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5 虹
終わらない悪夢
しおりを挟む5 虹
キーキーと耳障りな音が響いている。
閉まっていた巨大なシャッターが上がり、金属音を立てているのだ。
シャッターが上がると改札口と向こうには列車のホームが見える。
少ししてそのホームには銀色をしたシャープな列車が入って来た。
「また始まるんだ、嫌なことが・・・。」
列車が停止すると車掌が一人降りてきた。
改札口を通り抜けてこちらに真っ直ぐやって来る。
よく見ればあの男だ。
男は私の目の前まで来て、
「来い」
と言うなりクルッと向きを変えて列車の方に歩いて行く。
私は黙って男の後に従い改札口を超え列車に乗った。
列車には男と私以外誰も乗っていない。
男が、
「ここに座れ」
と言う。
私が座席に座ると男はどこかへ行ってしまった。
しばらくして列車が動き出した。
窓をこじ開け外を見ると雲一つない青空が広がっている、果てしない青空だ。
下を見ると線路が無い、地面もない、下も青空だ。
後ろを見れば出発したはずの駅も無い。
青い虚空の中をこの列車は飛んでいるのだ。
またもや、あり得ない空間に私はいる。
度重なる異常な状態に私の心には不安と不快がベットリ張り付き、狂気へと変わりつつある。
あまりの異常さに大声で叫び出したい恐怖と不安が心に渦巻いている。
この列車もまた落下するのかもしれない、私はまたもや落下の恐怖を味あわされるのか?
それが分かっていながら私は列車の座席に一人座り窓の外を見る以外に何も出来ないのだ。体はじっとしていても心には不可解、不愉快が渦を巻いて恐ろしさに狂わんばかりだ。
やがて空の色が微妙に変わり始めた、空の青に緑味が加わると次第に緑が増していく。やがて空間はすっかり緑色になった。緑色の空なんて見たことがないが、これも呆然と見ているだけだ。
ふと見ると自分の手の平まで緑がかったおかしな色をしている。
次に空の色はゆっくりと黄緑へ、そして黄色へ、さらに黄色からオレンジへと変わっていった。私はただ呆然とそれを眺めることしかできない。
オレンジの空は秋の夕暮れを思わせた、烏が数羽飛んでいれば詩情もあるだろうが目の前に広がるのはただオレンジ色の虚空ばかりだ。
次はオレンジの赤味が強くなりやがて外の空間は真っ赤になった。
私はその変化をなんの感慨もなく眺めた。
色はさらに変化し、赤から紫、やがて紫から青に変化し、はじめの青空に戻った。
「こんなのを見せられても、もう驚く気にもならない。
勝手にしやがれ。でも、もう体が痛いのだけはやめてくれよな」
私は呟いた。
いきなり、
「お前は虹を渡って進んだのだ。もうこれで元へは帰れない。
試練を重ねるしかないのだ。」
と車内アナウンスで男が言った。
「ふん、勝手にしろ、どうせ俺は何も抵抗できないんだ。
お前の好きにすればいい」
私は吐き捨てた。
「死の恐怖を経験して少しは成長できたようだな。自分でもそう思わないか?」
男がアナウンスで言う。
「知ったことか、お前がそう思いたければそう思え。
それとアナウンスで喋るのはやめろ、話すのならちゃんと俺の前に出てこい」
だが、それきりだった。
それからは男のアナウンスはなく、姿を見せることもなかった。
それから随分と長らく列車に乗っているように感じた。
私は時計を持っておらず時間の確認をしようがない。
たぶん乗車してから丸1日は経っただろう。
外は相変わらず青空のままだ、列車はひたすら走り続けている。
私は何もすることがない。空腹も感じず、排泄欲求も起きない。
恐怖と緊張で眠れないが、疲れ切った心身を休めなければ、と目を閉じた。
「こんなのは悪夢に過ぎない、眠れば自分は目が覚めて、本来の世界に帰れるのだ。
そう念じれば、それは実現する、だから眠ろう」
私は自分にそう暗示をかけて眠りに入ることにした。
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