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方向音痴に道案内は無意味……とは思いたくない その2
しおりを挟むさすが夢、と誉めるべきかな。店内の服はバッチリ現代物でわたし好みのものだった。姫系ではなく、なんていうかナチュラル系でフェミニンな服。コットンやリネン素材の生成とか茶系がメインでちょっぴりフリルやレースなんかも付いている。
「好きな物を選んで下さいね」
にこにこ笑いながら透見は言ってくれるけど。
「好きなのありすぎて迷うよぉ」
つい、本音が口から出た。いやホント、この店の商品まるごと大人買いしたいくらい、わたし好みなんだもん。
とはいえ、現実では服を大人買いするようなお金は無いから結局は安いものを悩んで選ばなくちゃならないし、例えこれが夢の中だとしてもやっぱ無料でお店の物を貰うとなると、気が引けて安い物を選んじゃうよね……。
「いらっしゃいませ。当店の品物を気に入ってもらえて嬉しいわ」
店員さん……というか、店長さんらしき女の人が出て来てにこりと笑う。
「よお、沙和姉ぇ。久しぶり」
「お久しぶりです、沙和さん」
剛毅がさっと手を挙げ、透見は軽くお辞儀をした。
知り合いなんだ……。まあ、考えてみればそうだよね。知りもしない人がいきなり『〈救いの姫〉が着るから服をタダで貰っていく』なんて言ったら即追い出されちゃうよね。
「二人ともお久しぶり。こちらの女性、紹介してもらってもいい?」
まるで絵本から飛び出してきたような、かわいい店長さんの笑顔。いいなぁ。服、似合ってるなぁ。
そんな風にぼーっと見ている側で、剛毅がにこにことわたしの事を紹介しようとした時だった。
「あー、やっぱ剛毅だ。こんなところで何してんの?」
お店のドアが開き、若い女の子たちがワイワイと入ってきた。
「剛毅こんな店に用事なんてないっしょ」
「あ、透見も一緒なん?」
「あー、もしかして彼女が出来て二人でプレゼント選んでるとか?」
「ていうか、そっちのおばさん、誰?」
ピーチクパーチクとまくし立てる女の子たち。なんかちょっとショックな言葉も聞こえてきた気がするぞ。でもまあ事実おばさんだし。……でもやっぱ他人からズバリ言われるとちょっと傷つくかも……。
それでも着てるドレスについてスルーしてくれたのは、彼女達なりに気を使ってくれていたのかもしれない。
「失礼な口を利かないように。彼女は〈救いの姫君〉なのですよ」
突然、今までずっとにこやかだった透見が初めて冷たい表情になって彼女たちを見た。
どうしたんだろ。自分達がわたしの年齢の事を話した時は、にこやかだったのに。もしかしてあれかな。自分達が言う分には問題ないけど他人に言われると腹立つってやつ。
もしそうなら、ちょっと嬉しいかも。だって身内というか仲間内に入れてもらえてるって事だよね?
透見がこんな態度をとるなんて珍しいんだろう、彼女たちもびっくりして言葉が止まってる。そんな彼女たちを和ませようとするように剛毅が笑顔でわたしの肩に手を置いて言った。
「そうそう、これが我らが姫さんだ。今後よろしく頼むぜ☆」
☆マークの所で剛毅はパチンと女の子たちにウィンク。ご、剛毅ってこんな軽いキャラだったっけ?
「う…うん」
とまどうように頷く彼女たちに、言い過ぎたと思ったのか透見は表情をゆるめ、それを見た彼女たちもほっと胸をなで下ろしてるようだった。
「そっかぁ、〈救いの姫様〉なんだぁ」
「どーりでこの島では見たことない顔だと思った」
笑顔に戻った彼女たちが口々に言う。だけどその中でただ一人だけ、黙ってわたしを睨むように見ている女の子がいた。
なんだろう。わたし何かあの子の気の触る事したっけ?
そんなこと考えてると沙和さんの明るい声がこちらへと近づいてきた。
「まあ、やはりそうだったのね。棗の選んだドレスを着ているからもしかしてとは思っていたの」
睨んでる彼女の事が気になったけれど、にこやかに話しかけられて意識が沙和さんへと向いた。
「あ、棗はわたしの妹なのよ。そして剛毅達とは幼馴じみなの」
そっか。大人びた表情で笑ってるけど、棗ちゃんのお姉さんってことは沙和さんもまだ若いんだろうなぁ。……二十代前半くらい?
こんな風に年齢が気になるって事は、やっぱりわたしがおばさんだからよね。はあ、ため息が出る……。
「棗たち程には貴女の力になれないけれど、〈救いの姫様〉ですもの。服くらいなら幾らでも提供しますからお好きな物を選んで下さいね」
言われて気が引けた。『これは夢だから大丈夫、ちゃんと救いの姫、出来るよ』という確信と、『けどこれが現実だったら絶対にわたしに救いの姫なんて出来るわけないじゃん。それなのにこれが夢だからって、こんな風に服なんて貰ったりして大丈夫? 万が一失敗でもしたらただの詐欺じゃん?』って思いがよぎる。
「どうされたのですか?」
沙和さんの言葉に黙ってしまったのを見て、透見が心配そうにわたしの顔を覗き込んできた。
「えらく暗い顔になってるぞ」
剛毅も眉をしかめ、わたしを見る。
「え、ああ。ごめん。なんでもない」
慌ててごまかしてみるけど、それに気づいた女の子の一人が、剛毅にペッタリとくっついて彼に告げた。
「姫様、不安なんじゃないのー? 本当にこの地を自分が救えるのかって」
あまりの図星に言葉が出ない。……にしても、なんかちょっと言葉にトゲがあったような……。ていうかこの子、さっき睨んでた子?
「ばっかだなぁ。救いの姫さんが救えなくて誰がこの地を救うんだよ」
笑いながら剛毅がその子に返す。
「えー? それはまぁ伝承ではそうなってて、透見が召還したんなら本物の姫様なんだろうけど、でもそれと本人の心の中は別物でしょう? 不安になることくらいはあるわよ、ねぇ?」
最後の台詞はわたしへの問いかけ。
「……うん、そうだね」
そう答えつつ、気が付いた。あの子、ますます剛毅にぺったりとくっついてる。そんでわたしに向けた顔は笑顔だけど、目は笑ってない。
そっか、この子剛毅の事が好きなんだ。
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