12 / 65
12 噂って怖い
しおりを挟むそして僕は、ユーリへの想いを断つために髪をバッサリと切った――。
うん、バッサリは言い過ぎた。
本当は短髪にしたかったんだけど、家族全員に全力で止められた。
腰まで真っ直ぐに伸びていた白銀の髪は、肩甲骨辺りまでの長さになり、もう僕の髪を梳かす人がいないんだから、片方に纏めて編み込んでいる。
おかげで髪が乾くのも速いし、読書もしやすい。
そして、母様に切ってもらった髪をライオネルにプレゼントしたら、泣きながら喜んでいた。
僕の髪に価値なんてないのに、ライオネルはよっぽど白銀の髪が欲しかったみたいだ。
だけど、困ったことがある。
髪を切ったことにより、元々幼く見えていた僕が、さらに可愛く見えているらしく、今まで近づいて来なかった学園の生徒たちに、告白される機会が増えた。
僕と話したこともないのに、好きだと告白してくる人達の気持ちがよくわからない。
それは丁寧にお断りしているんだけど、そのせいで、よりライオネルへの虐めが悪化した。
見かねた僕が庇ったことによって、ライオネルが僕の恋人だと噂されるようになってしまった。
ライオネルは親友だし、彼も僕のことを慕っているわけではないと思う。
長く一緒にいるけど、そんなこと言われたこともないしね?
結局、僕が一緒にいればライオネルがいじめられることはないのだからと、常に行動を共にしていたけど、余計に噂は広がっていく。
そして、今ではライオネルは、僕の婚約者という立ち位置になっているらしい。
……噂って怖い。
そんな噂を気にすることなく学園生活を楽しんだ僕は、学園を卒業して十六歳になり、そろそろ婚約者を決めなければならないと父様に話をされた。
僕は兄様二人と違って出来損ないだし、僕自身に価値はないのだけど、縁談話は以前からたくさん舞い込んでいるらしい。
僕はユーリ以外なら、誰だっていいのだけど。
縁談相手の経歴や姿絵の載っている冊子に目を通している僕は、趣味は読書、好きな食べ物は甘いもの、剣術が得意な努力家、そんな人を無意識のうちに探していた。
結局、未だにユーリに囚われている――。
気分転換しようと部屋を出ると、使用人たちの噂話が聞こえてきた。
「ナポレオン殿下が、隣国の第二王子と婚約したんでしょう?」
「相手がナポレオン殿下に一目惚れしたらしいけど、殿下もまんざらでもなかったみたいだしね!」
「お似合いだわ! 本当おめでたいわね!」
「……その話、本当?」
思わず声をかけてしまった僕に、使用人達が驚きつつも笑顔で頷いていた。
なんで? じゃあ、ユーリは?
ユーリはどうなったの?
ユーリはナポレオン兄様のことが好きで、婚約者になったんじゃなかったの?
二人はいつも一緒にいたのに。
ユーリは……兄様に捨てられたの?
とにかく、ナポレオン兄様本人に話を聞きたい。
そこまで考えた僕は、知らぬ間に走り出していた――。
兄様の部屋の近くまで来ると、息を切らす僕の目の前に、初恋の相手と、彼の父親が険悪な雰囲気で向かい合っていた。
ユーリの父である、ユリウス・グレンジャー侯爵閣下はアルメリア騎士団の団長を務めている。
背の高いユーリよりも一回りは大きな体格の彼は、そこにいるだけで威圧感が半端ない。
その鋭い眼光は、ユーリにも受け継がれているってわけだ。
僕に気づいた騎士団長は、「これはこれは、ヴィヴィアン殿下」と、ニカッと白い歯を見せて笑いかけてくれる。
日に焼けた肌の彼もまた、美しい金髪だ。
首が痛くなるほど見上げていた僕は、短く刈りそろえてある金髪をしげしげと見つめていた。
「ヴィヴィアン殿下? 私の顔に何か?」
「っ、あ、いえ……。綺麗な髪だなあと」
目を丸くした騎士団長は、ニカッと笑いながら僕の髪をわしゃわしゃとかき混ぜた。
反射的にビクッと体を震わせた僕に、慌てて手を離した罰の悪い顔をした騎士団長は、気まずげに頬を掻いて謝罪する。
そしてユーリは僕の方を一切見ることもなく、相変わらず鋭い目つきで父親を睨み付けていた。
81
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる