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2異世界
聖魔法
しおりを挟む隣国ニグルの城の玉座の間に通された綾香とニセは、玉座の前に片膝をつく。
「ご挨拶に伺いました。隣国アジムの聖者、綾香と英司です。」
ニセに任せていては、戦争になりそうで怖い。
綾香は率先して、口上を述べる。
「うむ。よくぞ来られた。面をあげなされ。」
国王が、焦りを隠して、形ばかりの歓迎を示す。
「しかし、何かの事故で確かに記載した、『王太子がアジムに行く』という文面が抜けてしまった。王太子は、今頃、向こうの城で驚いているのではないだろうか?肝心の聖者王が二人ともこちらに来ているのに、どうして、すぐに帰って来ないのか。」
国王は、そう言って苦笑いをする。
「王太子様には、せっかくですから、我らのアジムを観ていただければと思います。アジムの者達は、客好きで隣国ニグルに好意を持っております。きっと、隣国の王太子の来国を歓迎して引き留めているのでしょう。」
適当な嘘を並べ立てて、綾香はそれらしい言い訳をする。
どうしよう。人嫌いで有名な民族だったら・・・。あの従者たちを見ていれば、フレンドリーな国柄なのだと思うのだけれど。
「そうであったな。アジムの民は、皆陽気で、穏やかだ。だから、アジムに魔王が出現したと聞いた時には、まさかと思ったものだ。あの時は、我がニグルにも魔物が出現して大変だった。」
国王が、ニセをみる。これは意地悪だ。
ニセが元魔王であることは、当然隣国の王が知らない訳がないのだろう。そして、よく聖者などと名乗れると、嫌みを言っているのだ。
「あの時の罪は、拭えはしない。だが・・・聖剣は、それでも俺を認めてくれた。共にあることを認めてくれている綾香姫には感謝しかない。」
ニセの口から出た言葉。
ちょっとこれ、そのまま姫に聞かせてあげたかった。
帰ったら、もう一度姫の前で言ってくれないかしら。
「そして、本日は、その贖罪も込めて、この魔法を土産に。」
そう言ったニセの体が白く輝きだす。
見たことのある魔法。ニセを復活させるために姫が使った魔法だ。でも、その時に綾香が見た魔法とは、規模が違う。辺りは一面、白い光に包まれる。
「夕月」
ニセが命じれば、人間の姿になった聖剣夕月が、それをさらに増幅させて、辺り一面にキラキラした光として雨のように降り注がせる。
「これは???」
国王が目を白黒させて、驚きの声をあげる。
こんなに大きな魔法は、見たことがないのだろう。
「こ、国王様!!城下の怪我人、病人が、皆、回復したとの知らせが!!」
家来の一人が、慌てて報告に入って来る。
「俺の力では、半径一キロ程度しか治せないが・・・それでは、足らんか?姫と相談して、国民の健康こそどんな宝石よりも素晴らしいだろうと決めた土産のだが・・・違ったか?」
にこやかにニセが笑う。
聖魔法と邪悪な魔法。その両方を使いこなすニセ。そのニセならではの土産といったところか。巨大な魔法を見せつけることで、牽制もしているのだろう。
たぶん、この国王は、宝石の方が好きなタイプ。でも、こんな風に家臣の前で言われて、違うとは言い難いはず。
「その通りだ。せ、聖者よ。素晴らしい土産。確かに受け取った。」
うわ・・・渋々感満載。
国王が立ち上がって、拍手をして、綾香とニセを歓迎した。
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