異世界転生録～死と隣り合わせのこの世界で死なないため、力を付けます！！～

第165話 同盟①

「おかえりなさいませ、ダグラス様。」



「ただいま。」



「…？何かいいことでもありましたか？」



「おぉ…流石グレイだな。実はさっき、俺を殺そうとしてきた要塞都市の豚領主を返り討ちにしてきたんだよ！」



「ダグラス様を…？その罪は許されません…要塞都市を滅ぼす許可を！！」



「だめだ。」



「何故です！？！？」



心配してくれるのはありがたいが、いつもヒートアップし過ぎてしまうのがグレイの悪いところだ。



「とある魔族に殺されそうになったから魔族全員を滅ぼさせてくれ…そう言っているんだぞ？」



「それは…そうですね。悪いのはその一人であって全員じゃない…失礼しました。」



「分かってくれればいいよ。」



グレイの力なら、本当に滅ぼせてしまうところが怖い。

…俺以外にも目付役が欲しいな。



「それでグレイ、一つ提案があるんだが…」



「何でしょうか？」



「要塞都市と同盟を結びたい。」



「…理由を伺ってもよろしいでしょうか？」



「要塞都市は正大陸の一番端に位置している。だから、もし同盟を結べたら正大陸と魔大陸両方から挟まれて攻撃される最悪な事態を回避できる。」



ただティーナ達を助けたいと言うわけにはいかないし、これもまた本音だ。

…同時に出来れば人族と魔族の架け橋になってもらえればいいなとも思っている。



「確かにヴァルハラ帝国は正大陸にも魔大陸にも属していませんからね…」



「その上要塞都市の騎士団はグリム達アンデッド軍より連携力が高い。…あの連携を相手にするのは厄介極まりない。」



「そういうことなら…承知いたしました。他の者にも伝えている参ります。」



「ああ。頼んだ。」



さて…

ティーナは“鑑定“によると、要塞都市の貴族令嬢だったようだ。

それも公爵家の。



あの豚領主には子供がおらず、その上要塞都市ではティーナの公爵家が一番位が高い。

よって、豚領主が死んだ今、領主代理はティーナの家の者が務めると踏んだ。



『ティーナが領主を務めてくれているのが一番良いんだがな…』



武力による制圧はどうしても避けたい。

そうなると、要塞都市に対する多大なメリットを示す必要がある。



『ヴァルハラ帝国が要塞都市より優れている点と言えば…？』



商会の信頼や武力くらいだろう。

そして武力は十分足りているので、実質交渉の武器になるのは一つだけ…



『もう少しインパクトのある交渉材料が欲しいな…』



要塞都市では領主が死んだため騒動もあることだろうし、今日は交渉内容を考えて会議に赴くのは明日にしよう。



「ダグラス様、皆に伝え終えました。」



「ありがとう。ちなみに反対する人は居たか？」



「いえ。全員賛成でした。」



「…そうか。」



意外だ。

魔狼族かグリムあたりは反対すると予想していたのだが…まあいいか。



「グレイ、交渉材料として何か使えるものはあるか？」



「そうですね…ダグラス様の結界によって魔王簒奪戦から絶対安全権を得られるというのは如何でしょうか？」



「…なるほど！人族は魔族、もとい魔王を恐れているからな。」



自作自演のような気はするが、その結果同盟を締結させられるのであれば本望だ。

これは良いカードになりそうだ。



「…他にはあるか？」



「そうですね…あとは商会との固い繋がりや武力、魔道具や武器などの技術力でしょうか？」



「だな…ん？」



「如何なさいましたか？」



「何か忘れてるような気が…あっ！」



武器で思い出した。

そういえばマルコを含むドワーフ達をヴァルハラ帝国にスカウトし、そのまま放置してしまっていた。



「…まあ同盟の交渉が終わってからで良いか。」



「ダグラス様、一つ伺ってもよろしいでしょうか？」



「なんだ？」



「先程のように、偽名を使わなくてもよろしいのでしょうか？」



「あー…」



確かにダグラスという名前が知られれば、過去の情報を暴かれてしまうだろう。

しかし俺の名前は希少なものではなく、むしろありふれた名前なので少なからず情報は錯綜するだろう。



「グレイは偽名を名乗ったほうがいいと思うか？」



「そうですね…契約は真名を打ち明けないと出来ませんが、ダグラス様ならそこはすり抜けられると考えております。ですので、真名を名乗るのはデメリットが多すぎるかと思います。」



「なるほどな…」



確かに“要塞都市と同盟を結んだ魔王候補者ダグラス“という情報が正大陸に広まってしまったら、アイザック家の皆に白羽の矢が立ってしまうかもしれない。



「ここは偽名を使った方が賢明…か。」



偽名を使っていたことがバレたとき、相手は騙されていたと思って攻めてくるかも知れないが…まあいいだろう。



「前回同様、何か良い偽名はあるか？」



「では、ジェノスという名はどうでしょう？私めが以前忠誠を誓っておりました吸血鬼の“神祖“の名前の一部からとりました。」



「ジェノスか…そう名乗ろう。ありがとう。」



「お役に立てて嬉しゅうございます。」



「…ところで“神祖“ってなんだ？“真祖“と何が違うんだ？」



「これはほとんど知られていないのですが…“神祖“とは全ての吸血鬼の原点、つまり吸血鬼という種族の生みの親です。そして“真祖“とは、“神祖“から直接血を頂いた吸血鬼のことです。」



「ふむ…」



魔王候補者になる以前の俺と同等の強さだった“真祖“のグレイを生み出した“神祖“は一体どれほど強いのだろうか…？

正直全く予想がつかない。



『…まあ今は同盟だけ考えてればいいか。』