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3 崩壊
終わらない悪夢
しおりを挟む3 崩壊
気が付くと私はまた同じ街に立っていた。
痛みは無い、体はすっかり治っている。
さっきまで死にかかっていたのが嘘のようだ。
私はほっとしたが、すぐにこの意味に気付いた。
これからまたあいつにオモチャにされるのだ。
奇妙なこの世界から私は逃げられないのだ。
頭を抱えて、
「いい加減にしろ・・」
と呟いてガックリと地面にうずくまった。私は放心状態だった。
「あいつはまた俺に何かやらせるつもりなんだ。俺をどこまでバカにする気だ。
さんざんに、いたぶられる俺はなんて惨めなんだ」
そう思うと立ち上がる力も出ない。
それからどれだけ時間が経ったろうか、私は思い直した。
「こうしていても仕方ない。動いてみるか」
勇気を振り絞って、
「おい、お前!近くにいるんだろ。よく聞け!俺はお前に協力しない。
こんなバカなことに付き合っていられるか!
もういい加減にしろ、今すぐ解放しろ!」
と呼びかけてみた。
しかし、なんの応えもない、何も聞こえない。
そうだ!そういえばさっきから物音がまるでしないのだ。
風のざわめき、鳥の声、本来するはずの自然な音や街の音が一切聞こえない。
ここは無音の世界だ。
周囲を見回しても誰もいない。
ガランとした無人の街に整然と建物が並んでいるだけの見るからに虚構の世界だ。
「おーい、返事をしろ、また俺に何かする気なんだろ、なんとか言えっ」
だが物音一つしない。無音の街には何も起こらない。
私の声ばかりが街に響き渡る。
「また新しい恐怖を俺に与えて苦しめるつもりだな。
なんて意地が悪いんだ。
どうして俺はこんな目にばかり遭わなきゃならないんだ。ほんとにウンザリだ」
周囲はひたすら森閑として不気味だ。
どこからか急にまた巨人や怪物が現れて襲われるかもしれない。
ジワリと恐怖が込み上がって来る。
「この場所から離れなければ。どこか安全な場所を探そう」
私は辺りを調べることにした。
でも果たして動き回ってもいいのだろうか?
この街には私を痛めつける罠が仕掛けてあるかもしれない。
いや必ず罠があるだろう、でも、とにかく今は落ち着ける場所が欲しいのだ。
罠に掛かればまた酷い目に遭うだろう。
だが、どうせそれから逃げることは出来ないのだ。
それならばこちらから罠に掛かってこの苦しみを少しでも早く終わらせてやろう。
恐怖から逃れたいだけの気持ちだった。考えが支離滅裂、自暴自棄の心境になってくる。
真っ直ぐな通りを歩いて行くと正面には大きな駅の建物があった。
その駅の前に立ってもなんの物音もしない。誰もおらず駅なのに列車の発着もなさそうだ。それに駅の建物は入り口が閉まっていて中に入れない。
駅の前を右に曲がり、しばらく行くと前方には空が大きく開けているのが見えた。その前方には高い建物が無いのだろう。
前方の開けた青い空には小さな雲が一つだけ浮かんでいる。
それを見上げた私は少しだけ気分が軽くなった。
空が開けているのはそこから先が下り坂になっているからだろう。
多分、そこまで行けばこの街の向こう側が広く見渡せるはずだ。ここがどんな所なのか分かるだろう。
私は青空を見上げながら歩いていった。
この青空は少し緑がかっているように見える。
浮かんでいる小さな雲は油絵に描いたように動かずに私を見下ろしている。
空が開けた所まで行くと私の予想は外れた。
なんと前方は地面がスッパリと断ち切れて切れていたのだ。
そこから先は何も無い、建物も地面もまるで無いのだ。
向こうはどこまでも続く青い空だけだ。
地面が切れた所から下を見ると垂直な崖になっている。
崖の下は遥かに霞んでいて終わりが見えない。
その高さに私はゾッとした。ここから見えているだけでも1000mはありそうだ。
「やはりこの街は現実の世界じゃないんだ。現実にこんな所があるわけがない。ひょっとしてこの崖は永遠に続いているのか、あるいはこの街は空中に浮かんでいるのか?」
そんな思いが頭をかすめた。
「これは虚構の世界なんだ。夢だ、悪夢なんだ。悪夢ならば早く醒めてくれ」
私が独りごとを言うと、いきなり崖が崩れ始めた。
その瞬間に音が戻ってきた。
崖の崩れ落ちる凄まじい音が響き渡る。
轟音を響かせ地面が崩れ、その上の建物が次々に崩落していく。
これは危ない、早く逃げなければ私が立つ場所も崩れるだろう。
いよいよ恐ろしい罠が始まったのだ。
「だが、逃げても仕方ないか?
逃げたところでいずれ俺は殺されるだろう、それならいっそここで死んだ方が楽なのではないか?」
と思ったが、落下して自分の体が叩きつけられ飛び散る映像が目に浮かんだ。
それはあまりに凄惨だ。
「やっぱり嫌だ!」
私は逃げ出した。
来た道を駅に向かって走る。振り返ると後ろでは次々に建物が崩れ去っていく。
地響きと物凄い轟音がして埃が舞い上がっている。
巻き込まれたら一瞬でお終いだ。
必死で駅まで逃げたが疲れ果てて、これ以上は走れなくなった。
見ればさっきは閉まっていた駅の扉が開いている。
急いで中に入り様子を伺うと崩壊はどんどん迫って来る。
いよいよこの建物も崩れ落ちるのかと思ったが、なぜか崩壊は駅を避けていった。
駅以外の建物は地面ごと崩れ消え去り、やがて周囲はすっかり消えて無くなり駅の建物だけがポツンと残った。
周囲には何もなくなってしまった。
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