さわれぬ神 憂う世界

マーサー

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第2部

[27] 2部1章/4 「俺を助けるために、逃げて!」

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【2部1章】

 /4

 ――1993.11.21.
 藤春はいつもの時刻に目を覚ました。冷える冬の空気の中、台所に立ち、豆を挽き、湯を落とす。コーヒーの香ばしい湯気が立ちのぼり、それが窓辺の光と混ざり合って、白い朝靄のように部屋を満たしていく。
 スケッチブックを開き、鉛筆を握る。朝の数分、何も考えずに線を走らせる。それが藤春にとって、一日の呼吸を整える儀式のようなものだった。
 デザイン会社に勤めて五年。大きな仕事も任されるようになった藤春は、一心に自分の腕を磨いた。休日であっても可能な限り、創作と向き合った。そうすることで、ようやく『仏田』という名の呪いから解き放たれる気分になれた。
 東京の某マンションの中、自宅のアトリエでひたすらに手を動かす。そんな穏やかな朝。……弟の柳翠の顔が、脳裏に浮かんだ。
 最後に会ったのはいつだったか。あの頑なな弟は、今もあの山の中で元気に生きているのだろうか。
 あの家の血の重さは、時を経てもなお、藤春の中に沈殿している。自分はこうして絵に向き合えるようになったけれど、弟は。弟の顔が見たい。……そう考え始めると、筆が止まっていた。

 仏田寺の廊下は冷えきっていた。
 冬の空気は重く、吐く息すら吸い込まれていく。木の軋む音だけが、時間の存在を告げるように淡々と響いていた。
 犬伏和尚に入室の許しを得て、藤春は本殿へと足を踏み入れる。
 ひとたび進めば、空気が変わる。木の軋みの奥に、微かに鉄のような匂いが滲んでいた。乾ききらぬ血の記憶。時間とともに薄れたはずの過去の残滓でありながら、今もこの寺の壁と床にしぶとく染みついている。
 胸の奥で血の匂いを飲み込みながら、弟が住まう部屋へと歩を進めた。戸を軽く叩く。返事は無い。それでも室内には灯が点っていた。
「柳翠……いるのか?」
 応えはない。出掛けているのかもしれない。だが、灯りがある。ならば、中に? そう自然に考えて、戸に手を掛けた。
 畳の奥に沈んでいた埃と鉄の匂いが、ふっと鼻を刺す。
 部屋はしんと静まり返り、人の気配だけが抜け落ちていた。そのまま歩を進める。そして、見た。

 五歳ほどの男児が、布団の上に正座させられていた。

 痩せ細った腕。首筋には赤黒い擦過痕が浮かび、両手首は古びた帯で背中に縛られている。
 顔は伏せられ、細い肩が小刻みに震えていた。部屋の隅ではヒーターが唸るように音を立てていたが、空気は凍りついたまま。
「……おい。君、大丈夫か?」
 声を掛けると、男児はゆっくりと顔を上げた。目を見た瞬間、藤春の胸が裂けるように痛む。
 瞳には、何も映っていない。
 柳翠と面差しが、あまりに似ていた。
「……緋馬……」
 柳翠の子。かつて腕に抱いた、小さな命。それが今、目の前に居る。
 幼い顔には、生の気配が無い。泣きもせず、喋りもせず、沈黙の中で誰かの命令を待つようにただ、居る。
「何を……してるんだ、柳翠……」
 子どもの傍にしゃがみ、震える手で帯を解いた。
 拘束を外した途端、細い手首が力なく落ちた。触れた指先は氷のように冷たく、骨ばって軽い。
 ――いったい、どれほどの時間このままだったのか。
 藤春は息を呑み、静かに決意を固めた。
 かつてこの家に生まれ、この家を棄てた自分が、今度は――この家に縛られた命を、連れ出す番だった。

 マンションの住人が二人になった。
 東京の部屋は、山奥の仏田寺とは正反対の空間だ。山の頂に建つ由緒ある寺院の、あの土と木の匂いに満ちた世界とは比べものにならない。狭く、硬質で、人工的な箱。
 それでも……二人で生きれば、暖かい世界だった。

