3 / 60
3「最低級の底辺探索者」
しおりを挟む今日の牧瀬さんの格好は、明るい色の綺麗な衣装。手にはスマホが握られていて、その画面からは今の僕の姿を映し出したホログラム映像が宙に浮かび出ている。
昨日とは違う、アイドルを思わせる可愛い格好や、僕や周囲を撮影している様子、そして先ほどの独り言とは思えないセリフ。
以上からして彼女は今、探索の配信ライブをやっているのだろう。ていうかそうとしか考えられない。
牧瀬詩葉は国内50位の日本でトップクラスの探索者。その実力による名声と優れた容姿を活かして、こうしてアイドルみたいな配信活動をやってもいる。主に探索者活動の様子を配信していて、それが大きくバズって国内で大人気となり、たくさんの支持者《ファン》を付けている。知名度に関しては彼女は国内トップクラスの探索者と呼べる。
最低級と蔑まれている僕とは天地の…いやそれ以上の格差があるんだろうな。
「何だ、またあなたでしたか。昨日あんなことがあったのに、まだこんなところで活動してらっしゃるのですね」
そんな大物配信探索者の牧瀬さんは、呆れたような蔑んだような声で、僕に話しかけてくる。すると僕の顔がばっちり映っているホログラム映像のそばに常設されているチャット欄から、僕を罵倒するコメントが次々上がってきた。
:でたw
:万年最低級のww
:最底辺探索者くんじゃんwまだ探索者業やってんだ?ww
牧瀬さんの配信の視聴者の中には僕を知っている人もいる。こう見えて僕はネットで有名なのだ。もちろん悪い意味で。
過去にも何度か、他の配信探索者の配信に映ってしまったことがあった。その度に僕の情けない戦いっぷりが晒されてしまい、そのせいで世間一般にも僕の底辺っぷりが認知されてしまってるのだ。何なら顔も名前まで覚えられてしまっている。こんな形で有名になんかなりたくなかったんだけど…。
「今日は何をしていらっしゃるのですか?」
「今日はこのエリアで採取と採掘だけやっておこうかなと。今日は体の調子があまり良くないんで、魔物との戦闘は避けるつもりです。Eランクでも今の僕には厳しいと思うので」
「そうだったのですね。賢明な判断だと思います」
:えぇ……(ドン引き
:その年でまだEランクの魔物すら満足に倒せないとかw
:そういやコイツ、半日もかけてEランク3匹しか狩れてなかったそうよ。昨日長下部のパーティがSNSで呟いてた
:まじかよwざっこwww
:いい加減探索者辞めて、普通に就職しろよな 見苦しいわいい加減
案の定、僕を馬鹿にして嘲笑うコメントばかり。よりにもよって牧瀬さんの配信に映るなんて…。同接数が多いせいで余計多くの人に僕の醜聞が伝わってしまうじゃん。
「ちょっと、視聴者の皆さん?そんなこと言ったらダメじゃないですか!この方は自分に出来ることを精一杯やろうと頑張ってらっしゃるんですから!それを馬鹿にするのは、私ちょっといい気がしません!
あまり酷いコメント流してると、今日の配信はここまでにしますよ?」
牧瀬さんはホログラム映像に向かって、視聴者たちにそんな注意を述べた。するとチャット欄には彼女に対する謝罪がちらほら見られた。
:すみません!詩葉様!許してください!
:はい!もう酷いこと言いません!なので配信まだ終わらないでください!!
:詩葉さんやさしー!あんな弱者を庇うなんて
:ちっ、気に入らないなアイツ
:今度見かけたらタイマンふっかけてやろうかな。俺でも勝てそうw
「はあ……。まあ、視聴者の方の言い分には、一部同意しちゃうんですけど」
ため息をつくと僕にジッと視線を向ける。
「昨日も言いましたが、いい加減に探索者を引退された方が良いですよ?私より長く活動をしておきながら、実績は下の下と言ったところ。未だに初心者向けのエリアを満足に踏破出来ないあなたに、この先探索者としての将来なんてとてもあるとは思えません」
:それはそう
:ほんそれ
:何年も活動して実績がそれとか、探索者の才能無さ過ぎww
「あなたには探索者としての才能があまりにも無い。いい加減現実を受け入れて、探索者の道を諦めた方が、残りの人生まだ有意義なものに出来ると私は思いますけどね。というより、絶対そうした方が良いです」
コメントに同調するように、牧瀬さんも探索者の引退を勧めてくる。昨日長下部たちから助けてもらった恩があるとはいえ、僕の事情も知らずに勝手を述べる彼女に、僕はムッとしてつい反論してしまう。
「あなたや他の誰が何と言おうと、僕は探索者を辞めないし、諦めたくない」
:はぁーかっこよwキモいけどww
:つーか何コイツ、ムカつくんだけど
:それな 詩葉様のありがたいご忠言を無下にするとか
:何様だよこいつ、マジで殴りてぇ
:馬鹿は死ななきゃ治らないって言葉、こいつにピッタリかも
僕の啖呵ともとれる主張は、視聴者たちに笑われるだけだった。
「………あなたがどうしてそこまで探索者に拘るのかは、ここでは尋ねないでおきます。配信中に人のプライベート踏み込むつもりはないので。
ですが―――」
すると牧瀬さんは少し険を帯びた目を僕に向けてくる。
「私としては早いうちに引退してもらいたいですね。あなたみたいなどうにもならない弱者にうろつかれると、私たちが所属する探索者ギルドのレベルの底が知られてしまうかもしれないので」
「え………」
突然棘のある発言に、思わず目を瞬かせる。
「私も時々、他の探索者の配信を見ることがあります。そしてたまに、誰かの探索配信にあなたが映っていたところも」
そうなのか……彼女にまで僕の醜態が知られているのか。
「あなたがモンスターと戦ってるところは正直、見てられませんでした。Eランク魔物の群れにボコボコにされて、泣きべそをかきながら逃げる様は、情けなかったです。年上の探索者があんな醜態を晒してるのは、正直見るに堪えません」
その時の戦いは確か、他の配信者が切り抜き動画でネットに公開されてたよな。
あれも見られてたのか……。
「はっきり言いますけど、同業者の方々に虐められるのは、あなたにも原因があるんじゃないでしょうか。分不相応で身の丈に合わないことをいつまでもやっていられると、それを見苦しいと思う者も必ず出てきます。笑いものにされるのも仕方ないことです」
:うわw詩葉さま辛辣ww
:まったくもってその通り過ぎてww
:きりさめくん引退はよはよ~
牧瀬さんの意見に一部戸惑う者もいたが、大半は彼女に同意していた。
「…………………」
僕は俯いたまま何も言い返すことが出来ずにいた。今の言葉に対する反論は浮かんではいるのだが、それを口に出してもどうせまた笑われ罵倒される。ここには僕の味方になってくれる人がいない。反発しても無駄だ。
「…まあ、決めるのはあなたです。せいぜい自分がご納得するまで続けられるのも良いんじゃないでしょうか。私としては、さっさと引退していただきたいのですけど」
僕への興味が失せたらしく、牧瀬さんは僕との話を切り上げようとする。
「ああ、それと。探索のお邪魔をしてしまったお詫びと同じ支部に所属している誼として、ここを探索して回ってた時に手慰みに狩り集めた素材と、採取したこれらも、全部恵んであげます。
それらを売ってお金にして、今日は何か美味しいものを食べて下さい」
そう言って牧瀬さんは僕の足下にEランクの魔物の素材と、僕が普段採ってるのよりも価値が高い植物や鉱石を置いて渡してくれた。情けをかけられた。
:うおおお!!詩葉様からの施し!!!
:はぁ?うらやま過ぎる!
:やべ、さっきまでさくやにちょい同情してたけど、殺意湧いたわ
「それでは失礼します。探索活動の方頑張って下さい」
牧瀬さんは僕とは反対の道へ歩いて去っていった。彼女の姿が見えなくなったところで、僕は悔しげに言葉をこぼした。
「……どうしてあんたまで、そんなことを言ってくるんだよ。分不相応?身の丈に合わない?そんなこと人に言われなくたって分かってんだよ。
くそっ!あんな子まで、俺を見下して、馬鹿にするのかよ…っ」
後日、あの配信で牧瀬さんが僕に詩葉に辛辣な言葉を投げかけた場面の切り抜き動画が上げられていた。彼女の信者の誰かによるものだろう。
タイトルは『詩葉様からありがたい説教を受けた最低級探索者、涙目ww』だとか。
31
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる