最低級の探索者 幻のダンジョンを制覇し無敵の人と化す

カイガ

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3「最低級の底辺探索者」

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 今日の牧瀬さんの格好は、明るい色の綺麗な衣装。手にはスマホが握られていて、その画面からは今の僕の姿を映し出したホログラム映像が宙に浮かび出ている。
 昨日とは違う、アイドルを思わせる可愛い格好や、僕や周囲を撮影している様子、そして先ほどの独り言とは思えないセリフ。
 以上からして彼女は今、探索の配信ライブをやっているのだろう。ていうかそうとしか考えられない。
 
 牧瀬詩葉は国内50位の日本でトップクラスの探索者。その実力による名声と優れた容姿を活かして、こうしてアイドルみたいな配信活動をやってもいる。主に探索者活動の様子を配信していて、それが大きくバズって国内で大人気となり、たくさんの支持者《ファン》を付けている。知名度に関しては彼女は国内トップクラスの探索者と呼べる。
 最低級と蔑まれている僕とは天地の…いやそれ以上の格差があるんだろうな。

 「何だ、またあなたでしたか。昨日あんなことがあったのに、まだこんなところで活動してらっしゃるのですね」

 そんな大物配信探索者の牧瀬さんは、呆れたような蔑んだような声で、僕に話しかけてくる。すると僕の顔がばっちり映っているホログラム映像のそばに常設されているチャット欄から、僕を罵倒するコメントが次々上がってきた。

 :でたw
 :万年最低級のww
 :最底辺探索者くんじゃんwまだ探索者業やってんだ?ww

 牧瀬さんの配信の視聴者の中には僕を知っている人もいる。こう見えて僕はネットで有名なのだ。もちろん悪い意味で。
 過去にも何度か、他の配信探索者の配信に映ってしまったことがあった。その度に僕の情けない戦いっぷりが晒されてしまい、そのせいで世間一般にも僕の底辺っぷりが認知されてしまってるのだ。何なら顔も名前まで覚えられてしまっている。こんな形で有名になんかなりたくなかったんだけど…。
 
 「今日は何をしていらっしゃるのですか?」
 「今日はこのエリアで採取と採掘だけやっておこうかなと。今日は体の調子があまり良くないんで、魔物との戦闘は避けるつもりです。Eランクでも今の僕には厳しいと思うので」  
 「そうだったのですね。賢明な判断だと思います」

 :えぇ……(ドン引き
 :その年でまだEランクの魔物すら満足に倒せないとかw
 :そういやコイツ、半日もかけてEランク3匹しか狩れてなかったそうよ。昨日長下部のパーティがSNSで呟いてた
 :まじかよwざっこwww
 :いい加減探索者辞めて、普通に就職しろよな 見苦しいわいい加減

 案の定、僕を馬鹿にして嘲笑うコメントばかり。よりにもよって牧瀬さんの配信に映るなんて…。同接数が多いせいで余計多くの人に僕の醜聞が伝わってしまうじゃん。

 「ちょっと、視聴者の皆さん?そんなこと言ったらダメじゃないですか!この方は自分に出来ることを精一杯やろうと頑張ってらっしゃるんですから!それを馬鹿にするのは、私ちょっといい気がしません!
 あまり酷いコメント流してると、今日の配信はここまでにしますよ?」

 牧瀬さんはホログラム映像に向かって、視聴者たちにそんな注意を述べた。するとチャット欄には彼女に対する謝罪がちらほら見られた。

 :すみません!詩葉様!許してください!
 :はい!もう酷いこと言いません!なので配信まだ終わらないでください!!
 :詩葉さんやさしー!あんな弱者を庇うなんて
 :ちっ、気に入らないなアイツ
 :今度見かけたらタイマンふっかけてやろうかな。俺でも勝てそうw

 「はあ……。まあ、視聴者の方の言い分には、一部同意しちゃうんですけど」

 ため息をつくと僕にジッと視線を向ける。

 「昨日も言いましたが、いい加減に探索者を引退された方が良いですよ?私より長く活動をしておきながら、実績は下の下と言ったところ。未だに初心者向けのエリアを満足に踏破出来ないあなたに、この先探索者としての将来なんてとてもあるとは思えません」

 :それはそう
 :ほんそれ
 :何年も活動して実績がそれとか、探索者の才能無さ過ぎww

 「あなたには探索者としての才能があまりにも無い。いい加減現実を受け入れて、探索者の道を諦めた方が、残りの人生まだ有意義なものに出来ると私は思いますけどね。というより、絶対そうした方が良いです」