 あの日から、二人きりの朝は何度も繰り返された。
 裸足で放り出された緋馬の足に、藤春は柔らかな靴下を履かせる。その小さな足が、畳ではなくフローリングを自由に歩く。それがいつしか、変わりない日常の風景になっていく。
 毎日が手探りだった。何を与え、何を待ち、どれほどの距離で見守ればいいのか。ひとつの息づかい、ひとつの笑みを失わぬよう慎重に……壊れやすい硝子細工を抱くように支えて生きる。
 ある朝のこと。緋馬が床に座り込み、一冊の絵本を開いていた。
 それは偶然にも、藤春が執筆に関わった作品だった。
 来たばかりの頃の緋馬は、絵本を見ようともしなかった。魂が抜けた存在で、好奇心という感情を置き忘れてきたように、視線はいつも遠くを見ていた。
 けれど、少しずつ変わっていく。ページを捲る小さな指先が、ほんの少しだけ……楽しげに動く。
 声を出さず、目を合わせず、部屋の隅で息を潜めていただけの子供が、今では一人で絵本を捲るようになり、パンのおかわりを身ぶりで伝えられるようになり、外出したら「ただいま」と呟けるようになった。
 そして、ある夜。緋馬は恥ずかしそうに顔を隠しながら、育ての親に「好き」と伝えた。
 その小さな声は、藤春の胸の奥に火を灯した。

 緋馬は年相応の子どもへと近づいていた。
 他の子どもたちと比べれば、まだ遠い。おとなしく引っ込み思案で、誰かの気配に過敏に反応してしまうところは変わらない。
 けれど……この子は、生きようとしている。ここで、確かに生きる場所を見つけようとしている。藤春は誓う。この懸命な姿を、決して見捨てはしないと。
 たとえこの先、どんな未来が訪れようとも、この子が大人になって、自分の道を歩き出す日が来ようとも……自分に別の人生の転機が訪れようとも……藤春は、緋馬を支えて生きると決めた。
 血の繋がりではない。それでもひとつの命の隣に立つ者として、これからもこの子を……愛していこう。

    ◆

 秒針の律儀な音が、寝室の静寂に虚しく滲んでいた。
 仏田寺の冬の朝。緋馬は目を開けたまま、身じろぎ一つしなかった。冷えきった布団にくるまれた身体の奥で、心臓だけが律動を刻む。鼓動が痛々しく響いた。
 額には冷や汗が滲み、髪が頬にはりつく。見上げた先には、節の浮いた古びた天井板。ここは藤春の昔の寝室――12月30日から泊まり込んでいる、仏田寺の一室。
 喉が焼けるほど乾いたまま、手探りで携帯電話を掴む。
 ――『12月31日 8:29』。
 血の気が引く。
 時間が、戻っていた。
 ――『12月31日 8:30』。
 けたたましいアラームが鳴り響いた。
 画面の中で文字が振動し、無機質な音が「12月31日だ、寝てないで起きろ」と訴えかける。
 世界そのものが残酷な冗談を繰り返していた。

 咄嗟に自分の口を押さえる。
 夢だ。そうであってほしかった。一度目は偶然だと信じた。でもまた死んで、今に至る。
(夢だよ。同じ夢を二回見る夢を見たんだ。あんなの……現実なわけがない)
 でも二回とも夢の中の自分は、痛がっていた。物凄く痛かった。夢なら痛覚なんて無くていいのに、死ぬほど痛かった。
 藤春の死、血の匂い、肉の軋み。全てがリアルだったけど、きっと夢。
(また、殺される)
 夜が来たらどうなる? 藤春も、知り合いも、見知らぬ誰かも、血に染まり、肉を裂かれ、悲鳴とともに焼かれていく。やがて自分も、あの黒い化け物に貫かれる。
 歯が鳴る。寒さよりも先に、恐怖が体を支配する。夢なのに。逃げたい。けれど、どこへ? どうやって?
 痺れた指先で携帯を布団の脇へ置こうとしたとき……視界の端で、紫がかった光が微かに瞬いた。

 ――黒ずんだ血のように赤く光る紫石。ざらついた質感。勾玉のように歪な曲線を描く、小さな石。

 見覚えがあった。
 そういえば夢の中でも触っていた気がする。これは……仏田寺に隣接する研究施設で、あの少女とぶつかったとき、偶然にも手元にあった物。
(なんで? 昨日もあった……いや、昨日? でも、いつからあった? まだ何も始まっていないのに、ここに……?)
 ぐらり、と頭が揺れた。心臓が痛いほど打ち鳴らす。呼吸が浅くなる。
 空間がずれる。現実が軋み、時間が歪む。手を伸ばす。震える指先が、冷たい石を掠めた。
(……これは、普通じゃない)
 偶然ではない。夢でもない。時間は、過去も未来も軋ませながら、確実に壊れ始めている。
 緋馬は震える手で石をポケットに押し込み、ゆっくりと立ち上がった。
 廊下の向こうから、冷たい風が吹き抜けた。ただの冬の空気ではない……世界の裂け目から吹き込むような、異様な寒気。
 その風の中に、まだ始まっていない悲鳴の気配が、微かに混じっていた。


 膳に並ぶ朝食も、湯気の立ち方、箸の向き、茶碗の小さな欠けまでも、同じ配置で再現されている。
 その場に居る顔ぶれ。笑い方。語尾の跳ね方までもが、一字一句なぞるように繰り返されていた。
(……本当に、繰り返している)
 背筋をなぞる寒気が、骨の奥まで沁みていく。
 一人だけ世界の外側に弾き出されたような孤独感。緋馬は、ただ虚ろな目でその朝食の光景を見つめていた。
 視線の先では、藤春が動いている。
 喪服に身を包み、今日の納骨式に向けて忙しく立ち働いていた。僧侶と打ち合わせをし、親族代表としての挨拶を確かめ、誰にでも柔らかな笑みを向けて。
 その笑顔が……触手に貫かれ、崩れ落ちた姿と重なる。
(おじさんも、何も知らないまま……また、あの時間に向かっている)
 考えれば考えるほど、頭の奥で何かが脈打つ。視界の端が滲み、世界がうっすらと歪む。
 もう限界だ……そう思いながら、緋馬はふらりと席を立った。
 その瞬間を待っていたかのように、寄居が声を掛ける。
「おはようウマ。大丈夫? 顔色悪すぎ」
「……ちょっと気分悪くて。……少し外の空気、吸ってくる」
 寄居は何か言いかけて、けれど飲み込むように黙って頷いた。
 物分かりのいい幼馴染の優しさが、今は痛い。軽く会釈をして、緋馬はその場を離れた。

 仏田寺の庭に足を踏み出した瞬間、冬の風が頬を切った。吐いた息が白く曇って、すぐに消える。昨日も、そうだった。
 凍りついた池。よく手入れされた松の枝。砂紋の美しい枯山水。
 全てが昨日と同じ場所に、同じ姿で存在している。だが、自分の中だけが違っていた。
 庭の隅に腰を下ろし、空を仰ぐ。
 息を吐いても、冷たさしか返ってこない。立つ気も、声を出す気も起きなかった。
 遠くで、鐘の音が響く。住職が儀式の準備を始めたのだろう。それでも、緋馬の意識はここに留まり続けていた。
(行かなきゃ……分かってる)
 義母の納骨式。きちんと見届けなければ。
 それでも、もう限界だった。何度も別れ、何度も死に、何度も壊れて……それでもまた今日が始まる。思考が深く沈んでいく。何度も吐き気で戦っていると、廊下の向こうから寄居の声が届いた。
「ウマ、そろそろ始まるぞ。……行ける?」
 わざわざ呼びに来てくれたことが、胸に沁みた。
 緋馬はゆっくりと顔を上げ、首を振る。
「……ごめん。サボる」
 寄居は驚いたように目を瞬かせたが、すぐに頷いた。
 無理に引き留めようとはしなかった。叱りもせず、ただ少し寂しげに……けれど温かく。
「……また後でな」
 それだけを残して、寄居は去っていった。
(怒られるだろうな)
 大人たちは眉を顰める。喪主である藤春も、きっと困った顔をする。
 けれど、それでいい。緋馬は震える身体を引きずり、再び庭を歩き出した。

 空は鈍く曇り、灰色の膜が山の上に垂れ込めていた。
 冷たい風が山肌を撫でるように吹き抜け、仏田寺の境内をすり抜けていく。緋馬は、山門へと続く石段の上にひとり立ち尽くしていた。
 脳裏に、同じ思考が何度もよぎる。
 ――この寺にいるから、悪夢が繰り返されるのではないか。
 この呪われた地に囚われているからこそ、あの触手の化け物に追い詰められ、命を奪われ続けているのではないかと。
(山を下りれば、助かるんじゃないか)
 霧に霞む山門を見下ろす。麓へと続く石畳の道が伸びている。
 昨日、自分が登ってきたばかりの道だ。今は誰の姿も見えず、どこまでも静かだ。
 大晦日とはいえ、葬儀関係者以外の参拝客はいない。緋馬は腕を抱き、唇を噛みしめた。
 ――もし、ここを離れれば。もし、この山を下りれば、生き延びられる? ここから遠ざかることで……終わらせられる? そんな焦燥が、胸の奥で膨らんでいく。
「どこ行くんだぁ~?」
 背後から、のんびりとした声が掛かる。
 振り返ると、福広が立っていた。両手をポケットに突っ込み、肩を竦めながら笑っている。いつもの調子のようでいて、瞳の奥には警戒と優しさが同居していた。
「寄居がさぁ、『ウマがサボるって言ってたけど、めっちゃフラフラしててヤバそうだった』って言っててさぁ。お兄さん心配になっちゃって来たわけぇ~」
 飄々とした口調。その声音には、確かな気遣いが滲む。
 緋馬は目を伏せ、笑みを浮かべた。
「……寄居もだけどさ、福広さんって本当に良い人だよね」
「えっへへぇ。どーいたしましてぇ。なぁに? そんなに帰りたいのは、ここじゃ見られない年末番組でも見たいとかぁ~?」
「……違う。ただ……夜をここで越したくない。怖いから。それだけ」
 吐き出した言葉は、情けないほど小さく震えている。喉の奥で絡まる焦りと恐怖を、どうにか押し出した結果だった。
 福広は「ふうん」と小さく息をつき、歩み寄る。無理に引き戻すでもなく、ただ緋馬の肩に手を添えた。
 手の温もりが、現実へと繋ぎ止めるように確かだった。
「もしかして高校の友達と年末年始の夜遊び行きたかったとかぁ? まあ、行きたいよねぇ。仏田寺って年始のイベントとかしないしつまんないもんなぁ」
「……イベント、しないんですか?」
「修験道系の寺って、外に向けた行事をしないとこ多いんだよぉ。除夜の鐘すら鳴らさない宗派もあるしぃ」
「じゃあ、ここも……年始は静かなんだ」
「そうだねぇ。ウマみたいに遊びたい子にはちょっと居心地悪いかもぉ。つまんないから出て行きたいよねぇ~」
 言いながら、福広は少しだけ真面目な声になった。
「でもまあ、大人として言っとくけど、逃亡は止めるよぉ」
 語り口はあくまで穏やか。咎める響きはない。
「どうしても出たくなったら大人を頼りなよ。事情次第じゃ車ぐらい出してくれるかもしれないしぃ」
「……福広さんは今夜、俺のために車を出してくれますか?」
「やだぁ~。年越し蕎麦も天ぷらも楽しみにしてるしぃ、大晦日ぐらいお酒も飲みたいしさぁ。運転はちょっとねぇ~」
 軽口のように見えて、その一言には現実の線が引かれていた。
 逃げ道のない世界。この山を出ることさえ、許されていない。
 それでも福広は、緋馬を見つめたまま微笑んだ。
「ウマもお酒ちょっと飲んじゃいなよぉ。怖いのってさ、誰かと一緒にいれば少しは軽くなるでしょ~」
 明らかな慰め。押しつけがましくなく、ただ彼をここに留めておこうとする静かな優しさ。
 途端、石段の下から寒風が吹き上がった。霧に沈む石畳の道。どこまでも静かで、どこへも繋がっていないような世界。
 緋馬は山門の前で立ち竦んだまま、その冷たい灰色の下界を見つめていた。


 空はすっかり群青に沈み、夕闇が静かに寺の屋根を舐めていた。
 納骨は、もう済んでいる頃である。
 義母を静かに眠らせるその時間を、緋馬はただ外を歩くことで潰してしまった。胸の奥にその事実が、鉛のように沈殿している。二度も棺に手を合わせ、別れの言葉を掛けた。けれどそれだけで別れたとはとても言えない。
 悔い。詫びたいという思い。義母の最期に何かを置き去りにしてしまったという負債感がある。
(おじさんは、もう戻っているだろうか)
 思いながら、宿泊していた和室へと足を向ける。
 灯りの落ちた部屋は、沈黙していた。
 藤春がかつて自室として使っていたというその部屋は、美術書と幾冊かの教本が無造作に並んでいる。昨晩と変わらぬまま、壁際に荷が所在なげに置かれていた。
(おじさん……まだ戻ってないの?)
 陽は落ちかけ、外気は肌を切るほどに冷え込んでいた。
 不安が音もなく胸の奥に積もっていく。緋馬はポケットに手を沈め、再び墓地への道を辿った。

 伯父は陽が傾く前にいつも「早く終わらせよう」と言っていた。
 夢であった通りなら、藤春は早めに解散を願い出る筈。だというのに、部屋に居ない。ならばと……三度目の墓前へ、緋馬は辿り着いた。

 義母の名が刻まれた墓石の前に、藤春は独りで立っていた。
 背を丸めることもなく、真っ直ぐに、その名を見つめている。
 その姿に滲むのは、声にならない静かな寂寞。夕闇と墓前の沈黙。全ての音が遠ざかり、緋馬の呼吸だけがかろうじてあるような世界。
 空は既に夜の色に沈み、沈みゆく光が石碑の輪郭を縁取っている。
 その前に、伯父は立っていた――孤独に。
 喪服の上に黒いコートを重ね、まるで墓石の一つになったかのように微動だにせず、刻まれた名前をじっと見つめていた。

「…………緋馬。どこに行ってやがった」
 誰に向けるでもない呟き。喪主としての務めは終わった彼が、まだ日常へ戻れず、尋ねた。
 部屋に戻るために必要な鍵……それが今まさに自分であったことを、緋馬は悟る。
 冷たい風が頬を撫で、指先を麻痺させる。それでも藤春は動かない。ただ黙って、墓前に立ち尽くしていた。
 緋馬はそっと近づいた。大きかったはずの背中が、妙に小さく、脆く見えた。
「……ごめん。おばさんに、お別れの挨拶、ちゃんとしなくて」
 ぽつりと落とした言葉に、伯父は返事をしない。
 けれど肩が震えた。緋馬はそっと手を伸ばし、藤春の背に触れる。
 指先に伝わる体温は、ひどく儚かった。微かに漂う線香の香が、冬の夜気に混じっていた。
「したくなかったから、来なかったのか? ……したくないよな。おじさんだって……したくなかった」
 声は、慰めでも責めでもない。ただ同じ痛みを知る者だけが交わせる、静かな肯定。
 ――今まではきっと緋馬がいたから、伯父は人目を気にして泣かずにいた。
 ――そして今回は……緋馬がいなかったから、堪えきれなかった涙を流していたのだ。
「すまん……すまない、ごめん、緋馬……」
 藤春はそれだけを繰り返し、肩を震わせながら、深く頭を垂れた。
(おばさんのこと、本当に……心の底から愛してたんだ)
 言葉にしなくとも伝わる。伯父の悲しみは、冷えた夜の空気よりも深く、緋馬の骨の奥まで沁みこんでいく。
 緋馬は、その背中を抱きしめた。体温を確かめるように、ぎゅっと抱いた。

 ――伯父が義母を愛したように、自分もまた、伯父を愛している。
 触れるだけで溢れ出しそうな想いを、喉の奥で押し殺す。
(言いたい。でも言ったら、きっと全部壊れてしまう)
 だから今回は、言わない。
 抱きしめられた伯父の呼吸は乱れ、肩が細かく震えている。緋馬は正面から抱きしめ直した。涙が尽きるまで、傍にいるつもりで。
 山の空気は容赦なく、どこまでも冷たかった。


