あをによし ~年下宰相様は日本画家の地味系女子にご執心です~

柚木音哉

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31.……捕まってしまいました。☆

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 レオンハルトの瞳は捕食者のものに似ているのだ。

「レオン……」

 獅子の名に相応しく、獰猛さを秘めた瞳。

「君が居なくなるなんて、二度とごめんです。僕では無い誰かのものになるなんて、絶対に許さないよ」
 捕食する側と捕食される側。
 さしずめ、美月は上手く隠れてぴょんぴょんと逃げ回る兎。レオンは彼女を追いつめて、遂には回り込んで逃げ場を塞いだ獲物を狙うライオンだ。
 瞳はギラついているし、物欲しげな表情は飢えた獣のようだ。

「……美月、僕は君が食べたいです」
「た……た、たたたた食べても美味しくないですよ」
 美月が声を裏返りさせながら、慌ててそう進言しても、レオンは楽しそうに、そして、心底幸せそうに笑ってそっと口を開いた。
「いいえ。ずっと、ずーっと我慢していたんですよ。絶対に美味しく最後まで食べてあげますから、そろそろ無駄な抵抗はやめて、さっさと僕に捕まればいいんです」
「ひぃっ!!」
(美味しく食べるって言葉が今、私の中で世界で一番卑猥に聞こえたわ……)
 謎の妖しい色気を過分に含んで、それを笑顔に隠してうっそり笑うこの男は……本当にあの、天使のように可愛らしかった彼なのだろうか?
 そもそも、本当にこの人は自分よりも年下なんだろうか? と、疑いたくなるレベルのこのダダ漏れる色気は何なの。

「さぁ。美月、今度こそ、僕の気持ちに応えてくれるよね?」

「あ、え……その……」
「答えはシンプルですよ。君は僕が嫌いですか?」
「え。……い、いいえ?」
「では、好きですか?」
「えっ…………」
「答えは?」


「………………はい」

「ふふふ……嬉しい。ほら。シンプルでしょう? 君は周りに気を回し過ぎるんですよ。僕はそんなに頼り無いですか?」
「……で、でも……」
「でもとかだってとかは要りません。周囲や環境なんて、これからどうにだってなりますし、僕が何とかします。それだけの力が今の僕にはあります――だから! だから、僕は君の……美月の本当の気持ちが知りたいんです。ちゃんと、言葉にして下さい」
 ぴしゃりと言い放つレオンハルトは、変わらず飢えた獣のような瞳で美月を見つめているが、その中に少しの不安と、切望と、懇願と、期待をない交ぜにしたような複雑な表情が浮かぶ。
 それはまるで、泣き笑いのような、少し怒っているような。そんな表情だ。

 自分のことばかりで見えていなかったが、誰だって自分が好きな相手が手の届く所に居るなら、どう思っているか気にならない訳がない。
 レオンハルトだって、不安なのだ。

 美月が確かな言葉をくれないから。

「私は……」

(こんな顔をさせてしまうくらい、レオンは私を想ってくれているのに。時間ならあると、逃げ場を探して、私は彼にきちんと答えなかった)
 口を開いたら、口の中がからからに乾いていて、自分が緊張してるのが分かる。
 今までずっと伝えたくて……でも、自分に勇気が無くて、怖気付いて言えなかった言葉がある。

 でも、言わなきゃいけないのは……今だ。

 舌で唇を湿らせ、ごくりと唾を飲み込むと、美月はゆっくりと確かめるように、その言葉を紡いだ。

「好き……です。私は、レオンハルトが…………好き……で――ッんぅぅっ?!」
「嬉しいです――」

 気持ちを口にした途端に、美月の唇にレオンハルトの唇が押し付けられる。
 彼がその瞬間浮かべた幸せそうな、泣きそうな笑顔を美月は見る間も無く。

 弾力のある唇の感触をすっかり味わうように、隙間無く押し付けられて塞がれる。キスの狭間に彼の舌が美月の唇をこじ開けて忍び込む。追いかけられて、捕まえられて、まるで今の美月そのものみたいに絡め取られる。
「ちょっ……んッ……あ、んむっ?!」
 思わず目を瞑ってしまえば、口の中を蹂躙するレオンハルトの舌が、まるで生き物のようにゆるゆると官能的に蠢いているのを、より鋭敏になった語感が感じとってしまう。時に大胆に扱くように、時には辿るようにちろちろと動くその動きが、何とも言えずいやらしく、熱に浮かされたように身体も頭の中も熱くなり、次第に頭が逆上せ上がってぼんやりしてきた。
 溢れる唾液を飲み込み、啜られながら、情熱的に角度を変えて何度も口付けられて、目眩がする。頭の中がすごく……熱い。
 熱のせいで涙目になった瞼を何とか持ち上げ、僅かに目を開くと、レオンハルトの欲の熱が篭もった青い瞳と視線が絡んだ。

 目を合わせたまま唇を合わせていると、本当にどうにかなりそうだ。

「み、づき……」
 キスの合間にレオンハルトの掠れた切なげな声が自分の名を呼ぶだけで、身体の奥がじわりと熱を持つ。
 耳朶をそっと辿り、首筋へと落とされる唇の柔らかさと、肌を伝わってちろちろと這わされた舌の跡に冷やりとした冬の空気が触れて冷たい。時折吹きかかる熱い吐息に、擽ったさと同時にざわざわと落ち着かない痺れるような甘い感覚が湧き起こるのが分かる。
「れ、オン……か、身体は? だっ……ぃじょぶ?」

 スルリと大きな手にドレスの上から腰の括れた部分を撫でられ、妙に高い声が出てしまったが、美月に心配されたことに対して、レオンはニヤリと不敵に笑った。
「……試してみましょうか?」
「え」
 普段着の柔らかく動きやすいデザインのシンプルな切り替えドレスの裾がいつの間にか捲り上がり、美月の白い太腿が付け根近くまで剥き出しになっている。
「ち、ちょっ……あっ?」
 脹脛の下の方から膝裏に向かい、レオンハルトの指先が掠める。感じたことの無い、ぞわぞわとしたなんとも言えない刺激が背筋に走った。その感覚に慣れる間も無く、彼は丸い膝頭にそっと唇を落とし、そのまま足の付け根へと、ちゅっちゅっと微かなリップ音を鳴らして少しずつ這い上がっていく。
「ま、待っ……」
「美月……」

「ゃ……ッひ、ぁああっ?!」
(い、いつの間に?!)
 ぴん、と指先に力が入る美月の脚を押さえつけ、キスの合間にだろうか? いつの間にか下着を取り払われて誰も触れたことの無い場所を触れられる。
 薄い下生えのある入り口の粒をぐりぐりと親指で弄られ、長い指がそっとその場所を掻き分けてつぷりと忍び込むと、そこはまだ拓かれてはいないが、熱く蜜を湛えて泥濘ぬかるみ、ぬめっていた。
「濡れてるね……キス、しただけでこんなになったの?」
「違……っあ、や……っ! やだっ……ッあ、ん……ッ」
 あんなに欲をそそるような甘いキスをしておいて、レオンハルトは揶揄うようにそんなことを述べる。
 真っ赤になって否定しようとする美月に、何故か今度は少し嬉しそうな表情を滲ませるレオンハルト。
 彼に抗議の視線を送る美月の視線に気付かない訳も無いのに、それを無視したまま、くちゅっと小さな水音を立ててその場所へと埋め込まれる彼の長い指に、美月は身体を固くした。感じたことの無い恥ずかしさと異物感に身体に力が入り、泣きそうになる。
「美月、大丈夫……大丈夫だから……力、抜いてみて」
「ぅ、ううっ……レオンは、もう元気です。十分に分かりましたから……も……ッは、離して」
 美月の首筋にレオンハルトの唇が押し付けられると固くなった身体が一瞬緩んだ。耳殻を舐り、外耳をそっと食む。
 そして、艶を含んだ甘い声で往生際の悪い彼女に囁いた。
「……駄目。もう離してあげられません」
 ぴくぴく、と彼女の身体が跳ねるのを見て、気を良くしたらしいレオンはうなじにそっと息を吹き掛ける。美月の内部を確かめるように動く指がキュッと締め付けられて、中から新しい蜜が溢れ出していくのが分かる。
 それがまた恥ずかしくて、美月はレオンハルトにしがみついた。
「痛い?」
「……っふ……っ、ぃ、たくない……」
 異物感はあるが、痛くは無い。死ぬほど恥ずかしいだけだ。
「美月の中、あったかくてぬるぬるで、柔らかくて、キュッと指を締めつけてくる……」
「や、やだ! やだ! へ、んなこと言わない、で……」
 探るような指の動きに妙な感覚が混じるようになると、自分の中に埋め込まれたレオンハルトの指が水音を立てて動き回る。
「……ああ、美月……この中に早く入りたいです」
「ン、ッぁあっ!」
 そんな言い方、恥ずかしい。赤くなった顔が更に赤くなる。刺激が強過ぎて頭がくらくらした。
「美月……」
 再び唇を合わせると、酸欠からなのか……えも言われぬ感覚に襲われる。
 くちゅくちゅと小さな音を立て、突き立てられた長い指が増やされ、中を搔きまわすように動くと、お腹の中が更に熱く疼いた。奥の内壁を擦りあげて、指先を抜き差しされると知らず甲高い声が上がる箇所を探り当てられ、水音を立てて激しく攻められる。
「――ッ、あ、ゃ、あああんッ……んッ……」
 彼女の意思とは関係無く、その質量の喪失を恐れるように美月の中はヒクヒクと動いて彼の指に追い縋り、それからまた新たな蜜を吐き出して、しとどに濡れていく。

