終わらない悪夢

ひでとし

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6 安らぎ

終わらない悪夢

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 6 安らぎ


 目を開けると私は居間のソファーに横たわっていた。
中庭には妻が丹精込めて育てた芙蓉の花が今を盛りと咲いている。
白とピンクの花は柔らかな日の光を浴び輝いている。
それを見て私は安心した。

ようやく恐ろしい悪夢から目覚めて現実に戻ったのだ。
私の自己暗示は見事に成功したのだ。

たしか今日は休日だったはずだ。

「あなた起きたの?」

妻が聞いてきた。

「うん、知らないうちに寝てしまったらしい、妙に生々しい夢を見たんだ。
なんとも不愉快な夢だった、目が覚めてほっとしたよ」

「そうなの、それは大変だったわね。そういえばさっきうなされていたわよ。
目覚ましにお茶でも飲む?」

「ああ、頼むよ、ちょうど喉が渇いていたんだ」

妻はキッチンに立ってお茶を淹れている。

「ああ、やっぱりあれは夢だったんだ。
あんなくだらない夢の中であくせくしたのがバカバカしい。
でもなんであんな変な夢を見たんだろう。
書庫で見つけた子供のころに好きだったSF小説が懐かしくて思わず読み耽ったせいかもしれないな」

そんなことを思っていると、妻がお茶の入ったカップを差し出した。

「はい、あなたの好きなプーアールティー」

「ありがとう、でも俺ってプーアールティーが好きだったっけ?」

「前に美味しいと言わなかったかしら?」

妻が怪訝そうな顔をする。

妻からもらったお茶を一口飲んでみた。
やはり私にはあまり美味しいとは思えない。
きっと以前に妻の機嫌取りにでも、私は適当なことを言ったのだろう。

だが、そんなことはどうでもいい。
好みではなくとも暖かいお茶はなんとも心が落ち着く。
悪夢から覚めて、ようやくまともな気持ちに戻れたのだ。
この安らぎをもう失いたくはない。

「プーアールティーもたまにはいいな。あんな怖い夢の後に飲むとホッとするよ」

そう言って妻の顔を見上げた私は凍り付いた。

妻が、あの男になっている。

あの男が妻の服を着てそこに座っているのだ。
なんとも珍妙な女装姿だが、男は無表情で椅子に座り人形のように動かない。

私は声も出なかった。

「これも現実ではないのか、さっきの続きなのか。
ようやく日常に戻れたと思ったのに、なんでこうなるんだ、なんで・・・・・・・。」

私は泣いた。
騙されたのがあまりに悔しくて・・。

ここまで気持ちを侮辱される自分が惨めでならなかった。



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