公爵令嬢やめて15年、噂の森でスローライフしてたら最強になりました!〜レベルカンストなので冒険に出る準備、なんて思ったけどハプニングだらけ〜

咲月ねむと

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過去編 過去編 リリアンヌ様のはちゃめちゃ令嬢修行

第6話 初めての剣

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​ お父様の書斎に、嵐を呼んだ一件以来、屋敷の使用人たちの間で、私に対する態度が、少しずつ変わってきた。
 以前のような遠巻きにするような畏怖の念ではなく、何か、こう、「次に、このお嬢様は、何をやらかしてくれるんだろう」という、期待と諦めが混じったような生暖かい視線を感じるようになったのだ。

​ そんなある日、お父様は、私を書斎に呼び出した。すっかり綺麗に片付いた書斎で、父は疲れ果てた顔で、私に告げた。

「リリアンヌ。お前の有り余る力を少しでも建設的な方向へ導くため、明日から新しい授業を追加する」

「まあ、素敵! 今度は、何ですの?」

「……剣術だ」

 ​剣術。
 その言葉に心は、これまでになく高鳴った。 

 『女剣士アリアの冒険』で、主人公が華麗な剣技で魔物をなぎ倒していく、あの姿。
 それに、少しでも近づけるかもしれない。

 ​翌日、私は動きやすい訓練用の服に着替え、屋敷の中庭にある道場へと向かった。
 道場では、グスタフ先生よりも、さらに厳格そうな顔つきの筋骨隆々とした大男が、私を待っていた。

​「お嬢様。私が剣術指南役のボルグです。以後、お見知りおきを」

 ​彼は元王国騎士団の剣術師範代だったという、まさに達人。
 その眼光は鋼のように鋭い。

​「剣の道は、礼に始まり、礼に終わります。まずは、この木剣を正しく構えることから、始めましょう」

 ​ボルグ先生は、私に一本の重い木剣を手渡した。ずしりとした重みが心地よい。
 私は本で読んだ、アリアの姿を思い出しながら木剣を構えてみた。

​「……ほう」

 ​彼の眉がぴくりと動く。

​「……初めてにしては、筋がいい。無駄な力が抜けている。素晴らしい」
 
​ 初めて褒められた。
 私は嬉しくなって、さらに姿勢を正す。
 ​その日の訓練は、ただ、ひたすら構えと素振りの繰り返しだった。地味で退屈な訓練。でも私は、少しも苦ではなかった。

 剣を握っている。
 ただ、それだけで、私は物語の主人公になれたような気がしていたのだ。

 ​訓練は、毎日続いた。
 私の上達は異常なほど早かった。

 ボルグ先生が、一度教えた型は、次の日には、完璧に自分のものになっている。
 始めて一週間経つ頃には、私は並の騎士候補生よりも鋭い剣筋を見せるようになっていた。

​「……信じられん……。お嬢様は、天才だ……!」

 ​ボルグ先生は、私の常識外れの成長速度に驚きを隠せないようだった。

……でも、それは当然のことだった。

 物心ついた頃から続く退屈な授業と、レッスンで培われた、私の驚異的な集中力。
 そして、毎晩、秘密の訓練で磨き上げてきた規格外の魔力による身体強化。
 その二つが組み合わさって、私の才能を爆発的に開花させていたのだ。


 ​訓練開始から、一ヶ月後。
 ボルグ先生は、ついに真剣を持つことを許可した。公爵家に代々伝わる美しいレイピア。
 そのひやりとした鉄の感触が、私の手にしっくりと馴染んだ。

​「お嬢様。本日は、この私を相手に、初めての模擬戦を行います。もちろん刃は潰してありますが……。油断なさいませぬよう」

「はい、先生! よろしくお願いします!」

​ 私たちは、道場の中央で向かい合った。

 ボルグ先生がゆっくりと剣を正眼に構える。
 その姿には、一切の隙がない。
 空気が張り詰めている。

​「……参ります!」

 ​ボルグ先生が動いた。
 踏み込みは、静か。しかし、その剣は凄まじい速さで、私の喉元を狙ってくる。

 速い!

 でも、

​(……見える)

 ​私の目には、先生の剣の軌道が、まるでゆっくりと再生される映像のように見えていた。
 最小限の動きで剣を受け流す。

​キィン!

 ​甲高い金属音が響き渡った。
 先生の目に驚きの色が浮かぶ。

​「……今のを、防ぐか……!」

 ​そこから凄まじい打ち合いが始まった。
 先生が繰り出す百戦錬磨の剣技の嵐。
 それを私は、あらかじめ知っていたかのように、全て捌き切っていく。

 違う。知っているわけじゃない。
 ただ、体が勝手に動くのだ。
 こうすれば防げる。こうすれば反撃できる。

 頭で考えるよりも早く理解できてしまう。

 ​数十合、打ち合った頃だろうか。

 ついに勝負の瞬間が訪れた。

 先生の渾身の突き。
 そのわずかな隙を、私は見逃さなかった。
 ​私は、その突きを紙一重でかわすと、カウンターで先生の胴めがけて剣を滑り込ませた。

 それは自分でも信じられないくらい完璧な一撃だった。

 ​びりっ​という、小さな音と共にボルグ先生の訓練着が綺麗に切り裂かれていた。

​「…………」

 ​道場が静まり返る。
 ボルグ先生は服の切れ端と、私の顔を交互に見比べ、ゆっくりと剣を下ろした。

​「……参りました、お嬢様」

 ​彼の心の底からの敗北宣言。

 私は自分が何をしでかしたのか分からずに、ただ、呆然と立ち尽くしていた。

 ​その日の夕方。
 ボルグ先生は、お父様の書斎で、こう報告したという。

​「……公爵様。もはや私に、お嬢様を、お教えすることは、何もございません。あの方の才能は……神々に愛されし領域にあります……」


 ​その報告を聞いた、お父様の頭痛が再発したのは言うまでもなかった。
 私の令嬢修行は、またしても指導者の精神を破壊することで、一つの終着点を迎えてしまったのだった。
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