 そうして、美月の身体にざわりとした甘美な痺れが熱を伴って全身に広がって、
 膨れ上がって、真っ白になり――

 やがて、弾けた。

 ことん、と糸が切れたように美月の身体から力が抜ける。

 ひくりひくりと軽く身体を痙攣させながら、甘いその感覚の波に、自分がデロデロに溶ろけてしまったような感覚を味わいながら、ぼんやりと霞む目を向けてレオンハルトを見上げた。
「――ッ」
 愛しげに見つめるレオンハルトの瞳は欲望にけぶり、壮絶な色気を含んでいる。普段は理知的で冷静さを欠かない綺麗な顔に、ご馳走を前にした獣みたいに飢えた欲を湛え彼女を見ている。
 レオンハルトは今尚ヒクついている彼女の中からそっと指を引き抜くと、テラテラと纏わり付いたその蜜を見せつけるように舌で舐った。
「!!」
「……甘い」
(し、信じられない……そんなの舐めるなんて)
 徐々に落ち着きを取り戻し始めたまだ息の荒いままの美月が、再び羞恥に真っ赤に染まるのを見つめ、レオンハルトは満足そうに笑みを浮かべる。
 たくし上げられたままの乱れたドレスの背中に腕を回され、ボタンをゆっくりと勿体つけるように外され、脱がされるのを、ただバクバクと大きく鳴り響く心臓の音を聞きながら受け入れる。
 正直、色々された後で身体にまだ力が入らない。
「……ああ、美月……」
 感嘆の声をあげて、レオンハルトが美月の一糸纏わぬ素肌の肩口に触れた。ぴくり、と擽ったそうに身体を捩る美月に、レオンハルトはそっと手を這わせた。
 先程からのあれやこれやで、白い肌はピンク色に染まっている。滑らかな象牙を思わせる素肌は、やや汗ばんでしっとりと手に吸い付くような肌触りだった。
「あっ……レオン……ッ」
 肩から鎖骨、鎖骨から下のまろやかな白い乳房、肋骨の下から臍へと、そっとその形を確かめるように手を触れられる。唇をおとがいから鎖骨へと落としながら、舌を這わせると、柔らかな膨らみへと辿り着く。その重さを確かめるように両の乳房を脇から寄せて持ち上げ、膨らみの先端で微かに主張する赤い粒を舐り、空いている片方の先端は親指で引っ掻く。
「あっ……ぁあ、ん!!」
 美月の口から甲高い声が漏れた。舌先で突き、転がしながら吸い上げるとそれはみるみる固く屹立してツンと赤く熟れて浮き立ち、レオンハルトの目を楽しませた。
「ここ、気持ちいいですか?」
「あ、ッ……ん」
 薄い身体の割に豊かで柔らかな乳房を真ん中へ寄せ、親指でこりこりと乳首を押し潰すようにしながら、掌でやわやわと揉みこむと、美月が背中を反らせて胸を突き出してくる。白く重そうな下乳の部分を軽く食みながら、臍のくぼみへと舌で辿ると、先程の名残で敏感になった彼女の身体はピクンと跳ねた。

「……ッ、あ。……っれ、レ、オンッ……」

 臍のくぼみを舌先で舐り、そのまま下腹に辿り着くと、慌てて美月が脚を閉じようと藻搔いた。
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