16 / 32
16話 冒険の原点
しおりを挟む──ノーブル=バイアス。
バイアス家に生を受けた男の子。
貴族の家系で、戦いとは全く無縁の家庭だった。
そんなある日、少年は夢を見た。
あるとき、街へ出かけて話を聞いたのだ。
冒険者、という言葉。
命の危険も顧みず、己の夢を証明するために武器をとった者たちを指す呼称。
初めて聞く単語は、やけに心の中に残った。
そこからのノーブルに、迷いはなかった。
小遣いを使って、離れた街──ダンジョン攻略の聖地ともいえる場所へ何度も足を運んだ。
そこで、ノーブルの目を引いたのがサグズ・オブ・エデン、というパーティーだった。
一見いかつい容姿をしているため、近寄りがたさがある。
しかし、街の人に愛され、また彼らも街の人を愛す姿にノーブルの心は掴まれてしまった。
「ただ、ダンジョン攻略に憧れた。みんなキラキラしてて、自分の好きに正直に生きているように思えたんだ」
だからこそ、夢を見た。
自分もいつか、彼らと肩を並べられる冒険者になりたい、と。
街で購入した剣を見せ、自分がどれほど本気か家族に伝えた。
もともと大きくなったら、家の跡を継ぐことが決定していた。
しかし、家族なら話せばわかると思っていた。
「でも、俺が冒険者になりたいって言ったら猛反対されたよ。そんな危険なことはさせない、お前は大人しく家を継げばいいんだってな。そのまま監禁されて、家業を継ぐための勉強をさせられたよ」
今まで生活をともにしてきた家族に、存在を否定された気がした。
だが、そんな生活が長く続くはずもなかった。
それでも、夢を諦めることができなかった。
むしろ、抱いた夢は大きく膨れ上がった。
ノーブルは家を飛び出した。
小遣いを貯めて買った、剣だけを持って。
どれだけ走ったのかわからない。
無事にこの街へ辿りついたノーブルだったが、彼を待っていたのは決していいことばかりではなかった。
パーティーを組んだとしても、魔法を使えずまともに剣の心得があるわけでもないノーブルを雇ってくれるパーティーなど、どこにもなかったのだ。
そんなある日、冒険者ギルド内の酒場にて。
酒は飲めないので、ヤケジュースという奴だ。
なにもかも耐えられなくなり、この場へ来た。
──だが。
どれだけジュースを飲めど、飯を食らえど。
なにも変わらない。胃も、気持ちも満たされない。
代わりに、鉛のように重たい嫌なものだけだ蓄積された。
ならば──体内にものを入れて満たされないなら、吐き出せばいいのでは。
ずっと溜め込んで、今後も引きずるよりもずっといい、という考えだ。
腹に力を込め、思いの丈をぶつける──
「「「ふざっけんな!!!!!!」」」
それは、同時だった。
叫んだのは、確かにひとりだったはず。
しかし聞こえた音は三種類。自分の耳に馴染まない高音と低音。
声量だってノーブル自身が想定していた幾倍もの大きさだった。
「「「え?」」」
顔を合わせたのも、ほぼ同時。
自分の存在を証明したい、剣を振ることしかできない元貴族の少年。
コントロールが難しいほどの超火力魔法を扱う、底抜けに明るい少女。
空気を読みすぎてしまう、サングラス姿の補助魔導士の青年。
名前も知らない、偶然この場に居合わせただけ。
だが、妙に惹かれるものがあった。
それでも、三人は自然と言葉を発した。
「俺と!」
「パーティーをっ!」
「組んでくれませんか?」
まるで、互いの言葉を知っていたかのように、ひとつの形になった。
それだけで、互いに通じ合ってる気がした。腹を抱えて笑った。
そこで、大切な仲間と出会った。
聞けば、ふたりもノーブルと似たような境遇のもとこの場で戦っているらしい。
ならば、やるべきことは決まっていた。
──自分たちの力で、自分を証明する。
自分という個を失いかけていた三人が、確かに手を取った。
こうして〝アンラッキーモータリティー〟が誕生した。
◇ ◇ ◇
「──で、俺はみんなと出会って、こうして冒険者をやれてるんだ」
言って、ノルくんは空を見上げた。
話してる途中、何度も言葉を詰まらせてたけど、胸の中でしまってた話を全て吐き出したおかげかな。
すごくスッキリした顔をしていた。
「これで俺の話は終わり。聞いてくれてありがとな……ってコヤケさん!?」
「うええ……」
で、私はというとこみ上げるものをおさえることができなくて、それはもう爆泣きである。
アニメで一回、そして今回もう一回ノルくんから直接話を聞いて。
私の感情はぐちゃぐちゃだった。
「ご、ごめん。つまんなかったよな、俺の話ばっか……。そ、そうだ! グラフィスがやらかした話をしよう! この前、あいつにおつかいを頼んだときだけどな──」
「いいの、ノーブル……。ぐずっ……」
その話はその話ですっごく聞きたい。
でも、今は私の素直な気持ちを伝えなきゃ。
あなたの話がつまんなくて泣いてるんじゃないよ、って。
あなたに共感して、幸せな涙を流しているんだよ、って。
「話してくれて、すっごく嬉しくて、それで──」
でも、言葉にはうまくできない。
溢れる思いが、どんどん膨れて言葉が詰まっちゃう。
ああ……。やっぱり私、この人のことを推してよかった──
0
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる