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時代
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小学校、中学校、高校時代。
僕は上手に生きて来たと思う。少しだけ人並み以上の成績。学業も、運動も、並以上。
それと言って目立つ事も無く、周りから貶される事も無かった。
一言で言えば目立たない奴。
クラスの中心に居た奴等からしたら、居たねそう言えばそんな奴、それくらいの存在。
だけど、それくらいの存在が僕には丁度良いと思っていた。
そんな想いは、大人になっても色褪せる事なく、今の僕を形成しているーー
「僕にそんな力が………」
「あります」
はっきりと言い切るイザベルは、まるで物語の主人公でも見るように僕を見つめる。
こんな視線を受けたのは、自分の結婚式で新郎を務めた時以来だ。
「おじ様には魔王になってもらわないと私が困るのです」
「困る?どうして?」
「私はおじ様を魔王にする為に造られた魔人です。
それ以外に私の存在理由などありません。
この容姿もおじ様の気を引く為にクロノス様が用意してくれたモノ。
ですから おじ様には魔王になって貰わないと私は困ってしまうのです」
困ってしまうのですって……
それ以外にも引っかかる発言が幾つかあったが、彼女は彼女なりに精一杯で、悪意があるとは思えない。
揚げ足を取ろうと思えば簡単だが、
その行為によって、彼女を傷付ける事はあまりにも幼稚で、いい歳こいたおっさんが、
子供相手にする事では無い。
それくらい誰にでもわかる事だ。
「イザベル……1つ聞くが、
そもそも魔王とは一体なんなんだ?」
「僕の知ってる魔王と言えば、
頭から角を生やし、悪の根源で、人々を恐怖のドン底に陥れる そんな存在なんだけど」
「大方正解でございますわ おじ様」
それなら……
「それなら、イザベル。
すまないね。先に言っておくよ。
…………この僕がそんな大それた者になれるとはとても思えないし、たとえ なれたとしても なりたいとは思わない。
僕はこの森で、静かに君と暮らしていきたいんだ」
ポロ
ポロ
ポロッポロッと涙が溢れた。
イザベルの瞳から大粒の涙がこぼれ出し頬を流れて一筋の道を作る。
えっあっ……
「酷いです。おじ様……」
どうやら僕は彼女にとって1番言ってはならない事を言ってしまったみたいだ。
ーーーーーーーー
ーーー
ーーあれから3日。
イザベルは僕と必要以上に言葉を交わそうとはしなかった。
「おじ様、食事の準備が整いました」
「おじ様、昼食用のお弁当です」
「おじ様、食事の準備が整いました」
彼女が僕に対して口にする言葉は、業務的な冷たい言葉でそれ以上でもそれ以下でも無い。
この3日 生きた心地がしなかったが、僕がどんな生活を送っていたかというと、もっぱらケミーロ大森林という森の探索だ。
ーーケミーロ大森林ーー
何百年と生き抜いた巨木達がボコボコとした根を張り巡らせ、鬱蒼と薄暗い森の中は一度迷ったら最後。ミモザの池には戻れないだろうと思わせる。
何でもこの森は、人間達の侵入を拒み続ける魔の森と呼ばれているらしくて、人を攫って食べると言われる魔物達の巣窟らしい。
そんな危険な森の中を、何故僕が自由に闊歩しているかというと、それは僕が魔法というものを覚えたからだろう。
いや、覚えたという表現は少しばかり違うのかもしれない。
要は簡単に出来てしまったのだ。
魔法というものは途轍もなく簡単だった。
例えば、指を動かす事を誰かに教えてもらうだろうか?
息をする事は?
足を交互に出す事で歩ける事は?
魔法を使うとはそれくらいの感覚。
そこに呪文なんてものは一切無くて、
想像すればそれなりの事が出来た。
あとは配合だけ、
例えば、イザベルが最初に見せてくれた花火は、火と風と光の魔法だし、
今僕が迷わずにこの森を歩けているのは、地形を把握する土魔法だ。
こんな便利なものがあれば、化学なんて面倒くさいものが発展するわけが無いな。
大樹の根っこに腰を下ろし、カーナビの設定に苦労した事を思い出して苦笑した。
ーーほんと、使えないわね。
アナタも、この機械も。
ただ、人間の感情というものはいくらどんな魔法でも何ともならないのだ。
何でもありのクロノスなら、記憶の改竄も、感情のコントロールも難なくと出来るのだろうが、僕にはまだそれだけの事は出来やしない。
夕刻になり空も暗くなり始め、そろそろ帰るかと踵を返すが、
ミモザ池の畔に創り出した彼女が待つ僕等の家に帰るのは、何とも気が引けて
足取りも重くなる。
もうすぐだ。イザベルの待つ家に帰る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ハァ……ハァ……ハァ……」
息が上がっていますね。
まさか私が、魔人であるこの私が……ここまで追い詰められるなんて思ってもいませんでした。
「魔人よ、キサマでは無い。
我が感じた脅威はキサマでは無い。
何処にいる?
我等の安息の地に現れた脅威は
何処にいる?」
「さぁて、何の事でしょうか?」
「とぼける気か、たかが魔人、作り物の人形の分際で、我を誰だと思っている」
そんな事はわかっていますーー
この森の主、タイラントドラゴンさん。
それでも私は意地を見せないといけないのです。
「ただの大きなトカゲでしょうかしら?」
「舐めた口を叩くものだ。
まぁ、よい。
炭クズとして消えて無くなれ」
タイラントドラゴンの口が大きく開く。
ーーーーーーー
なんとなく考えた話。
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