 どれほどの時が過ぎたのだろう。緋馬の胸の奥には、どうしようもない焦燥が膨らんでいた。
 伯父は知らない。夜に何が起こるのかを。何も知らぬまま、あの惨劇の中に巻き込まれていく。
 ――もう、あんな目に遭わせたくない。藤春が死ぬのは見たくなかった。
「……おじさん。今夜さ、ここに泊まるの、やめない?」
「……どうした、急に」
「嫌な予感がするんだ。このまま夜を迎えたら……きっと、取り返しのつかないことが起こる。お願い。二人でマンションに帰ろう。精進落としも、挨拶も……全部いい。今すぐ、ここを出よう」
 声は、殆ど泣き出しそうだ。
 泣き声を誤魔化してくれるように、風が吹いた。木々がざわめき、枯れ葉が石畳を転がっていく。藤春はその音に一瞬だけ目をやり、静かに緋馬を見つめた。
「……ありがとう」
 声音は穏やかだ。けれど、決して揺るがなかった。
「でも、それはできない」
「……どうして」
「今夜は大事な夜なんだ。あずまの納骨が終わって、会食がある。集まってくれた人たちに、ちゃんと礼を言わなきゃいけない。……緋馬がいてくれても、俺ひとりの勝手では動けないんだよ」
 正論だった。当たり前のことを、当たり前に言っていた。
 だからこそ、苦しかった。
「じゃあ……また死んでもいいの?」
 切迫した声に、藤春は目を見開く。
「緋馬?」
「俺……ここで死ぬんだ。夜に、化け物が出て……人が何人も殺されて……寄居も福広さんも、みんな……おじさんもっ!」
 声が裏返り、胸の奥が軋むように痛んだ。
「だから、帰ろう? 死にたくないから……おじさんに死んでほしくないから……帰ろう……」
 藤春は目を細め、しばし沈黙した。
 そして、静かに首を横に振る。
「緋馬……怖い夢を見たんだな。無理もない。あずまが亡くなって、疲れて、心が不安定で……けど、大丈夫。今夜は俺が傍にいるから」
「違う」
 声が、風を裂く。
「もう、俺……おじさんが殺されるの、見たくない。触手に腹貫かれて、頭潰されて、ぐちゃぐちゃになって……! 俺、目の前で見たんだよ! そうなるんだよ! これから!」
 喉が焼けるように痛んだ。
 涙が溢れ、止めようとしても止まらなかった。
「お願いだから、信じて……信じてくれないと……おじさん、また、死ぬんだよ……」
 藤春は、目を伏せた。
 その表情は、あまりにも静かで……あまりにも現実だった。
 それが答えだった。常識と理性を持つ大人は、ありえない話を信じない。そして、ありえない現実を知っているのは、この場では緋馬だけ。
 空の色が深く沈む。曇天が夜を孕み、山々の輪郭が闇に溶けていく。
 再び、あの夜が来ようとしていた。何も変わらぬまま、同じ惨劇が……もうすぐ、始まる。


 葬儀の喧騒は終わった。広間では人々が黙々と箸を進めている。人々のざわめきは、まるで遠い世界の出来事のようだった。
 緋馬は畳の上で膝を抱え、湯気の立つ器を見つめていた。精進料理の味は、どれも砂のように感じられた。口に入れても、何も感じない。喉を通らない。汁椀の香りが立つたびに、胃が拒絶するように縮こまった。
 喪服を脱げない藤春は、目の下には深い隈が刻まれている。それでも、彼はひとりひとりに声を掛け、礼を述べ、頭を下げていた。悲しみを飲み込み、穏やかな笑みを浮かべるその姿は、緋馬の知る伯父そのものだ。その穏やかさが、今はどうしようもなく遠く感じられる。
 この人は、死ぬ。今夜、また。
 言葉にしても信用してもらえなかった。緋馬自身も、自分を信用していない。藤春が引き裂かれ、骨の砕ける音など、現実だと思えなかった。
「おじさん……」
 小さな声で呼んでも、藤春は振り向かない。別の人に笑顔を向けていた。喪主として、家の代表として、愛する妻との別れのため、最後まで務めを果たそうとしていた。
 分かってる。そんなの、分かってる。
 緋馬は唇を噛んだ。伯父が出られない理由も、逃げられない事情も、頭では全部分かっていた。大人の理屈も、責任も。だけど、それでも――今夜は。
 手が震えていた。寒いわけではない。恐怖だ。どうしても止まらない死の予感。頭の奥で、過去の断末魔が鳴り響く。藤春が倒れる音。血が飛び散る匂い。火柱。叫ぶ声。
 広間の空気は温かいのに、自分の中だけが氷のように冷たい。ざわめきの中で、ただ一人、凍る。
 ――どうして、俺だけが知っているんだろう。
 ――どうして、ループなんてしているんだろう。
 緋馬は、膝の上に落ちる影を見つめた。障子の外はすでに夜。雪の匂いが風に混じっている。
 外の寒さよりも、自分の中の恐怖の方が、ずっと冷たかった。

 冷えきった夜の空気が、肺の奥を針のように刺した。
 仏田寺を囲む木々は黒々と沈み、枝のひとつひとつが凍えるように静まり返っている。空には雪を孕んだ雲が垂れこめ、山を丸ごと押し潰すように低く覆っていた。
 緋馬は厚手の上着を羽織り、首にマフラーを巻きつけた。指先がかじかみ、結び目を作る手が震える。焦りと寒さが胸の奥で絡まり、呼吸のたびに胸が痛んだ。
 ――出るのだ。この門をくぐって、二度と戻らない。
 それだけのことが、どうしてこんなにも恐ろしいのだろう。
 福広と寄居の声が、頭の奥で反響する。
『夜にひとりで山を下りるなんて、馬鹿げている。冷静になれ』

 山門の向こうには、長い石段が続いていた。下りきれば駐車場があり、さらに進めば車道へ出る。一本道を辿れば麓の町に着く……理屈では、それだけだ。
 だが現実はあまりにも厳しい。車が無ければ生きられない山里。12月31日の夜。雪の気配が肌に刺さる。灯りのない山道を、十七歳の少年がひとり歩いてどこまで行けるだろうか。
 それでも緋馬は立ち止まらなかった。頭の奥で、あの音が繰り返されていた。
 血が跳ねる音。骨が砕ける音。伯父が倒れる音。もう二度と、あの音を聞きたくない。
 だから山門を潜る。石段の最初の一段を踏みしめた瞬間、靴底が凍った苔を滑り、体がよろけた。
 思わず両腕を広げ、冷たい石柱に手をつく。ざらりとした感触が掌に残った。

「緋馬っ!」
 その声は、冬の山気を震わせるほど鋭く響いた。

 十段ほど下ったところで足を止めた緋馬の背に、息を切らした藤春の気配が追いついてきた。
 山門の灯の下に立つ藤春は、外出の支度すらしていなかった。喪主の黒いスーツのまま、上着の前もろくに閉じていない。吐く息が白く千切れ、額には汗が浮かんでいる。
 ――探してくれたんだ。走って来てくれたんだ。
 その事実が、胸の奥に一瞬だけ温もりを灯した。
 けれど、すぐにその温もりが痛みに変わる。
「馬鹿なことを考えるな!」
 藤春が、声を張った。
「山に入ってから駐車場までどんだけ時間が掛かったか、忘れたのか。お前の足で歩いたら、どれだけ掛かると思ってる。凍死したらどうするんだ!」
 まくし立てるような声音。その奥にあるのは、怒りではない。
 明らかな心配。理不尽なほどの、真っ直ぐな優しさ。それが分かるだけに、余計に苦しかった。
 ……藤春は、どんなときも責任を果たす人だ。喪主としての務めも、夫としての義務も、彼はきっと最後まで投げ出さない。
 たとえ自分の心が擦り切れていようとも、人前では穏やかに笑い、誰かのために頭を下げる。そんな人が今、眉を吊り上げ、声を荒げている……それが自分のためだと思うと、胸が軋んだ。
「緋馬が……葬式なんてとっとと終わらせて、ここから出て行きたい気持ちは分かる。けどな、しなきゃいけないことなんだ」
 藤春は息を整えながら、少しだけ声を落とした。
「じゃないと……ちゃんと別れを告げられない。死んだら終わりじゃないんだ。死んだ後に、折り合いをつけないと」
 ――分かってる。
 喪主としての言葉。夫としての責任。伯父が言っていることは正しい。頭では、全部分かっている。
 けれど、心は拒んでいた。葬儀も別れも、儀式の全てが今夜あの化け物に喰われる未来の前では、意味を失っていた。理屈なんて、もうどうでも良かった。
「……そうじゃないんだよ、おじさん」
 自分でも、何を言おうとしているのか分からなかった。震えの底には、もうどうしようもない叫びがある。
 夜気が二人の間を抜け、雪を孕んだ風が山を渡った。冷たさの中で、吐息が白く儚く揺れる。
 そのとき、ゴウン――山の底が鳴った。
 低く、鈍く、この世の奥底に潜む何かが目を覚ましたような音。
 足元が震え、張り詰めた空気が一気に世界を覆う。風が止まり、闇が息を潜める。この空気。地の底から滲み出すような冷たさ。皮膚の裏を這い上がるような圧力。それは、何度も世界が崩れた夜の前触れ。
 緋馬は、その感触を知っている。
 藤春が殺される夜は、決まってこの震えから始まったのだ。

 藤春が、石段の上でよろめいた。短い息が白くこぼれ、視線が寺の方へ向く。その目が何かを捉えた瞬間、ごうっと空気が焼けた。
 爆ぜる音とともに、炎の柱が闇を裂く。仏田寺の方角から赤い閃光が立ち上がり、夜の輪郭を塗り替えていく。
 風が熱を運び、焦げた木の匂いが山門に押し寄せた。黒い空に、赤い火の筋。梵鐘の影が炎に揺れ、夜が逆さまに燃えていく。
 藤春が走り出そうとする。緋馬は咄嗟にその腕を掴んだ。
「待って! だめだ、おじさん、行っちゃだめ!」
 震える声。息が白く弾ける。
「緋馬、安全な所へ……!」
「おじさんもだよ! お願いおじさん、このまま山を下りて!」
 叫びながら、緋馬は掴む手に力を込めた。喉が裂けるほどの声だった。
 だが藤春は振り返り、炎を見つめる。
 ――そうだ。この人は、そういう人なんだ。まず誰かを案じる。自分より他人を先に考える。もし救えるものがあるならと、必ず手を伸ばしてしまう。自分の命よりも、何かを優先してしまう人だ。
「おじさん……あんた、家を出たんじゃなかったのかよ……!?」
 もう仏田家とは関係ないはずなのに。なのに、なぜすぐに逃げてくれない。
 足元の地面が再び揺れた。雪混じりの風が吹き荒れ、視界を乱す。遠くで、誰かの悲鳴のような声が響く。それが風か、人か、それともこの世のものではない何かの声か分からない。
 緋馬は耳を塞ぎたかった。もう何も聞きたくなかった。何も見たくなかった。――また同じ夜が始まった。血と火と、絶望の夜が。
「おじさん、自分が助かることを選んで……俺を助けるために、逃げて!」
 震える声。……ようやっと藤春が声を受けとめるよう、頷く。
 二人で炎に照らされた石段を駆け下りた。凍った苔が滑り、雪と熱風が入り混じる。呼吸するたびに喉が焼けた。寺の方では瓦が砕け、炎が咆哮し、鐘が倒れる音がする。その全ての音が重なり、世界が軋むようだった。

「緋馬!」
 しかし藤春が叫び、手を伸びる。
 緋馬の胸を押した。
 身体が宙に浮く。ふわりと足元が消え、視界が反転した。次いで、硬い衝撃。背中を石に打ちつけ、息が奪われた。
 痛みとともに時間が止まる。何が起きたのか分からなかった。
(おじさんが、俺を……突き飛ばした?)
 助けようとしていたのではなかったのか。
 震えながら見上げた。炎の赤が、夜の中で踊っていた。その中に、藤春の姿が――浮かんでいた。

 体は宙に止まり、足が地に着いていない。

 揺れる火の粉が、彼の頬を照らした。
 顔が苦しげに歪んでいる。喉の奥から、掠れた声が漏れる。
 ――胴体から飛び出し、貫いた、手。
 寺の奥から、黒い影のようなものが伸びて、藤春を掴んでいた。いや、触手が男の体を持ち上げていた。いいや、触手が……背中から突き刺さり、胸から飛び出ていた。
 人体が、宙にピン止めされ、動けないでいた。
「……ぁ……」
 闇が明確な意思を持ち、彼を奪おうとしている。
 緋馬の心臓が激しく打った。貫かれた伯父。頭の中が真っ白になる。手を伸ばす。届かない。
「やめろ……おじさんを、離せッ!!」
 叫びは迫りくる炎に呑まれた。空気が焼け、笑うように揺らめく。
 炎が吹き上がり、山全体が鳴動する。赤い光が世界を包み、緋馬の瞳に焼きつく。
 おじさんが、そこにいた最後の瞬間。それはあまりにも神々しく、あまりにも残酷で……。
「……ひ、……」
 残酷なまま、藤春の指が、空を掴もうと震えた。声にならない声が、喉の奥で途切れる。唇が、最後に何かを伝えようとしていた。

 石段の上で、緋馬の体は転がるように倒れていた。
 空に浮いたままの体を、見上げる。夜の空が、海の底のように歪んでいく。黒い波が寄せては返し、星をひとつずつ呑み込む。
 その波の底から、手を伸ばす気配がした。重く、冷たく、抗えない――殺人の手。
 緋馬に触れる。冷気が触れる。皮膚の奥へと染みていくような寒さ。逃げようとしても、もう足は動かない。

 ――俺、やっぱり言いたかったな。好きだって。言ってないのに、死ぬんだ……。

 目の前の炎が形を変える。光が崩れ、闇が満ち、境界が曖昧になっていく。
 体が宙を漂うように軽くなり、世界が白く遠ざかる。
 そして、音が消えた。空も地も火も闇も、全てが溶け、静寂の中に吸い込まれていく。
 冷たい死の感触。焼けた風。切り裂かれる、体。焦げた匂いの中に、かすかに混じる香り……それは、藤春の煙草の匂いだった。
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