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8 声変わり
しおりを挟む四つ上のユーリは学園に通い始め、頻繁に会えなくなってしまった。
でも、長期休暇の時には必ず会いに来てくれる。
少し大人びたユーリは声変わりをして低く甘い声に変化していて、耳元で「ヴィー」と呼ばれるだけで、僕の腰は砕けている。
ちなみにまだ九歳なんだけど、ロリコン達にいたずらされていたせいか、他の子よりはませている気がする。
まあ、会う人を制限されているから、同い年の子とは会話したこともないのだけれど……。
そんな僕は、久しぶりにユーリに会えたことが嬉しくて、ソファーに腰掛ける大好きな人に、これでもかとぴったりとくっついている。
今日も今日とて、キスの場面がある本をズラリと用意している僕は、もうユーリとキスがしたい気持ちを隠し切れていない。
ちなみに、隅っこに飾ってあった冒険の本は撤去した。
ユーリがどの本を手にしてもキスが出来ると内心ニヤニヤしている僕は、ユーリが持ってきた鞄から本を取り出して「今日はこれを読もう」と言われて、目玉が飛び出るくらい驚いて絶句した。
「あれ? もしかして、読んだことあった?」
「……………………」
「誰と読んだの」
何も言わない僕に苛立ちを隠しきれない声色のユーリは、切れ長の目を細めて僕を見下ろす。
「読んだことないよ……」
「本当に?」
「うん……ちょっと、驚いただけ……」
まさか、僕がキスしたいからそういう本ばかりを集めていることがバレていて、ユーリ自らキスの場面がない本を用意したの?
――ユーリが、僕を拒絶している。
もしかして、学園で良い人が出来たのかな?
それを直接言うのではなく、僕を傷つけないように遠回しに教えてくれているのだろうか?
そう思うとぶわりと涙がこみ上げてきて、それを隠すようにぱちぱちと必死に瞬きを繰り返す。
そして、悲しい気持ちを抑えることができないまま、朗読会が始まった――。
どんよりと沈んでいた僕は、今現在、顔を真っ赤にさせて、置物のように体を硬直させている。
「んっ…………ユーリ、」
「ヴィー、この世で一番愛してるよ」
ユーリの大きな手が僕の両頬を包み込んで、唇をはむはむと啄まれている。
これは、キス一回? それとも、十二回?
小鳥のように啄まれる数までカウントしている僕は、ユーリが好きすぎて頭の悪くなる病気になったらしい。
「次、ヴィーの台詞……」
「っ……」
口付けながら話すユーリが色っぽすぎて、鼻息が荒くなってしまう僕は心底キモすぎる。
何でも出来るかっこいいユーリには似合わない。
でも、今だけはユーリのお姫様でいたいんだ。
「ぁっ、ユーリ、……もっと、して……」
本の台詞なのに、まるで僕が強請っているようで居た堪れない。
……いや、本心では強請ってはいるけれども!
軽くパニックになっている僕は、ユーリの胸元にしがみついて、もっとして欲しいとばかりに顎を突き出している。
ユーリはきっと、僕が本の中のヒロインになりきっていると思っているだろう。……多分。
そしてゆっくりとソファーに押し倒されて、真上から口付けられる。
綺麗な金色の髪が僕の頬にさらりと触れて、それだけのことなのに、ぞくぞくしてしまう。
「可愛いよ。ヴィー」
「っ、ぁっ、ユーリ、……好きっ、ン」
思わず心の声を口にしてしまったけど、たまたま本の台詞と同じだったらしく、ユーリは全く気にせずに僕の下唇を啄んでいる。
……もっと、もっと、触れたい。
ユーリの首元に腕を回した僕は、ユーリにされたように薄い唇を啄んだ。
もう本の内容なんて一ミリも覚えていない馬鹿な僕だけど、ユーリが何も言わないからきっと合っているんだと思う。
「ヴィーは俺のものだよ。誰にも渡さない」
普段は自分のことを私と呼んでいるユーリが、俺って言ったってことは、ユーリは確実に本の通りに演技している。
そのことにちょっとだけ胸が痛くなったけど、目を閉じてうっとりとする僕は、大好きな人の唇の熱を感じ続けていたのだった。
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