星屑ども

木原あざみ

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32.星屑ども(3)

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 あたしと紗英の話を書きたい。
 そう決めたところで、簡単に七年のブランクを埋めることができるはずもなく。結局、あたしは変わらず毎日パソコンの前でうんうんと唸り続けている。
 変わったことがあるとしたら、どれだけ唸っても書けないものは書けないと割り切って、パソコンの前に座る時間をアルバイトのない日の、紗英が仕事に行っている時間に限定したことだ。
 紗英が帰ってきたら一緒にごはんを食べて、どうでもいい話をしながらおしゃべりをしたり、ときには映画を見たりする。
 ふたりでソファーに座って、紅茶とお菓子をつまみながら。はっきり言って、この数年の中であたしの精神は一番健全だ。
 もちろん、紗英とふたりで過ごしているときに、ふっとこんなことをしていていいのかな、というマイナスな思考が過ることもある。でも、そういうときは素直に紗英に泣きつこうと開き直っていた。
 言葉にするって、けっこう本当に大切だ。
 そんなことを、二十八にして、あたしは日々実感し続けている。

 ――そう、とうとう二十八になったんだよなぁ。

 あと二年で三十代の大台だ。子どものころは三十なんておばさんだって思ってたし、実際、あたしのお母さんはたしか二十五であたしを産んでいたし。
 そういう意味でも、数字だけを見ても、本当にいい大人なんだけど、あたしの中身はあいかわらずだ。二十八年生きようとも、中身はべつに変わらない。だから、きっと、これは死ぬまで変わらないんだろうなぁ、と最近は諦め半分で受け入れているのだった。

 ――とこちゃんの、そういう、いくつになってもキラキラしてるところ、私は大好きだよ。お誕生日おめでとう。

「……物は言いようだよねぇ」

 数日前、そう言って誕生日を祝ってくれた紗英の笑顔を思い出し、あたしは笑った。これはおまけと言って貰った金平糖の小瓶を戸棚から取り出し、つくったばかりのコーヒーに二粒落とし込む。
 ティースプーンでくるくるとかき混ぜて、あたしはぺたりとフローリングを歩いて、自分の部屋に戻った。ほんの数分でも、クーラーのついていない空間は暑い。
 もう、八月だ。
 部屋の扉を閉め、大きく息を吸って、パソコンの前に座る。お気に入りのマグカップは、パソコンの横。
 ひさしぶりに書いた小説とも言えない文字の羅列は本当にへたくそで、でも、謎に「はじめて書いたよ」「楽しかったよ」みたいな勢いだけはある。比喩でもなんでもなく、中学生がはじめて書いた小説みたいだった。
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