黄金郷の夢

文月 沙織

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再開花 一

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 ドミンゴは、絵を描くのが好きだった。
 最初は趣味程度のものだったろうが、やがて独学ながらかなり腕をあげていったそうだ。
 酒場などで酔客に乞われて似顔絵などを描いたりしているうちに、少しずつ小金をもらうようになり、伯爵家が経済的に苦しかったときに、その技術のおかげでかなり助かったこともあったという。 
 ドミンゴが一番多く描いたのは、主君であるアベルだった。何枚も、何十枚も、それこそ、練習も兼ねて何百枚も。紙は貴重なものなので、砂地に描いたり、板木のうえに炭で描いてみたり。
 あるとき、気まぐれに、記憶をもとに、湯浴みをしているときのアベルを描いたことがあった。描きあげたアベルの裸体を見つめなおしたそのとき、ドミンゴのなかでくすぶりつづけていた黒いものに、火がついた。
 着替えを手伝うときや湯浴みの世話のときに、かすかに見るアベルの白い肌、引き締まった臀部、すらりと長い手足。画家なら誰しも美しいものを描きとめたいと願うものだが、あるときから、その想いは別のものへと形を変えていった。
 確実に変化したのは、偶然にもアベルが少年の日の熱情をもてあまして、自室でこっそり自慰に耽っている姿を扉の狭間はざまから見てしまったときだ。
 思春期の少年の日の戯れは自然なものであるが、ドミンゴにとってそれは衝撃的だった。
 聖なる天使の淫らな秘密。無垢だと思っていた、まだ幼かったアベルのうちにも性的欲望がある――あって当たりまえなのだが――という事実は、ドミンゴを狂おしくさせた。
 アベルのあられもない姿を見てしまって以来、ドミンゴのなかの黒いものは燃えあがり、二度と消えることのない炎となってしまったのだ。
 それからドミンゴが描くものは、自慰に耽っているときのアベルの淫らにも美しい姿である。酒場でうっかり持っていたその素描画を隣の席の男に見られてしまった。男は、その絵を売ってくれと縋った。かなりの金貨を出されてドミンゴは断りきれなくなってしまい、そこから素人画家と客という彼との付き合いが始まった。運の悪いことに、男は、エゴイの臣下だった。いや、運の問題ではなく、必然だったのだ。
 その当時からエゴイは美しい年下の友人をひどく意識しており、うわべは何気ないふりをしつつも、アベルに関することを徹底的に調べて弱味をさがしていたのだ。いつしか、必ず彼を我が物にしたいという欲望のために。
 そこでアベルの運命は決まってしまった。
 ディオ王がアベルに懸想して彼を求めて両王に交渉してきたのを知ったときは、エゴイもあわてはしたが、これも手かと思ったという。いや、むしろ好都合だと。
 異教徒の王に汚されてしまえば、もはや帝国では表を歩けない身の上になる。そうなったときこそ、アベルを完全に手に入れる機会だとエゴイは考えた。
 欲望を果たすためには、そういうことも平然と考え、実行できるのがエゴイ=バルトラ公爵という男だ。
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