異世界から来た自分の分身が邪悪過ぎるのだけれどどうしたらいい?

ねこ沢ふたよ

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2異世界

アジムの晩餐会

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 晩餐会。
 姫と俺は、王太子ケイトを招いて食事を共にする。
 食事を作ってくれるのは、姫の従者の一人。料理長の男だ。国境の監視から、このために城に戻ってきてくれた。

 豪華な料理・・・とはいかない、素朴な料理。まだ復興中の国であるため、国王といえども贅沢はご法度。
 もし、国民を差し置いて、そのように贅を尽くせば、たちまち国民の信頼を失う。アジムは、そうやって信頼関係を築く国だったそうだ。元々は。

 姫の父だった前国王は、ニセの記憶を共有して垣間見たかぎりそのようなタイプの王様には見えなかったが。

「心温まる料理を有難うございます。」
ケイトは、いつも国で食べているよりもずいぶん質素な料理に、それでも感謝の意を建前上は述べる。
 まあ、嫌みなのかもしれないが。
「俺は、この真心の込められた料理を気に入っている。」
スープを飲みながら、俺は、そう返答する。
「料理に込められた親愛こそが、最高のスパイスですもの。」
姫もそう言って微笑む。
「しかし、アジムの国力もずいぶん落ちた物だ。前国王の時には、驚くほどの山海の珍味が並べられたものだったのですよ。」
やっぱり嫌みだったか。
 これは、俺に対する嫌み。前国王の時に繁栄していた国を潰したのは、お前だろう?と言いたいのだろう。まあ、壊したのはニセだから、俺に言われても何とも思わないのだが。
「まあ、そうですか?私は父王の時代には、ほとんどを修道院で過ごしておりましたから。堅いパンと水、少しの野菜と果物が、食事でしたから、そのような無駄な贅沢は好みません。」
流石に嫌みに気づいた姫が、チクリと言い返す。
「それとも、ニグルでは、国民に寄り添い、国民に尽くすという、初代たちの信念をお忘れになってしまわれたのですか?」
ホホホと笑いながら、姫がのたまう。
 あの女に弱いポンコツ勇者は、そんなカッコイイ信念を公言していたのか。

「フフ。姫様のおっしゃる通りです。私が間違っておりました。」
キランッと効果音のなりそうな、ケイトの笑顔。
「さすがケイト様。すぐにお分かり下さる。」
駄目だ。姫がポンコツモードに突入しそうだ。
 俺は、テーブルの下で姫に軽くケリを入れる。
「姫、いけませんよ。落ち着いて。」
「そ、そうね。落ち着かないと。」

「そうだ。良かったら、我々が持ってきたこの果実を、食べてみませんか?」
ケイトが合図すると、従者が果物を持ってくる。

 見たこともない蛍光ピンク色の果物。

 姫を見れば、姫も見たことがないようで、目を丸くして果物を見ている。
「どうぞ、召し上がってみて下さい。」
にこやかにケイトがすすめてくる。
いや、どう見ても体に悪そうな成分入っているでしょ。これ。

 戸惑っていると、ケイトの従者がフルーツを切り分ける。切るたびに、切り口からプシュウって、黒煙が上がっていますが?
 姫と俺の前に、切り分けたフルーツが差し出される。

 まじ?

「あ~、ええと。ケイト様も、ぜひお食べ下さい。」
「いえ、私は食べ慣れていますから。」
にこやかなケイト。
 露骨な毒殺?いや、催淫剤的な何かで我々を骨抜き?痺れ薬的な動けなくする系?ケイトに従いたくなる感じ?

「モヘット・フルーツですね。」
姫の従者の一人の料理人が、にこやかに教えてくれる。
「もへ?」
「ご存知ないですか?食べると、モヘッとするのです。モヘッとするだけですので、体に害はありませんが、今、この場でモヘッとなさりたいかどうかですね。」
モヘ?・・・体に害は無いんだ?
「そうなのね。まあ、たまには良いかもしれないけれども、今は要らないわ。」
姫がのたまう。ということは、『モヘ』は、この世界の常識的な言葉?
「そうですか。何か悩みがあったりして、モヘッとしたい時ってありますでしょ?とっても便利なんです。姫のモヘッとした姿・・・ちょっと見てみたかったな。」
とケイト。
「まあ、お戯れを。」
姫が少し照れる。
 モヘ・・・。どういう意味だ?
「英司様は、モヘッとしたい時なんかありますか?」
「あ、ああ。まあ、そうだな。だが、忙しいから中々・・・。」
モヘ、もへ、モヘ。分からない。なんだ?
 でも、今、姫に聞けば、偽物聖者だとバレてしまうかもしれない。

「では、これは、モヘット成分を抜いて、焼き菓子にでもいたしますね。」
料理人は、毒々しいモヘット・フルーツを持って行ってくれた。
 助かった。

 晩餐会は無事終了し、料理人は、小さな香水の瓶に、蛍光ピンクの液体を入れて持って来てくれた。
「モヘット成分を、濃厚にしたエキスです。まさかの時にお使いください。」
それだけ言って、慌ただしく料理人は、国境地帯に戻っていった。

 待ってくれ。モヘの説明を!!
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