31 / 65
31 奇跡が起こった
しおりを挟むずずっと鼻を啜る音で目が覚めた僕は、暫くの間、このまま起きて良いのだろうかと迷っていた。
なぜなら、寝ている僕の横で椅子に座って突っ伏した状態の金髪の美青年が、大号泣しているから。
…………僕、死んだと思われてる?
昨日も静かに泣いていたけど、こんなに延々と泣いているユーリは初めて見た。
真っ白なふわふわの上掛けは、ユーリの涙と鼻水でベチョベチョなんじゃないかと思う。
大好きなユーリの鼻水なら、どれだけ汚れても別に構わないけど。
よしよしと金色の髪を撫でると、ビクッと体を震わせたユーリは、恐る恐る顔を上げる。
そして美しい顔の青年は、今は目元がパンパンに腫れていて、白目も真っ赤だ。
「ユーリ?」
「っ……ゔぃー、」
「だ、大丈夫……?」
目が開いているのかもわからないくらい腫れすぎて、かなり可哀想なことになっている。
体を起こすと、額からぽろりとタオルが落ちてきた。もしかしたら、熱っぽかった僕のために、ユーリが寝ずに看病してくれていたのかもしれない。
さっと起き上がってタオルを水で冷やして、ユーリの腫れ上がる目元に当てる。
「なにか嫌なことでもあった? 僕でいいなら、なんでも聞くよ」
「っ、ゔゔゔっ……」
「えっと、みんなみたいに的確なアドバイスは出来ないけど……。ユーリが落ち着くまで、一緒にいるから」
「っっっっ、ゔぃ~~~~っ!!!!」
僕の腰にしがみつくユーリは「ヴィー」とひたすら僕の名前を呼び続けていた。
嫌いなはずの僕に頼るなんて、相当辛いことがあったみたいだ。
頼りない僕でも、ユーリのためならなんだって出来ると、そっと頭を抱きしめてユーリが落ち着くまで優しく金色の髪を撫で続けた。
「ごめ゛んな、ゔぃー。お゛れ、お゛れ、ゔぃーに好きって、言ってもらいだぐで、ゔそづいだ」
「……………………ぇえっ?」
「ナポレオンなんがっ、一ミリも好ぎじゃない! あんな性悪っ、むじろ、ぜんっぜん、タイプじゃないがらっ! 死んでもごめんだっ!」
「んんんん?」
僕に好きって言ってもらいたかった?
ユーリはナポレオン兄様のことが好きで婚約者になったんじゃなかったの?
むむむ、と唸る僕に、パッと顔を上げて、綺麗な顔をくしゃくしゃにしているユーリは、すがるように僕を見つめる。
「ずっと、ゔぃーが好きだっだ! 十年前から、お゛れは、ずっとゔぃーが好きなんだよっ!」
半ばヤケクソぎみの告白に、僕は開いた口が塞がらない。
こんな奇跡のようなことが起こるなんて。
明日は雨かもしれない。
いや、雪が降る。……今は春だけど。
「こんな状況じゃ、カッコ悪いし、碌に説明もでぎないから、明日出直じでぐるっ」
「え、ええっと、うん……」
「明日、朗読会ずるがらっ」
「あ、う、うん」
ぐしゃぐしゃな顔のまま僕から離れたユーリは、とぼとぼと部屋の扉の方に歩いていく。
このまま行かせて大丈夫だろうか。
心配になった僕は、今日は小さく見える背中にぎゅっと抱きついた。
「ユーリ、行かないで」
ひゅっと息を呑むユーリは、壊れたおもちゃのようにぎこちなく僕の方に振り返る。
「あのとき、大嫌いって言ってごめんね。僕も、十年間ユーリが好きだったよ。ヴィーって呼んで、笑顔を見せてくれたときから、ずっと……」
「…………ゔぃーっ」
くしゃくしゃな顔でにっこりと笑ってくれたユーリに、僕も満面の笑みを浮かべる。
「ユーリは完璧な王子様だって思ってたけど、そんな顔もするんだね?」
「……やっぱり帰る」
「ええっ?!」
「こんな不細工な面で天使と一緒にいれない」
「……天使?」
首を傾げる僕にくすっと笑ったユーリは、正面から僕を抱きしめた。
「ヴィーと一緒に読みたいと思っていた本がたくさんあるんだ。五年分、ストックが溜まってる」
「そんなに?」
「ああ。でも明日読む本は決めてある」
「……すごく楽しみ。もう、一生朗読会は出来ないと思ってたから」
幸せを噛みしめていると、ユーリは真剣な表情で僕の両肩に手を置いた。
「ヴィー。俺はいつも、ヴィーの前でかっこつけてばかりで、本心を口にして来なかった。だって俺は、いつだってヴィーの王子様になりたかったから……。でも、間違ってた。そのせいで、ヴィーをたくさん傷つけてしまった。本当に本当にごめん。ヴィーは、俺が情けない奴でも……好きでいてくれるか?」
「もちろんだよ! だって僕の方がよっぽど情けないもん」
自慢出来るようなことじゃないけど、堂々と話した僕は、えへへと照れ笑いをする。
そんな僕に、ユーリはしわくちゃな顔をして「可愛い」と連呼する。
褒められているのだろうけど、ユーリにだけは可愛いなんて言われたことなかったから、すごく恥ずかしい。
「可愛いはコンプレックスなんだけどなぁ?」
「なに言ってるんだ。可愛いは正義だろう」
「えっ。どういう意味?」
「ヴィーは息をしているだけで可愛い」
「っ……そんなわけないでしょっ」
それから、ひたすら僕を可愛いと言い続けるユーリに、恥ずかしいからやめてとお願いしたけど「十年分の可愛いを爆発させている」とよくわからないことを言ってた。
昔僕と一緒にいたユーリは、いろいろと我慢していたらしい。
ユーリの素の部分が垣間見れた気がして、それはそれですごく嬉しかった。
でもあまりに可愛いしか言わないもんだから、寝不足で頭がおかしくなってしまったのだと判断した僕は、ユーリを無理矢理僕の寝台で寝かしつけたのだった。
83
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】悪役令息の従者に転職しました
* ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
透夜×ロロァのお話です。
本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけを更新するかもです。
『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も
『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑)
大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑)
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる