推しが死んでショック死したけど、目を覚ましたら推しが生きてる世界に転生したんだが?~せっかくなので、このまま推しの死亡フラグをへし折ります~

八雲太一

文字の大きさ
4 / 32

4話 不死のアンク

しおりを挟む

「コヤケさん。今回のこと、しっかり反省してくださいね」
「はい……」

 あの後、私の魔法でその場にいたゴブリンは一掃できた。でも、あれだけの規模で発動したから、ノルくんとグラさんを巻き込んじゃった。
 グラさんの治癒魔法で回復させられる程度のものだったけど、ふたりに迷惑をかけたことには変わりない。
 
 私がこんな調子だから、一旦ダンジョン攻略は中止。
 グラさんからありがたいお説教をいただいて、今に至るわけね。

「あなたは周りを見ずに暴走するきらいがあります。私、いつも言っていますよね。周囲を見て行動してほしい、と。今回だけじゃありません、この前だって──」
「ほらほら、こうして無事に帰って来られたんだ。あんまりカリカリすんなって」

 本当はノルくんも怒ったってなにも不思議じゃないのに、私たちの間に入ってくれた。
 でもね、グラさんを怒らせちゃったのは私がやらかしたから当然なんだよ……。
 って言っても、ノルくんの優しさを無碍にするわけには……あうあう……。

「あなたがいつも甘やかすから、コヤケさんが成長しないんですよ? そのあたり、あなたにも改善していただけなければ今後のダンジョン攻略が厳しくなるんですからね」
「わかってるって。そのために剣の腕をあげてるんだからな」
「あなたって人は……」

 私が悶々としている間に、グラさんの標的はノルくんに向かってしまった。
 それにきっと、グラさんが言いたかったことはノルくんには届いていない。

 でも、ノルくんがあまりにもすっきりした顔をしているものだから、なにも言い返せなくなっているんだと思う。

 で、そのノルくんはグラさんから見えない角度で私の方へ、にぱっと満面の笑みを向けてくれた。
 うん、今日もお美しい。それと、ごめんなさいと、ありがとう。
 あなたは、お顔だけじゃなくて、実際に触れあってみても素敵な人なのね……。

「さ、帰ろうぜ。せっかく早めにダンジョン攻略が終わったんだ。このままウマいもんでも……」
「見て! あんきもよ!」

 ノルくんの声を遮り、耳に届いたのは黄色い声援。
 私たちのことを〝あんきも〟って呼ぶってことは──

「面倒ですね……」
「あちゃー、見つかっちゃったか」

 ──盛大に押し寄せてくる人の波。
 ノルくんとグラさん。お顔がよくて、冒険者としても実力があるふたりが組んだパーティー。
 人気が出ないはずがなかった。

「あなたたちは早く逃げなさい。ここは私が抑えておきますから」
「だってお前、いいのかよ!?」
「貸しイチです。夕飯の支度は任せましたよ」
「お安い御用だ!」

 私とノルくんだけが駆け出してしばらく。
 振り返ると、もみくちゃにされながらも、グラさんが言葉巧みにファンの子たちを言いくるめてくれていた。

 あんなに目を輝かせていた子たちを、だ。
 一瞬視界に映ったけど、グラさんのあんなに優しい笑みは、こっちの世界にきてから初めて見た気がする。
 ほんの少しでも、その優しさを私たちにも向けてほしいけど……。
 
 グラさんが私たちに毒を吐いたり、厳しく叱ったりするのは、私たちに対する信頼の現れなんだと思う。

 作品としての〝あんきも〟を見てきた私はわかってるし、短くない時間をともに過ごしたノルくんは私よりも彼の気持ちを理解してるんだよね。

◇ ◇ ◇

「な、コヤケさん。グラフィスが言ってたことあんま気にすんなよ? 誰にだって調子が悪いときぐらいあるって」
「う、うん……」

 調子の良し悪しじゃなくて、シンプルに私ができていないからどうしようもないんだよ……。
 まあ、こればっかりは、私が練習を重ねていくしかないよね。

 ああ、どうしよ。
 アニメならヒイロちゃんは魔法を使えるテイで話が進んでいくけど、私がなにもできないんじゃストーリーに悪影響を及ぼすんじゃないの……?

 今はなんとか大筋からは外れていないけど、最悪の事態も今の内から想定しておかなくちゃ。
 私がポンコツすぎてノルくんを助けられませんでした、じゃ話にならないもの。
 全国のノルくんファンの思いを背負った私としては、回避したい未来だもん。

「んー……」

 私が悶々と悩んでいると、同じようにノルくんもなにやら考えごとをしている様子。
 物思いに耽るお姿もまた一段と……ってそうじゃなくて!
 いったい、どうしたんだろう?
 
「ノーブル?」
「あー、いや。なんでもない」

 言葉ではそう言っていけど、こっちに目線を合わせずにうんうん悩む姿はやっぱり不安になる。
 と、ノルくんはなにかいいことこでも思いついたのか、にぱっと笑みを浮かべた。

「コヤケさん、ちょっと待っててくれ。すぐに戻るよ」
「う、うん」

 そのまま、ノルくんは屋台の方へ駆け出しちゃった。いったいどうしたんだろう?

 そんなこんなで待つこと数分。
 なにかを持ったノルくんが、嬉しそうに満面の笑みを浮かべて帰ってきた。
 あんなにかわいい顔をして、よっぽどいいものが買えたんだろうね。

「お待たせ。はい、これ」

 ノルくんが渡してきたのは、輪っかの先に十字架のようなアクセサリーがついた品。
 あまり目に馴染みがないけど、多分アレだよね?

「不死のアンク。これ、この辺じゃ有名なお守りなんだ。こいつがきっとコヤケさんのことを守ってくれるから」

 こんなことまでしてくれちゃうのあなた……。
 ヒイロちゃんは、すでにこの段階で魔法を完璧に扱えるようになっていたから、私がここにきて初めて発生したイベントなんだろうね。
 少しでもかっこつけて未来を変えて見たかったけど、仕方ないかな。
 
 それにまだ、私の戦いはこれから。
 ノルくんからもらったこのお守りのおかげで頑張れそう。

「ありがとう、ノルく……ノーブル! 私、覚悟決まった!」
「え、あ、ああ。それはよかった」

 推しに背中を押されて、頑張れないオタクがどこにいるの?
 少なくとも、私は今めちゃくちゃ元気出た。
 鉛のように重かった足は、羽が生えたように軽くなってた。

「晩飯までには帰って来いよ! ウマいモン作って待ってるからな!」
「わかった!」

 意識したときにはすでに駆け出していた。
 悩んで、迷っても前進あるのみ、ってね。
 立ち止まってたってなにも始まらないんだから。

 ノルくんの言葉を背に、私はある場所を目指した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...