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その後
61 激しい壁ドン
しおりを挟むユーリに問い詰められて、うまい言い訳が思いつかなかった僕は、ユメルさん達とお茶をしていて遅くなったと話した。
場所は言っていないし、嘘はついていない。
疑うように目を細めたユーリは、明日も早いからとさっさと部屋を出て行った。
誕生日までは二週間ある。
その間に仲直りしたら良いと安易に考えていた僕は、それから数日の間、仏頂面のユーリと気まずいお茶会をすることになる。
話しかけても「あぁ」で会話が終了してしまい、黄金色の瞳からは、他に話すことがあるだろう。と言われているような目をされてしまう。
このまま険悪な空気でいることは耐えられないから、最悪、サプライズは諦めよう。と思っていた僕は、誕生日前のお泊まり会を迎えるのだった。
そんな僕は現在。
怒り狂うユーリに、激しい壁ドンをされている。
顔の横の壁がメリメリと音を立てて、壁だったはずの欠片がボトボトと落ちていく。
「外出したってどういうこと? ヴィーと初めて出かける日を楽しみにしてたのに」
「っ、ユーリ、違うのっ!」
「何が違うんだよ? 出掛けたんだろ?」
答えろ、と凄みのある声で脅された僕は、震えながら頷いた。
「憎いディーンから話を聞いた俺が、どんな気持ちだったか分かるか? 恋人なのに知らないのかと、馬鹿にされた、俺の気持ちが分かるか?!」
「っ……ごめん、なさぃっ……」
怒り狂うユーリだけど、体を縮こまらせて謝罪する僕を見下ろす黄金色の瞳は、悲しい色を滲ませて見えた。
「悪い。怖がらせて……。今日は冷静になれる気がしないから、お泊まり会は中止しよう」
僕の目尻の涙を優しく拭ったユーリは、ごめんなと謝って僕に背中を向けて歩き出す。
その広い背中に慌てて抱きついた僕は、本当のことを話すことにした。
「ユーリ、傷つけてごめんなさい。どうしても、驚かせたくて……」
「驚く?」
振り向いて片眉を上げるユーリの手を引いた僕は、誕生日にデートしたいプランを記入したノートを手に取り、ソファーに腰掛けた。
そして『ユーリの誕生日♡初デートプラン』と書かれた頁を開く。
僕の感想がたくさん書かれていて、少しわかりづらいから、口頭で説明することにした。
「まず、レンジさんに教えてもらったチョコケーキが有名な『スウィーティー』ってお店に行って、パフェが食べたい。二人で食べたら幸せになれるんだって! あっ、でもチョコケーキもすごく美味しいから、ユーリがそれが良いなら、僕はチーズケーキを食べるよ! 店員さんも感じが良かったし、人目につかない奥の席があるから、そこなら食べさせ合いっこ出来ると思うんだ! レンジさんとパールさんがパフェを食べさせ合いっこしてて、すごく楽しそうだった!」
実際は食べさせ合いっこというより、レンジさんがパールさんの口に、フルーツをぶち込んでただけだけど。
男前な顔を歪ませて、必死に鼻呼吸する半泣きのパールさんを思い出す僕は、くすりと笑う。
「お土産のクッキーも味見してみたけど凄く美味しかったから、ユーリが気に入ったら買おう? それからね、ユメルさんお勧めの見晴らしの良い高級旅館で一緒に過ごすの。プレゼントはまだ決めかねてるんだけど……。あ、その、最後のところは気にしないで!」
『プレゼントは僕の処女!』
と書いてあることを今更ながら思い出した僕は、その部分だけ両手で隠す。
ユーリが読んでしまったかはわからないけど、顔を見るのが怖かった僕は、ノートを見たまま話し続ける。
「ユーリの誕生日を素敵な一日にしたかったから、三人にお願いして下見に行ったの。本当は僕も初めての外出は、ユーリとのデートが良かったけど……。当日驚かせて、ユーリの笑顔が見たかったから……。僕の勝手な行動で、ユーリを傷つけてごめんね……」
うんともすんとも言わないユーリに、心配になってチラリと顔色を伺うと、唇を噛み締めて静かに泣いていた。
「っ、ユーリ?! ご、ごめんね、本当に。僕、ユーリの為にって思ってたのに、ユーリの気持ちも考えないで……」
泣くほど悲しませてしまったことに反省した僕は、サプライズだからと勝手に行動したことを後悔していた。
そんな僕を強く抱きしめたユーリは、嗚咽を堪えながら「嬉しい」と囁いた。
「ヴィーが、俺の為に計画してくれてたことが知れて嬉しい……。それなのに、俺は本当に馬鹿だ。ディーンなんかに挑発されて、大好きなヴィーを責めて……。もう、死にたい」
「っ、死なないで?! 僕が悪かったんだよ、内緒にしてたから……。話すタイミングは何度もあったのに、どうしても驚かせたいって気持ちを優先しちゃって……」
「いや、俺が悪い。いつも悪いのは俺なんだ」
僕の首筋に顔を埋めて深くため息を吐くユーリは、どんよりと落ち込んでしまった。
ユーリを喜ばせたいと思っていたのに、サプライズはバレてしまうし、逆に悲しませてしまって、こんなことなら最初からユーリと相談して決めたら良かったな、と僕も反省する。
「悲しませてごめんね……。来年からはちゃんとユーリに相談するよ」
ユーリの背中を撫でながら告げると、より一層泣かせてしまった。
ああ、もう、僕って気の利いたことが言えない、本当ダメな恋人だ。
ユーリの誕生日一週間前に、恋人を泣かせてしまった不甲斐ない自分にガックリとするのだった。
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