 コメントに同調するように、牧瀬さんも探索者の引退を勧めてくる。昨日長下部たちから助けてもらった恩があるとはいえ、僕の事情も知らずに勝手を述べる彼女に、僕はムッとしてつい反論してしまう。
 
 「あなたや他の誰が何と言おうと、僕は探索者を辞めないし、諦めたくない」

 :はぁーかっこよwキモいけどww
 :つーか何コイツ、ムカつくんだけど
 :それな 詩葉様のありがたいご忠言を無下にするとか
 :何様だよこいつ、マジで殴りてぇ
 :馬鹿は死ななきゃ治らないって言葉、こいつにピッタリかも

 僕の啖呵ともとれる主張は、視聴者たちに笑われるだけだった。

 「………あなたがどうしてそこまで探索者に拘るのかは、ここでは尋ねないでおきます。配信中に人のプライベート踏み込むつもりはないので。
 ですが―――」

 すると牧瀬さんは少し険を帯びた目を僕に向けてくる。
 
 「私としては早いうちに引退してもらいたいですね。あなたみたいなどうにもならない弱者にうろつかれると、私たちが所属する探索者ギルドのレベルの底が知られてしまうかもしれないので」
 「え………」

 突然棘のある発言に、思わず目を瞬かせる。

 「私も時々、他の探索者の配信を見ることがあります。そしてたまに、誰かの探索配信にあなたが映っていたところも」

 そうなのか……彼女にまで僕の醜態が知られているのか。

 「あなたがモンスターと戦ってるところは正直、見てられませんでした。Eランク魔物の群れにボコボコにされて、泣きべそをかきながら逃げる様は、情けなかったです。年上の探索者があんな醜態を晒してるのは、正直見るに堪えません」

 その時の戦いは確か、他の配信者が切り抜き動画でネットに公開されてたよな。
あれも見られてたのか……。

 「はっきり言いますけど、同業者の方々に虐められるのは、あなたにも原因があるんじゃないでしょうか。分不相応で身の丈に合わないことをいつまでもやっていられると、それを見苦しいと思う者も必ず出てきます。笑いものにされるのも仕方ないことです」

 :うわw詩葉さま辛辣ww
 :まったくもってその通り過ぎてww
 :きりさめくん引退はよはよ~

 牧瀬さんの意見に一部戸惑う者もいたが、大半は彼女に同意していた。

 「…………………」

 僕は俯いたまま何も言い返すことが出来ずにいた。今の言葉に対する反論は浮かんではいるのだが、それを口に出してもどうせまた笑われ罵倒される。ここには僕の味方になってくれる人がいない。反発しても無駄だ。

 「…まあ、決めるのはあなたです。せいぜい自分がご納得するまで続けられるのも良いんじゃないでしょうか。私としては、さっさと引退していただきたいのですけど」

 僕への興味が失せたらしく、牧瀬さんは僕との話を切り上げようとする。

 「ああ、それと。探索のお邪魔をしてしまったお詫びと同じ支部に所属している誼として、ここを探索して回ってた時に手慰みに狩り集めた素材と、採取したこれらも、全部恵んであげます。
 それらを売ってお金にして、今日は何か美味しいものを食べて下さい」

 そう言って牧瀬さんは僕の足下にEランクの魔物の素材と、僕が普段採ってるのよりも価値が高い植物や鉱石を置いて渡してくれた。情けをかけられた。

 :うおおお!!詩葉様からの施し!!!
 :はぁ?うらやま過ぎる!
 :やべ、さっきまでさくやにちょい同情してたけど、殺意湧いたわ
 
 「それでは失礼します。探索活動の方頑張って下さい」

 牧瀬さんは僕とは反対の道へ歩いて去っていった。彼女の姿が見えなくなったところで、僕は悔しげに言葉をこぼした。

 「……どうしてあんたまで、そんなことを言ってくるんだよ。分不相応?身の丈に合わない?そんなこと人に言われなくたって分かってんだよ。
 くそっ!あんな子まで、俺を見下して、馬鹿にするのかよ…っ」


 後日、あの配信で牧瀬さんが僕に詩葉に辛辣な言葉を投げかけた場面の切り抜き動画が上げられていた。彼女の信者の誰かによるものだろう。
 タイトルは『詩葉様からありがたい説教を受けた最低級探索者、涙目ww』だとか。
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