八ツ色物語〜失われたヴァイス属性魔法を駆使して平和を掴み取ってみせる!〜

君影 ルナ

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いっしょう

1-11 青の治癒(※)

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※鬱注意
──────

「で、出来るようになったのか?」

 翌日。昨日と同じ場所に行くと、結果は分かりきっているのにニヤニヤと笑いながら──勿論顔は仮面で隠されているが、そうに違いない声色だった──ラナンキュラス大先生はそう聞いてきた。

「ぐぬぬ……」

 そう、あれから一日中ずっと自分の怪我を治すために青属性を練習していたのだが、どうもコツを掴めずにいた。ということでまだ私の体には無数の傷が残っている。

「下手くそ~!」

「ぐぬぬ……」

「だが、そうだな……練習方法が悪いのかもしれんな。」

 と、急に真面目になったラナンキュラス大先生はフムと数秒考え込み、その後私に手を差し出した。

「ん。」

「……?」

「ん!」

「……え、何ですか?」

「お前の短剣を寄越せ!」

「突然の強奪!?」

「違うわ! 今近くに刃物が無いんだよ!」

「……分かりました。」

 ガイスト討伐にいけないとしても、短剣だけは肌身離さず持っていた。それを悟られ、さらには強奪される。

 その大事な短剣をラナンキュラス大先生に嫌々手渡すと、ラナンキュラス大先生は徐に彼自身の腕をそれでザックリ切った。

「え!? ちょ、ラナンキュラス大先生!?」

「ほら、良いから俺のこの傷治せ。」

 ボタボタと血が流れ出るラナンキュラス大先生の腕を差し出され、私はパニックを起こしてしまう。

「落ち着け。そんなに傷は深くない。だから早くこれを治せ。じゃないといつまで経っても俺が痛いままだなぁ~?」

 自分が痛いのは別にどうでも良い。でも他の人が痛そうにしているのは見ていられない。早く治してあげないと!

 私は今までにないほどに集中し、ラナンキュラス大先生の傷を覆うようにマナを流す。

「っ……!」

 しかしその傷が治る様子もなく。未だにダラダラとラナンキュラス大先生の腕から血が流れ続けている。

 駄目だ、焦っては逆効果。だから落ち着いて、それで、もう一度傷を治すために……

 多少は落ち着いたものの、まだ頭はパニック状態で。ハッハッと息が浅くなりながらも頭をフル回転させる。早く、早く治さないと!

『俺の場合はマナ不足の人に向けて、己のマナをその人が持つマナの形に整えて流していくんだが……』

 その時昨日ラナンキュラス大先生に言われたことをフッと思い出した。自分のマナをそのまま流すのではなく、その人に合ったマナの形(仮)に変えて、そして、そして……?

 他人のマナの形(仮)なんて考えたこともなかった。だからイマイチそのイメージが湧かなかったが、そうも言ってられない。

 ──ラナンキュラス大先生のマナの形(仮)はどんなものなのか?

 分からなくても思考は止めてはならないと考え続ける。他人のマナに合わせて、整えて、とは……?

 己のマナを巡らせるために意識したことは、他の人に対しても出来ることなのだろうか? ……試す価値はありそうだ。

 それなら己のマナを感じる時、どうしたんだっけ。それを思い出す。

 そうだ、己の皮膚、肉、骨と隅々までに意識を向けて、その中からマナ溜まりを探したんだ。そして、それを巡らせて……。

 ラナンキュラス大先生もマナを巡らせ続けているだろうから、それに意識を向けて、そしてそれに寄り添ったマナに変化させて……変化させるって何だ?

 まあ、取り敢えず第一段階、ラナンキュラス大先生のマナを感じること。血が流れ出る彼の腕を手に取り、巡るものに意識を向ける。……これか。それっぽいものを見つけた。

 私のマナとは違い、少し棘はあるのに優しい、相反する二つの要素が合わさったもの。

 見つけたまでは良い。次、それに寄り添うためには……?

 よく分からないまま取り敢えずマナを流してみる。ものは試し、みたいな感じで。

 するとみるみるうちにラナンキュラス大先生の腕の傷が治っていく。

「あ、出来た。」

 ということは、その人のマナを感じられれば使えるようになる、と。ふむふむ理解した。

「……じゃあ、それを自分にも使ってみろ。」

「はい!」

 不服そうな声で己にも使えと指示されたので、同じような感覚で己の頭にマナを流していく。

「……治ってないな。」

「あるぇ?」

 なんだ、もしかして自分自身には使えない魔法なのか? でもラナンキュラス大先生は自分にも使ってみろと言っていたから、きっと使えるはず……なんだけど。

 そう考え込んでいると、ラナンキュラス大先生も同じように考え込んでいた。何考えているんだろう?

「(普通は他人の痛みより自分の痛みの方に敏感になるのが人間ってもんだ。だから他人おれへの治癒よりも自分エンレイへの治癒の方が簡単なはず。それなのにエンレイは他人の傷を治すことは出来ても自分自身を治せないだなんて……自分よりも他人を優先するような人間性が顕になったということか。)……お前、キッモ。」

「え、ラナンキュラス大先生!? 急な罵倒は何!?」

 ラナンキュラス大先生が少し考え込んだと思ったら一言『キモい』だなんて……。意味分からなすぎて泣きそうだ。

「まあ、自分の怪我を治す練習はその怪我が治るまでは幾らでも試せるだろう。今の感覚を忘れなければあとは大丈夫だ。ということで俺が教えることはもうない! だからとっととその怪我治してここから出ていけ!」

 そう言って私の背中をグイグイと押していくラナンキュラス大先生。その力に抗えずにタタラを踏みながらも病室まで連れて行かれた。

 それからも病室で自分に対して青属性魔法をかける練習をしていたが、結局それが出来るようになったのは数日後、退院することになったその日だった。

…………

「おかえりなさい、エンレイ。さて、言い訳はあるかしら?」

 ノコギリ荘を追い出されるように退院した。その足で家に帰ってきたは良いのだが、その、玄関の前で仁王立ちして待ち構えていたツユクサさんにそう聞かれ、私は脊髄反射のようにその場に正座した。

「い、いえ……ありません……」

「まあ、あなたに言葉でアレコレ言ってもあまり聞かなそうだから、罰方式にしようと思うの。……ないとは思うけど、異論はあるかしら?」

 にこぉーっと怖いくらいに笑うツユクサさんに反論するなんて怖いこと出来るはずもなく。冷や汗をダラダラ流しながら蚊の鳴くような声で『ありません』とだけなんとか声に出せた。良くやった、自分。

「そう。なら、今回の罰を発表します。……自習も含めた魔法の練習とガイスト討伐を少しの間禁止します!」

「っ……!?」

 その罰を聞いて、私はサッと顔を青ざめさせる。

 そんな! それじゃあその『少しの間』私はただの穀潰しでいるしかないということ!?

 唯一の心の支えである『存在意義』を取り上げられてしまったようで、私はもう正気でいられなかった。

「早く魔法を習得しないと、役に立たないと、生きてちゃいけないのに……?」

 生きてちゃいけない。生きてちゃいけない。生きてちゃいけない……

 その言葉だけが頭を埋め尽くし、無意識のうちに己の首に手をかけ力を込めていた。誰に聞かせるでもない謝罪と共に。

「エンレイっ!?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

「エンレイ! エンレイ!」

 聞いたことのある声と誰かの体温を感じた瞬間、私の意識がフッと沈んでいったのだった。
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