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2異世界
本当の言葉
しおりを挟む「英司!!待たせたな!!」
ニセの声に天を仰げば、グリフォンに乗ったニセと綾香先輩の姿が見える。
おお、カッコイイ!!
「おのれ、偽物だったな!」
ようやくそれに気づいたのは、ケイト。
モヘット・エキスの効果が切れたのだろう。
俺に再び攻撃を仕掛けてくる。
だが、当たる訳がない。ニセが帰って来たのだ。
当然のように俺の周りには重厚な結界が張られ、ケイトの攻撃ははじき返される。
「雑魚め。無駄なことは止めるんだな。」
ニセがのたまう。
相変わらずの魔王発言。本当、これでよく聖者が務まる。
ケイトは、姫の捕縛魔法で、あっという間に捕まってしまった。
その後、ニグル国境を越えたところで、ケイトとその一行は、放たれる。
ケイト達は、そのまま自国へ帰っていった。
「ほな、わての出番でんな。」
にこやかなニグルの盾、暁が、ぴょんと飛び上がる。
ニセと綾香が聖なる歌を歌えば、暁がそれを改変させる。
それを見て、夕月が、その力を周囲に増幅させて広げる。
キラキラとした光が周囲に広がり、アジムの国土を覆う。
「わてと夕ちゃんが、聖者はんの手の内にある限り、魔物の攻撃も、物理攻撃も魔法攻撃もアジムに侵入出来まへん。」
おっと、じゃあ毎日歌わなくても良くなったんだ。しかも、魔物の攻撃だけじゃないんだ。それじゃあ、ニグルはもう、この国に攻撃を仕掛けることは出来なくなっただろう。
すげえな。盾の力。
次の日、俺達は、元の世界に帰ることになった。
もう、二度と来たくないような、もうちょっと遊んでから帰りたかったような。
だが、用もないのに分身体の俺たちがここに居て、命を狙われれば危険だ。
「じゃあ、な。助かった。」
ニセが、手を差し出してくる。握手を求めるなんて珍しい。
だが、油断したな。元魔王よ。
俺は、姫に約束したんだ。共同戦線を張ると。
俺は、ニセにモヘット・エキスを吹きかける。
「は?なんだこれは・・・。」
解毒も治癒魔法も、モヘット・エキスには効かない。何故なら、これは毒ではないからだ。どちらかと言えば、心の内にため込んでいたことを話してスッキリすることから、治療に薬として使われるくらいだ。
あの天才料理人に教えてもらったのだ。
さあ、もういっそ心の内を吐露してすっきりしやがれ。
「お、俺は・・・その・・・。」
効きが悪いか?さすがはニセだ。
さあ、夕月が好きでもなんでも、いっそ口に出してハッキリしてやれ。
姫と綾香先輩も、固唾を飲んで見守っている。
「ひ、姫が・・・その・・・可愛くて・・・妹みたいで・・・。だから・・・幸せになってもらいたくて・・・将来は・・・クソッなんでこんなことを・・・。」
ニセがかなり動揺している。
痛い痛い痛い・・・。
ニセが抵抗して、喉に指を突き立てる。いや、それ俺も痛いんだってば。
「主よ・・・。」
夕月が人間に変じて、ニセの手を押さえる。
まさかの夕月の行動に、ニセが目を丸くする。
夕月は以前に魔剣だった頃に言っていた。ニセが本当に心の根で思っていることをするのが、剣精の役割なのだと。
じゃあ、ニセだって本当は、自分の心を口にしたかったということだろうか?
「お、俺は・・・将来は・・・。」
言え。言ってしまえ。
姫が、駆け寄って、ニセの口を手でふさぐ。
え?聞きたくないの?
「大好き。いいよ。もう無理に言わなくて。」
ニセに姫がニコリと笑いかける。
涙目になっているのは、どう判断したからなのだろうか?
ニセが、姫をぎゅっと抱きしめる。
「好きだ・・・。でも、俺じゃ幸せにできないとずっと思っていた。」
たぶん、モヘット・エキスではない。本当のニセの言葉。
夕月は、にこやかにそれを見守っている。
・・・ひょっとして、ずっと姫を煽っていたのも、これを待っていた?
いや、夕月さん、その方法はちょっとどうよ?
どうやら、異世界のニセと綾香姫の関係は、無事進展しそうだ。
俺と綾香先輩は、それを見守って、自分達の世界に帰っていった。
待って、俺と綾香先輩は、まるっきり進展なしなんだけれども。姫、共同戦線ってのは、俺の方にも協力してくれないと駄目なんだよ??
俺の心の叫びは、誰にも届かなかった。
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