔しさを糧にして、しおれた花が文字どおり返り咲くように、負けん気をあらわにして、アイーシャや自分たちを、あの碧の瞳で睨みつけてきたときは、心底驚いた。
両手は鎖につながれ、ほとんど全裸の惨めな姿で、しかもあれほど散々にいたぶられ哀れな姿をさらした直後だというのに、よくもあんな顔ができたものだと、エリスはほとんど感動していた。
実際、頬は涙に濡れ、下肢には降伏と敗北の証しのような恥ずかしい滴りがあきらかだというのに、それでもアベルはまぎれもなく誇りたかき騎士であり、彼にとっての異国の敵地という四面楚歌の状況で孤軍奮闘する偉大な戦士だった。
彼の悲愴なまでに気高い勇気と誇りたかい姿にくらべたら、王の寵愛や菫という地位にあぐらをかいて、抵抗できない人間をいたぶって威張りちらし喜んでいるアイーシャやアーミナが、ひどくちっぽけな存在に思えてくる。
それだからこそか、敗れても敗れざらぬアベルの様子に、アイーシャはますます猛り、その後も幾度となく手酷い責め苦を与えたのだ。
午前中いっぱい、アイーシャの責めはつづき、アベルの苦悶もつづいたのだが、それでもアベルは涙にきらきら光る双眼に怒りと敵意をこめて、アイーシャや自分たちを睨むことは止めなかった。
午後はさすがにカイが入ってきて、アイーシャを引きあげさせ、アベルを休ませた。
アイーシャは室を出るとき「陛下から鞭打ちの許可をもらってやるから!」と叫んだが、そのあと来なかったのは、王の許可が出なかったからだろう。
それでも気になったエリスがカイに訊くと、カイは安心しろ、というふうに笑って請けおった。
「陛下は伯爵の身体を傷つけることをお望みではない」
だが、カイのべつの一言がエリスの耳をひっかいた。「あまり、調教相手に入れ込まないように……」
自分は、人目にあきらかなほど、アベルに入れ込んでしまっているのだろうか。エリスは自問してみた。
(入れ込んでしまっているんだろうな)
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