24 / 32
2異世界
アジムの晩餐会
しおりを挟む晩餐会。
姫と俺は、王太子ケイトを招いて食事を共にする。
食事を作ってくれるのは、姫の従者の一人。料理長の男だ。国境の監視から、このために城に戻ってきてくれた。
豪華な料理・・・とはいかない、素朴な料理。まだ復興中の国であるため、国王といえども贅沢はご法度。
もし、国民を差し置いて、そのように贅を尽くせば、たちまち国民の信頼を失う。アジムは、そうやって信頼関係を築く国だったそうだ。元々は。
姫の父だった前国王は、ニセの記憶を共有して垣間見たかぎりそのようなタイプの王様には見えなかったが。
「心温まる料理を有難うございます。」
ケイトは、いつも国で食べているよりもずいぶん質素な料理に、それでも感謝の意を建前上は述べる。
まあ、嫌みなのかもしれないが。
「俺は、この真心の込められた料理を気に入っている。」
スープを飲みながら、俺は、そう返答する。
「料理に込められた親愛こそが、最高のスパイスですもの。」
姫もそう言って微笑む。
「しかし、アジムの国力もずいぶん落ちた物だ。前国王の時には、驚くほどの山海の珍味が並べられたものだったのですよ。」
やっぱり嫌みだったか。
これは、俺に対する嫌み。前国王の時に繁栄していた国を潰したのは、お前だろう?と言いたいのだろう。まあ、壊したのはニセだから、俺に言われても何とも思わないのだが。
「まあ、そうですか?私は父王の時代には、ほとんどを修道院で過ごしておりましたから。堅いパンと水、少しの野菜と果物が、食事でしたから、そのような無駄な贅沢は好みません。」
流石に嫌みに気づいた姫が、チクリと言い返す。
「それとも、ニグルでは、国民に寄り添い、国民に尽くすという、初代たちの信念をお忘れになってしまわれたのですか?」
ホホホと笑いながら、姫がのたまう。
あの女に弱いポンコツ勇者は、そんなカッコイイ信念を公言していたのか。
「フフ。姫様のおっしゃる通りです。私が間違っておりました。」
キランッと効果音のなりそうな、ケイトの笑顔。
「さすがケイト様。すぐにお分かり下さる。」
駄目だ。姫がポンコツモードに突入しそうだ。
俺は、テーブルの下で姫に軽くケリを入れる。
「姫、いけませんよ。落ち着いて。」
「そ、そうね。落ち着かないと。」
「そうだ。良かったら、我々が持ってきたこの果実を、食べてみませんか?」
ケイトが合図すると、従者が果物を持ってくる。
見たこともない蛍光ピンク色の果物。
姫を見れば、姫も見たことがないようで、目を丸くして果物を見ている。
「どうぞ、召し上がってみて下さい。」
にこやかにケイトがすすめてくる。
いや、どう見ても体に悪そうな成分入っているでしょ。これ。
戸惑っていると、ケイトの従者がフルーツを切り分ける。切るたびに、切り口からプシュウって、黒煙が上がっていますが?
姫と俺の前に、切り分けたフルーツが差し出される。
まじ?
「あ~、ええと。ケイト様も、ぜひお食べ下さい。」
「いえ、私は食べ慣れていますから。」
にこやかなケイト。
露骨な毒殺?いや、催淫剤的な何かで我々を骨抜き?痺れ薬的な動けなくする系?ケイトに従いたくなる感じ?
「モヘット・フルーツですね。」
姫の従者の一人の料理人が、にこやかに教えてくれる。
「もへ?」
「ご存知ないですか?食べると、モヘッとするのです。モヘッとするだけですので、体に害はありませんが、今、この場でモヘッとなさりたいかどうかですね。」
モヘ?・・・体に害は無いんだ?
「そうなのね。まあ、たまには良いかもしれないけれども、今は要らないわ。」
姫がのたまう。ということは、『モヘ』は、この世界の常識的な言葉?
「そうですか。何か悩みがあったりして、モヘッとしたい時ってありますでしょ?とっても便利なんです。姫のモヘッとした姿・・・ちょっと見てみたかったな。」
とケイト。
「まあ、お戯れを。」
姫が少し照れる。
モヘ・・・。どういう意味だ?
「英司様は、モヘッとしたい時なんかありますか?」
「あ、ああ。まあ、そうだな。だが、忙しいから中々・・・。」
モヘ、もへ、モヘ。分からない。なんだ?
でも、今、姫に聞けば、偽物聖者だとバレてしまうかもしれない。
「では、これは、モヘット成分を抜いて、焼き菓子にでもいたしますね。」
料理人は、毒々しいモヘット・フルーツを持って行ってくれた。
助かった。
晩餐会は無事終了し、料理人は、小さな香水の瓶に、蛍光ピンクの液体を入れて持って来てくれた。
「モヘット成分を、濃厚にしたエキスです。まさかの時にお使いください。」
それだけ言って、慌ただしく料理人は、国境地帯に戻っていった。
待ってくれ。モヘの説明を!!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
だが、その世界はダークファンタジーばりばり。
人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。
こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。
ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。
死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。
地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった!
「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」
主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる