星屑ども

木原あざみ

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19.私の綺羅星(5)

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 お母さんに内緒なんてしたことがなくて、不安で、でも、それだけじゃなく胸がドキドキして。私は生まれてはじめて自分の力で息をしている気がした。

 ――あたし、これ。紗英はどれにする?

 アイスのケースからとこちゃんが迷うことなくひとつを選ぶ。
 本当のところを言うと、私はコンビニでアイスを買うということもあまりしたことがなくて――というか、友達と買い食いをするという行為がはじめてで、ドキドキとしたまま、私はとこちゃんと同じものに手を伸ばした。
 私を見て、とこちゃんがにぱっとした笑顔を見せる。大好きな、無邪気な顔。

 ――紗英もそれ? おそろだね、あたしら。
 ――うん。

 一緒だね、と笑って、ドキドキしながらお金を払って、ふたりでコンビニの前でアイスの封を切る。今日はちょっと暑いね、なんて他愛もないことを話しながら、私はアイスをかじった。
 チョコレートでコーティングされているバニラのアイス。

 ――おいしいね。

 はじめて食べたわけじゃない。でも、今、この瞬間、とこちゃんと並んで食べているそれが、なんだかすごくおいしかったのだ。
 五月の終わり。ちょっと湿度があって、カラっとした晴天とは言い難いものの、真夏のうだるような暑さじゃない。日陰にふたり並んでアイスを食べる、たぶん最高の気候。
 私をちらりとみたとこちゃんが、うれしそうに目を細めた。さらりと流れるとこちゃんの髪がすごくきれいだったことを覚えている。私たちの前を小学生の集団が通り過ぎていったことも。

 ――きっと紗英と一緒に食べてるからだね。
 ――うん。

 そうだね、本当に。きっとそうだ。とこちゃんの眩しい笑顔から逃げるようにうつむいてアイスをかじる。
 私にいろんなことを教えてくれるのは、ぜんぶ、ぜんぶ、とこちゃんだ。
 みんなの「ふつう」も、遊び方も、友情も、恋心も。ぜんぶ。

 とこちゃんの横顔はあのころとなんら変わらないように見えるけど、本当は違うとわかっている。私たちは大人になった。でも一緒にいる。それだけは変わらない。

「ねぇ、とこちゃん」
「ん? なに?」

 呼びかけに、とこちゃんはスマホから目を離して私のほうを向いた。その顔をじっと見つめて、ほほえむ。

「ううん、なんでも。好きだなぁと思って」
「なに、それ」

 けたけたと笑って、とこちゃんはチョコレートに手を伸ばした。本当は、ぜんぶ。わかっているくせに。

 ……違う。気持ち悪いって言わないだけ、私を否定しないだけ、とこちゃんは優しい。

 こうして、一緒に生活をしてくれているだけ。だから、私も「今」に満足しないといけない。ぼんやりとそんなことを考えたまま、私ももう一度ほほえんだ。
 苦しい、痛い。離れたくない、拒絶されたくない。私の心は矛盾ばかりで、でも、絶望的にとこちゃんが好きだった。もう本当、どうしようもないほどに。
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